上州白久保のお茶講:中世の闘茶文化を今に伝える群馬の重要無形民俗文化財

群馬県中之条町の山間に佇む白久保集落で、毎年2月に行われる「上州白久保のお茶講」。14世紀に流行した闘茶(茶勝負)の形式を色濃く残すこの行事は、1990年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。白久保天満宮の神事として、お茶の飲み分けを競いながら豊凶を占うこの伝統は、地域の絆と日本の茶文化の奥深さを体感できる、他に類を見ない貴重な文化遺産です。

お茶講とは? ― 茶を飲み分ける伝統行事

「お茶講」とは、近隣の人々が集まり、茶の味と香りを頼りに種類を当てる伝統的な集いです。かつて群馬県吾妻地方の複数の集落で行われていましたが、その多くはすでに消滅しており、現在も継続的に行われているのは白久保集落のみとなっています。

行事の中心は、4種類のブレンド茶の飲み分け競争です。渋茶(煎茶)、甘茶、陳皮(みかんの皮を干したもの)の3つの原料を、焙烙(ほうろく)で丁寧に煎り、茶臼で粉末にします。これらの粉末を決められた配合比で混ぜ合わせ、「一ノ茶」「二ノ茶」「三ノ茶」「客」と名付けられた4種類の茶を作ります。

参加者はまず「とよみ」と呼ばれる見本茶の試飲で4種類の味を覚え、その後7回にわたって出されるお茶がどの種類かを当てていきます。回答は「勝(かつ)」と呼ばれる書記係によって「お茶講連名帳」に記録されます。

神事としてのお茶講 ― 豊凶を占う

お茶講は単なる遊びではなく、白久保天満宮の祭礼における宵祭りとして行われる神事です。競技に先立ち、調合されたお茶は天神様に御供えされます。

結果には吉凶の意味が込められています。全問正解者(「ハナカツギ」=花勝)や全問不正解者(「サカサッパナ」=逆花)が多く出た年は豊作になるといわれています。成功と失敗の両極端がいずれも吉兆を示すというこの解釈には、共同体の楽観的で温かい世界観が表れています。

なぜ重要無形民俗文化財に指定されたのか

上州白久保のお茶講は、1990年3月29日に国の重要無形民俗文化財に指定されました。その価値は複数の観点から認められています。

第一に、14世紀に武士や貴族の間で流行した闘茶の形式を、茶の調合から飲み分け競争に至るまで極めてよく保存している点です。闘茶そのものが日本の文化史から姿を消して久しい中、白久保では生きた伝統として脈々と受け継がれています。

第二に、寛政11年(1799年)に記録された「御茶香覚帳」が現存しており、200年以上前からすでに現在と同様の形式でお茶講が行われていたことが文書で裏付けられています。紙が貴重だった時代、多くの記録は襖の下貼りなどに転用されて散逸しましたが、この一冊が奇跡的に残ったことが指定の決め手となりました。

第三に、吾妻地方でかつて広く行われていたお茶講のほとんどが消滅した中で、白久保の行事は事実上唯一の生きた伝承として、極めて高い希少価値を持っています。

見どころ・魅力

遊び心あふれる仮名と絵入り記録

お茶講の参加者には、行事の間だけ使われる特別な仮名(花、鳥、風、月、金、銀、大豆、蕎麦、葱など)が与えられます。日常の暮らしや自然にちなんだこれらのユーモラスな名前が、祭りの雰囲気を一層楽しいものにしています。

結果発表後、書記係の「勝」が連名帳に成績に応じた押絵を描き込みます。三問正解の「カラカサ」には唐傘、全問正解の「ハナカツギ」には梅の花が描かれるなど、記録そのものが味わい深い民俗芸術として「お茶講の家」に大切に保管されています。

お菓子の景品

各回の正解者には飴やチョコレートなどのお菓子が配られます。全景品を正解者で分け合う仕組みのため、正解者が少ない回ほど一人あたりの取り分が増えるという、なんともユニークで盛り上がる仕掛けになっています。

地域の絆を紡ぐ行事

白久保集落の全16戸が「白久保お茶講保存会」のメンバーとして参加しています。住民は幼い頃から自然にこの行事に親しみ、手順や作法を見様見真似で覚えてきました。行事の後にお酒を飲む宴会がないことも特徴で、これが争いを避け、純粋な楽しみとして長く続いてきた秘訣だといわれています。

お茶講の体験と訪問

本行事は毎年2月24日に、中之条町五反田地区の「お茶講の家」にて白久保天満宮の宵祭りとして行われます。

本番の行事は地域の方々が中心ですが、中之条町観光協会への事前予約により体験参加が可能です。体験では、原料の焙煎から石臼での粉挽き、ブレンド茶の飲み分け競争まで、一連の流れを約1時間半で実際に行うことができます。

海外からの訪問者は、事前に中之条町観光協会へ問い合わせの上、開催日程や言語対応についてご確認ください。

周辺の見どころ

中之条町は「花と湯の町」と呼ばれ、お茶講と合わせて楽しめる観光スポットが豊富に揃っています。

四万温泉:群馬県を代表する温泉地のひとつで、中之条駅からバスで約40分。四万の病を癒すと伝わる名湯と、スタジオジブリ『千と千尋の神隠し』のモデルともいわれる老舗旅館「積善館」が有名です。

沢渡温泉:草津温泉の「上がり湯」として知られる肌に優しい泉質の温泉。歌人・若山牧水が訪れた暮坂峠も近くにあります。

中之条ビエンナーレ:2年に一度開催される国際現代アートの祭典。廃校や空き家、自然の中を展示会場とし、国内外から注目を集めています。

中之条町歴史と民俗の博物館「ミュゼ」:お茶講に関する資料をはじめ、吾妻地方の歴史や民俗に関する展示を楽しめます。

奥四万湖:「四万ブルー」と呼ばれる美しいコバルトブルーの湖面が広がるダム湖。カヌーやハイキング、写真撮影に最適です。

Q&A

Q一般の観光客でもお茶講に参加できますか?
A2月24日の本行事は主に地元の方が対象ですが、中之条町観光協会への事前予約により体験参加が可能です。原料の準備から飲み分け競争まで、一連の流れを体験できます。
Qお茶講のお茶はどんな味がしますか?
A渋茶(煎茶)、甘茶、陳皮(みかんの皮)の3種類をブレンドした4種のお茶は、それぞれ苦味、甘味、柑橘の香りのバランスが異なり、飲み分けは見た目以上に難しく楽しい体験です。
Q白久保へのアクセス方法を教えてください。
AJR吾妻線の中之条駅が最寄り駅です。東京・上野駅から特急「草津」で約2時間。中之条駅からは路線バスまたはタクシーで白久保地区へ向かいます。周辺観光にはレンタカーの利用が便利です。
Qお茶講と温泉を合わせて楽しめますか?
Aはい。中之条町には四万温泉や沢渡温泉など名湯が多数あり、2月のお茶講と冬の温泉旅を組み合わせるのがおすすめです。
Q外国語対応はありますか?
A現時点では英語などの外国語対応は限定的です。訪問前に中之条町観光協会に問い合わせるとともに、翻訳アプリの活用や日本語のわかる方の同行をおすすめします。

基本情報

名称 上州白久保のお茶講(じょうしゅうしらくぼのおちゃこう)
文化財指定 国指定重要無形民俗文化財(1990年3月29日指定)
所在地 群馬県吾妻郡中之条町五反田(白久保地区)
開催日 毎年2月24日(白久保天満宮祭礼 宵祭り)
保護団体 白久保お茶講保存会
体験参加 事前予約制(中之条町観光協会に問い合わせ)
アクセス JR吾妻線 中之条駅下車、路線バスまたはタクシー利用
関連施設 中之条町歴史と民俗の博物館「ミュゼ」

参考文献

上州白久保のお茶講 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/160761
上州白久保のお茶講(じょうしゅうしろくぼのおちゃこう)— 日本伝統文化振興機構(JTCO)
https://jtco.or.jp/bunkakan/?act=detail&c=22&id=109&p=0
「遊ぶお茶」は現代の「講」— ミツカン 水の文化センター
https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no16/04.html
白久保のお茶講 — 中之条町観光協会
https://nakanojo-kanko.jp/events/白久保のお茶講/
お茶講 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/お茶講
白久保のお茶講 — tabi-mag.jp
https://tabi-mag.jp/nakanojyou-ochakou/

最終更新日: 2026.03.07