紙本墨書帝系図とは ― 南北朝動乱期の貴重な皇室系譜
千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館には、日本の歴史を物語る数多くの貴重な文化財が収蔵されています。その中でも「紙本墨書帝系図(しほんぼくしょていけいず)」は、1371年(建徳2年/応安4年)に制作された皇室の系譜を記録した古文書であり、重要文化財に指定されています。
南北朝時代という日本史上稀有な分裂期に作成されたこの文書は、混乱の時代にあっても皇室の系譜を正確に記録し、後世に伝えようとした人々の努力の結晶といえます。本記事では、この貴重な文化財の魅力と、所蔵する国立歴史民俗博物館の見どころをご紹介いたします。
紙本墨書帝系図の概要
紙本墨書帝系図は、その名が示すとおり、紙(和紙)に墨で書かれた天皇家の系図です。「帝系図」とは天皇の系譜を図式化したもので、歴代天皇の血縁関係や皇位継承の流れを一目で把握できるよう記録されています。
本資料は「古文書(こもんじょ)」に分類されます。古文書とは、過去の時代に作成された文書記録のことで、歴史研究において一次史料として極めて重要な価値を持ちます。特に系図類は、当時の人々がどのように血統や系譜を認識し、記録していたかを知る上で欠かせない資料です。
制作年代は南北朝時代の1371年とされています。この年は、北朝の年号では応安4年、南朝の年号では建徳2年にあたります。二つの年号が並立していたこと自体が、当時の日本が置かれていた特殊な政治状況を物語っています。
重要文化財に指定された理由 ― その歴史的・学術的価値
紙本墨書帝系図が重要文化財に指定されているのには、いくつかの重要な理由があります。
第一に、南北朝時代という特殊な歴史的状況下で作成された史料としての価値です。1336年から1392年まで続いた南北朝の対立は、日本史上唯一、二人の天皇が並立した時代でした。このような政治的混乱期において、皇室の系譜を正確に記録・保存することは、正統性の主張や後世への伝承において極めて重要な意味を持っていました。
第二に、中世日本における文書作成技術と書道文化を伝える貴重な実例としての価値です。墨の濃淡、筆致の特徴、紙の質感など、当時の文書作成の実態を今日に伝える一級の資料といえます。
第三に、系図という形式が持つ学術的重要性です。系図は単なる家系の記録ではなく、当時の人々の血統観念、継承の概念、そして政治的正統性の根拠を示す重要な資料です。帝系図の研究は、日本の皇位継承制度や中世の政治思想を理解する上で欠かせません。
南北朝時代の歴史的背景
紙本墨書帝系図が作成された1371年は、南北朝時代の中期にあたります。この時代を理解することは、本資料の価値をより深く認識する上で重要です。
南北朝時代は、1336年に後醍醐天皇が建武の新政の失敗後、京都を離れて吉野(現在の奈良県)に南朝を開いたことに始まります。一方、京都には足利尊氏に擁立された光明天皇を中心とする北朝が存続し、約56年にわたって二つの朝廷が並立する異常事態が続きました。
この時代、皇位の正統性は最大の政治問題でした。両朝はそれぞれ自らの正統性を主張し、武力による戦いだけでなく、歴史的・系譜的な根拠に基づく論争も繰り広げられました。北畠親房による『神皇正統記』(1339年)のような歴史書が著されたのも、こうした背景があってのことです。
帝系図のような系譜資料は、このような政治的文脈において、皇位継承の正統性を示す証拠として重要な役割を果たしました。1371年という時期に作成された本資料は、南北朝動乱のさなかにあっても、皇室の系譜を正確に記録し続けようとした当時の知識人たちの営みを今に伝えています。
国立歴史民俗博物館について
紙本墨書帝系図を所蔵する国立歴史民俗博物館は、「歴博(れきはく)」の愛称で親しまれている日本を代表する歴史系博物館です。1983年に開館し、歴史学・考古学・民俗学の総合的な研究機関として、日本の歴史と文化を幅広く紹介しています。
佐倉城址の一角に位置する博物館は、約22万点という膨大な収蔵資料を誇り、そのうち約9千点が常時展示されています。展示は第1展示室から第6展示室まであり、先史・古代から現代まで、日本の歴史を時代順に辿ることができます。
実物資料だけでなく、精巧な復元模型やジオラマも多用されており、歴史をビジュアルに、わかりやすく学ぶことができるのが特徴です。洛中洛外図屏風(重要文化財)や宋版史記(国宝)など、数多くの貴重な文化財も収蔵・展示されています。
なお、紙本墨書帝系図を含む古文書類は、保存上の理由から常時展示されているとは限りません。ご覧になりたい場合は、事前に博物館へお問い合わせいただくか、展示スケジュールをご確認されることをお勧めいたします。
周辺の見どころ
国立歴史民俗博物館を訪れる際には、周辺の観光スポットも合わせてお楽しみいただけます。
博物館が立地する佐倉城址公園は、江戸時代の佐倉藩の藩庁が置かれていた歴史ある場所です。城郭建築は現存しませんが、土塁や空堀などの遺構が残り、往時の城の姿を偲ぶことができます。特に春には桜の名所として知られ、花見の季節には多くの人で賑わいます。
また、博物館近くには武家屋敷通りがあり、江戸時代の武士の邸宅が保存・公開されています。当時の武家の暮らしぶりを体感できる貴重なスポットです。
美術愛好家の方には、近隣にあるDIC川村記念美術館もお勧めです。20世紀の西洋美術と日本美術の優れたコレクションを有し、自然豊かな庭園も見どころです(開館状況は事前にご確認ください)。
佐倉の街には、古い街並みや伝統的な商店も残っており、博物館見学と合わせて、歴史情緒あふれる散策をお楽しみいただけます。
Q&A
- 紙本墨書帝系図には具体的に何が記されているのですか?
- 帝系図は、歴代天皇の系譜を図式化した文書です。天皇の名前や在位期間、血縁関係などが記録されており、皇位継承の流れを視覚的に把握できるよう構成されています。中世の人々がどのように皇室の系譜を認識し、記録していたかを知る貴重な資料です。
- 実物を見ることはできますか?
- 紙本墨書帝系図は重要文化財であり、紙という繊細な素材で作られているため、保存上の配慮から常時展示されているわけではありません。企画展や特別展示で公開される場合がありますので、ご覧になりたい場合は事前に博物館へお問い合わせいただくか、公式サイトの展示情報をご確認ください。
- 南北朝時代とはどのような時代ですか?
- 南北朝時代(1336年〜1392年)は、京都の北朝と吉野の南朝という二つの朝廷が並立した時代です。後醍醐天皇の建武の新政失敗後に始まり、約56年間続きました。両朝がそれぞれ正統性を主張し、全国各地で武力衝突が繰り広げられた動乱の時代でした。
- 博物館への海外からのアクセスは便利ですか?
- 成田国際空港から比較的近い立地にあります。京成線で成田空港から京成佐倉駅まで約30分、駅から博物館までは徒歩約15分またはバスで約5分です。東京駅からはJR総武本線快速で佐倉駅まで約60分、そこからバスで約15分です。
- 博物館の見学にはどのくらい時間がかかりますか?
- 国立歴史民俗博物館は6つの展示室からなる大規模な博物館です。すべてをじっくり見学すると半日以上かかることもあります。効率よく回りたい場合は、興味のある時代や分野を絞って見学されることをお勧めします。3〜4時間程度の見学時間を見込んでおくとよいでしょう。
基本情報
| 名称 | 紙本墨書帝系図(しほんぼくしょていけいず) |
|---|---|
| 指定区分 | 重要文化財 |
| 種別 | 古文書 |
| 時代 | 南北朝時代 |
| 制作年 | 1371年(建徳2年/応安4年) |
| 所蔵 | 国立歴史民俗博物館 |
| 所在地 | 〒285-8502 千葉県佐倉市城内町117 |
| 電話番号 | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
| 開館時間 | 9:30〜17:00(3月〜9月)/9:30〜16:30(10月〜2月)※入館は閉館30分前まで |
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月27日〜1月4日) |
| 入館料 | 一般:600円/大学生:250円/高校生以下:無料 |
| アクセス | 京成佐倉駅より徒歩約15分またはバス約5分/JR佐倉駅よりバス約15分 |
参考文献
- 文化財マップ - 紙本墨書帝系図
- https://bunkazai-map.colour-field.jp/cultural-property/D/I/00262
- 国立歴史民俗博物館 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/国立歴史民俗博物館
- 国立歴史民俗博物館 公式サイト
- https://www.rekihaku.ac.jp/
- 国立歴史民俗博物館 アクセス情報
- https://www.rekihaku.ac.jp/information/access/
- 南北朝時代 (日本) - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/南北朝時代_(日本)
最終更新日: 2026.01.28
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