国宝「福岡県平原方形周溝墓出土品」── 伊都国女王が眠る墓の驚異的な副葬品

福岡県糸島市の穏やかな田園風景の中に、日本考古学史上屈指の大発見をもたらした遺跡があります。平原(ひらばる)遺跡——約1,800年前の弥生時代に築かれた方形周溝墓から、日本最大の銅鏡5面を含む計40面もの鏡、美しい勾玉や管玉、ガラスの装身具、鉄刀など、圧倒的な副葬品が出土しました。これらは2006年に一括して国宝に指定され、中国の歴史書『魏志倭人伝』に記された古代王国「伊都国」の栄華を今に伝えています。

発見の経緯 ── みかん畑から現れた古代の宝物

平原遺跡の発見は、まさに偶然の産物でした。1965年(昭和40年)1月、地元農家の井手信英氏がみかんの木を植えるために溝を掘っていたところ、土の中から多数の割れた銅鏡の破片が次々と現れました。この驚くべき発見を受け、考古学者・原田大六氏を中心とした学術調査が行われ、東西約14メートル、南北約12メートルの方形周溝墓が明らかになりました。

墳丘の中央に埋葬された木棺からは、銅鏡40面、鉄素環頭大刀1本、勾玉・管玉・ガラス玉などの大量の装身具が出土。棺の内部には朱(辰砂)がふんだんに撒かれており、古代の葬送儀礼の厳かさを物語っています。これらの出土品は1990年に国の重要文化財に指定された後、2006年6月9日に国宝に昇格しました。

なぜ国宝に指定されたのか ── その比類なき価値

平原方形周溝墓出土品が国宝に指定された理由は、その圧倒的な質と量にあります。

まず、一つの墓から出土した銅鏡の数が40面という記録は、弥生時代の墓としては他に類を見ない数量です。これは被葬者が当時の社会において極めて高い地位にあったことを雄弁に物語っています。

特筆すべきは、40面の銅鏡のうち5面が直径46.5センチメートルもの巨大な内行花文鏡であることです。これは日本で出土した銅鏡としては最大で、その精緻な文様と圧倒的な存在感は見る者を圧倒します。鏡の背面には中心の鈕(ちゅう)から放射状に八つの花弁形の弧文が配され、九重の同心円と約1,500本の弧線が縁部を飾ります。

残る銅鏡は、中国・漢代に製作された方格規矩鏡(TLV鏡)32面と四螭鏡(しちきょう)1面、そして小型の内行花文鏡2面で構成されています。これらの副葬品は、弥生時代後期における日本列島と中国大陸・朝鮮半島との活発な外交関係と文化交流を示す、かけがえのない考古資料です。

伊都国 ── 魏志倭人伝に記された古代王国

平原遺跡の価値を深く理解するには、「伊都国」という古代王国の存在が欠かせません。3世紀に編纂された中国の歴史書『魏志倭人伝』には、倭(日本)の諸国の中で伊都国に「代々王がいた」と記されています。また、中国への使者が必ず立ち寄る外交の要衝であったとも伝えられています。現在の糸島市一帯がこの伊都国に比定されており、平原遺跡の1号墓はまさにその王墓と考えられています。

興味深いことに、この墓の被葬者は女性と推定されています。その根拠は、副葬品に武器がほとんどなく、代わりに勾玉、管玉、耳璫(じとう=古代のイヤリング)といった装身具が圧倒的に多いこと。このことから、被葬者は伊都国の女王ではないかと考えられています。卑弥呼やその一族、あるいは日本神話の天照大神や玉依姫命と結びつける説もあり、古代史のロマンをかき立てています。

見どころ・魅力

日本最大の銅鏡 ── 内行花文鏡

直径46.5cm、重さ約8.4kgの巨大な内行花文鏡は、この出土品の中で最も注目を集める存在です。発掘調査を行った原田大六氏は、この鏡の文様が『御鎮座伝記』に記された「八咫鏡(やたのかがみ)」の特徴と一致することを指摘し、伊勢神宮に伝わる三種の神器の一つとの関連を提唱しました。考古学的な証拠と日本神話が交わる、まさに浪漫溢れる逸品です。

色鮮やかな玉類と装身具

墓からは数百点にのぼる美しい玉類が出土しています。翡翠やメノウの勾玉、円筒形のメノウ管玉によるブレスレットやネックレス、480個以上の濃紺色ガラス小玉、琥珀色のオパール製耳飾りなど、色彩豊かな装身具の数々は、約1,800年前の工芸技術の高さと、大陸との交易の広がりを実感させてくれます。

伊都国歴史博物館 ── 国宝を間近で体感

出土品の実物は、糸島市井原にある伊都国歴史博物館に展示されています。3階の常設展示室では、原寸大の墓の模型とともに、実際の銅鏡や玉類などの国宝を間近で見ることができます。大型内行花文鏡5面のうち4面が当館に常設展示されており(残る1面は九州国立博物館に展示されることがあります)、その圧倒的な大きさと精緻な文様を直接ご覧いただけます。ボランティアガイドによる丁寧な展示解説も好評です。

平原歴史公園 ── 古代王墓の地に立つ

平原遺跡の1号墓は、現在「平原歴史公園」として整備されています。復元された墳丘のほか、出土品を描いた陶壁画や説明板が設置されており、遺跡の雰囲気を肌で感じることができます。また、園内には1737年に建てられた旧藤瀬家住宅(九州最古の現存民家)も移築復元されています。毎年10月にはコスモスが約10万本咲き誇り、地元有志による「平原王墓まつり」も開催されます。

大柱跡と太陽信仰の謎

1号墓の東側には、直径約70cmの柱穴跡が発見されました。ここには高さ20メートルにも及ぶとされる巨大な柱が立てられていたと推定されています。この大柱は墓から見て東南方向の日向(ひなた)峠を指しており、毎年10月20日前後には、まさにこの峠から朝日が昇ります。太陽信仰との関連が指摘されるこの現象は、古代の謎に満ちたロマンを今に伝えています。

周辺情報 ── 糸島を楽しむ

糸島市は近年、福岡県屈指の人気観光地として注目を集めています。歴史探訪の後は、美しい自然やグルメも楽しめます。

  • 桜井二見ヶ浦 ── しめ縄で結ばれた夫婦岩と美しい夕日が有名。「日本の夕陽百選」にも選ばれたフォトスポットです。公園から車で約20分。
  • 雷山千如寺大悲王院 ── 樹齢400年の大カエデで知られる古刹。秋の紅葉シーズンは圧巻の美しさです。
  • 糸島海岸ドライブ ── ヤシの木ブランコ、ロンドンバスカフェなど、SNS映えスポットが点在するシーサイドルートです。
  • JA糸島産直市場「伊都菜彩」 ── 九州最大級の農産物直売所。平原歴史公園から約2km、新鮮な地元の野菜・果物・海産物が手に入ります。
  • カキ小屋(10月〜3月) ── 糸島の冬の名物。漁港沿いに並ぶカキ小屋で、炭火焼きの牡蠣を存分に堪能できます。

Q&A

Q国宝の出土品はどこで見ることができますか?
A出土品の実物は、福岡県糸島市井原の「伊都国歴史博物館」3階常設展示室に展示されています。大型内行花文鏡5面のうち4面をはじめ、勾玉、管玉、鉄刀などの国宝を間近でご覧いただけます。なお、1面は九州国立博物館(太宰府市)で展示されることがあります。2025年10月〜2026年1月は改修工事のため全館休館の予定でしたので、最新情報は公式サイトでご確認ください。
Q博物館へのアクセスは?
A公共交通機関の場合、JR筑肥線「九大学研都市駅」または「周船寺駅」から糸島市コミュニティバス(川原線)に乗車し、「伊都国歴史博物館」バス停下車(約8〜20分)。土日祝日はJR「筑前前原駅」北口からバス(井原山線)も利用可能です。車の場合は西九州自動車道「今宿IC」から約8分。無料駐車場あり(約50〜100台)。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A年間を通じて訪問できますが、特におすすめは10月中旬〜下旬です。平原歴史公園周辺に約10万本のコスモスが咲き誇り、10月20日前後には日向峠から昇る朝日を墓の位置から観賞できます。「平原王墓まつり」も10月に開催されます。春(3〜4月)の桜の季節も、穏やかな気候の中での散策に最適です。
Q平原遺跡の被葬者は本当に卑弥呼なのですか?
A被葬者の特定には至っていませんが、副葬品の特徴(装身具の多さ、武器の少なさ、耳璫の存在)から女性と推定されています。出土土器の編年から2世紀末頃の築造と考えられており、卑弥呼の活躍期(3世紀前半)とはやや時期が異なるとする見解が有力です。ただし、伊都国の女王、卑弥呼の一族、天照大神、玉依姫命など、さまざまな人物に比定する学説があり、活発な議論が続いています。
Q海外からの旅行者でも楽しめますか?
Aはい、十分にお楽しみいただけます。博物館では原寸大の墓の模型や出土品の実物展示があり、視覚的にわかりやすい展示構成です。ボランティアガイドの方に事前に連絡すれば、英語での案内が可能な場合もあります(電話: 092-322-7083)。平原歴史公園は屋外の史跡で自由に見学でき、解説板も設置されています。糸島エリアには海岸やカフェなど観光スポットも多く、歴史と自然を組み合わせた充実した一日を過ごせます。

基本情報

正式名称 福岡県平原方形周溝墓出土品(ふくおかけんひらばるほうけいしゅうこうぼしゅつどひん)
種別 国宝(考古資料)
時代 弥生時代後期〜終末期(2世紀末頃、約1,800年前)
国宝指定日 2006年(平成18年)6月9日
所有者 国(文化庁)
展示場所 糸島市立伊都国歴史博物館(〒819-1582 福岡県糸島市井原916)
開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は翌平日)、12月29日〜1月3日
入館料 一般: 220円 / 高校生: 110円 / 小中学生・65歳以上・障がい者: 無料
電話番号 092-322-7083
遺跡所在地 平原歴史公園(福岡県糸島市有田)── 見学自由・入園無料
主な出土品 銅鏡40面(大型内行花文鏡5面〈直径46.5cm〉を含む)、勾玉・管玉・ガラス玉等の玉類多数、耳璫、鉄素環頭大刀
アクセス JR筑肥線「九大学研都市駅」「周船寺駅」からコミュニティバス約8〜20分、または「筑前前原駅」からバス約15分。車の場合は西九州自動車道「今宿IC」から約8分。

参考文献

福岡県平原方形周溝墓出土品 ── 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/188462
福岡県文化財データベース ── 平原方形周溝墓出土品
https://www.fukuoka-bunkazai.jp/frmDetail.aspx?db=1&id=46
平原遺跡 ── Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/平原遺跡
伊都国歴史博物館 ── Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/伊都国歴史博物館
平原遺跡(ひらばるいせき) ── 糸島市公式ウェブサイト
https://www.city.itoshima.lg.jp/site/bunkazai/hirabaru-iseki.html
伊都国歴史博物館 ── 糸島市観光協会「つなぐ糸島」
https://kanko-itoshima.jp/spot/itokokurekishi/
平原歴史公園 ── 糸島市観光協会「つなぐ糸島」
https://kanko-itoshima.jp/spot/hirabarurekishikouen/
国宝-考古|平原方形周溝墓出土品 ── WANDER 国宝
https://wanderkokuho.com/201-11231/
伊都国歴史博物館の概要 ── 糸島市公式ウェブサイト
https://www.city.itoshima.lg.jp/m043/010/040/040/010/20190911144351.html
伊都国歴史博物館へのアクセス ── 糸島市公式ウェブサイト
https://www.city.itoshima.lg.jp/m043/010/040/060/030/hakubutsukansyuhen.html

最終更新日: 2026.02.17

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