黒田清右衛門商店外塀|金物の町・三木が誇る商家建築の至宝

兵庫県三木市。鍛冶の音が響き、金属を打つ炎が燃え続けてきたこの町に、江戸時代から続く金物問屋の佇まいが今なお息づいています。黒田清右衛門商店の外塀は、単なる境界線ではありません。それは時代を超えて、三木が日本随一の金物産地として栄えた往時の繁栄を今に伝える、生きた歴史の証なのです。

街道筋を彩る風格ある高塀

黒田清右衛門商店の外塀は、敷地北側の湯の山街道に沿って、店舗兼主屋から内蔵まで約6.5メートルにわたって伸びる高塀です。高さは約3.3メートル。街道と前栽(庭園)を仕切り、店舗・内蔵とともに、この商家の堂々たる「表構え」を形成しています。

壁は伝統的な土塀の技法で築かれ、真壁造りの黒漆喰塗りに腰杉板張りという、商家建築の粋を凝らした仕上げです。屋根は桟瓦葺きで、前栽側には奥行き半間強にも及ぶ銅板平葺きの深い軒が設けられ、腕木と持送り金物によって優美に支えられています。この軒下には、かつて主屋から内蔵へと続く廊下が通っていたと伝えられています。

国登録有形文化財に選ばれた理由

令和元年(2019年)12月5日、黒田清右衛門商店の外塀は、敷地内の全11棟とともに国登録有形文化財(建造物)に登録されました。この登録には、いくつかの重要な理由があります。

まず、この外塀は店舗兼主屋・内蔵とともに屋敷の「表構え」を整え、湯の山街道沿いの良好な歴史的景観を形成している点が高く評価されました。三木の街道沿いには広い間口を持つ屋敷が少なく、街道に面して庭を持つ家は高塀で仕切られているのが特徴ですが、黒田清右衛門商店の外塀はその中でも特に優れた景観要素となっています。

また、現在の外塀は昭和2年(1927年)頃に建て替えられたものと推定されますが、軒が内蔵の軒と連続する設計となっており、江戸時代から続く商家の格式と調和を保ちながら、近代の建築技術を取り入れた貴重な例となっています。明治時代後期の写真には、現在よりも低い外塀が写っており、時代とともに屋敷の威容を高めてきた歴史が窺えます。

黒田家と三木金物の歩み

黒田清右衛門商店を理解するためには、黒田家と三木金物の深いつながりを知る必要があります。

黒田家は古くから苗字を許された旧家であり、宝永4年(1707年)に三木町が下館藩黒田直邦の領地となった際、当時の三兄弟がそれぞれ「桝屋」「作屋」「松屋」と号しました。初代「作屋清右衛門」(1735〜1793年)は明和2年(1765年)に本家から分家独立し、金物問屋を創業。三木金物仲買仲間を結成してその中核を担い、二代目の頃には江戸との直接取引を始めるに至りました。これが三木金物の名声を全国に広めた大きな要因の一つとされています。

三木町は町民自治が許された特異な町であり、惣年寄が町政を担っていましたが、黒田家もその惣年寄を務めるほどの有力町人でした。七代目黒田清右衛門(1885〜1964年)は三木町会議員、美嚢郡会議員、三木町長、兵庫県会議員を歴任し、地域の発展に尽力しました。外塀が建て替えられた昭和2年は、まさにこの七代目が町長を務めていた時期に当たります。

見どころ:商家建築の粋を集めた屋敷構え

外塀とともに国登録有形文化財に登録された黒田清右衛門商店の建造物群は、近世から近代にかけて整備された金物問屋の建物がよく残る、貴重な文化遺産です。

店舗兼主屋は江戸時代末期の建築で、本瓦葺きの屋根を正面側で一段下げ、下屋とともに軒を三段に見せる意匠が特徴的です。下屋の屋根中央には「大鋸(おが)」の看板が据えられており、これは三木金物のシンボルとして広く知られています。正面二階と小屋裏の外壁には黒漆喰が塗られ、虫籠窓(むしこまど)が設けられた風格ある佇まいです。

敷地奥には、味噌蔵・東蔵・東南隅蔵・南蔵・西南隅蔵・西蔵の六つの蔵がコの字に連なり、商品や家財、文書などを収めてきました。特に西蔵は桁行18.3メートルと長大で、商家の繁栄ぶりを物語っています。

また、敷地西側には昭和2年建築の離れがあり、切妻造り2階建ての接客棟と平屋建ての書斎から成ります。七代目が町長時代に賓客をもてなす場として建てられたもので、当主の社会的地位の高さを示しています。

湯の山街道の風情を歩く

黒田清右衛門商店が面する湯の山街道は、かつて姫路と有馬温泉を結んだ歴史ある街道です。羽柴秀吉が三木城攻めの際に何度も作戦行動を起こしたことに由来するとも言われ、江戸時代には参勤交代や西国からの湯治客が往来しました。

この街道を東から歩いてくると、道が緩やかにカーブする場所で、白壁の内蔵が視線を自然に引き寄せるアイストップとなり、黒い外塀と店舗へと視線が導かれます。この計算された街路景観は、三木の商人たちが築き上げた都市美学の結晶と言えるでしょう。

なお、黒田清右衛門商店は現在も金物問屋として営業を続ける現役の商家であり、内部の一般公開は行われていません。しかし、街道から眺める外塀・店舗・蔵の連なりは、江戸時代の商家の風格を十分に感じることができます。

三木|金物の町が歩んだ400年

三木と金物の歴史は、約1500年前、百済から渡来した韓鍛冶が大和鍛冶と技術交流を行ったことに始まると言われています。しかし、現在の金物産業の基礎が築かれたのは、天正6年(1578年)から約2年間にわたる「三木合戦」の後のことでした。

羽柴秀吉による「三木の干殺し」と呼ばれる兵糧攻めで壊滅した城下町の復興のため、各地から大工職人や鍛冶職人が集まりました。復興が一段落すると、大工職人たちは出稼ぎに出向き、持参した道具の評判が広まっていきます。こうして三木は、鋸・鉋・鑿などの大工道具の産地として全国にその名を馳せるようになりました。

現在、「播州三木打刃物」は国の伝統的工芸品に指定されており、プロの職人から愛好家まで、国内外で高い評価を受けています。黒田清右衛門商店は、この三木金物の歴史とともに歩んできた唯一の創業当時から続く金物問屋なのです。

周辺の見どころ

黒田清右衛門商店を訪れたら、ぜひ三木の他の歴史スポットも巡ってみてください。

すぐ近くには国指定史跡の三木城跡があります。美嚢川南岸の台地に築かれたこの城は、播州三大城の一つに数えられた堅城でしたが、天正8年(1580年)、羽柴秀吉の兵糧攻めにより落城。城主・別所長治は城兵の命と引き換えに一族とともに自害しました。本丸跡には「今はただ うらみもあらじ 諸人の いのちにかはる 我身とおもへば」と刻まれた長治公辞世の碑が立ち、毎年5月5日には「別所公春まつり」が開催されています。

三木城跡に隣接する三木市立みき歴史資料館では、三木合戦や三木金物の歴史を無料で学ぶことができます。また、三木市立金物資料館では近世から現代までの大工道具が展示されており、毎月第1日曜日には古式鍛錬の実演も行われています。

お土産には、道の駅みき2階の「金物展示即売館」がおすすめ。市内70社以上の製造メーカーによる約2万点もの金物製品が販売されており、プロ御用達の逸品から普段使いの包丁まで、幅広い品揃えです。

Q&A

Q黒田清右衛門商店の内部は見学できますか?
A黒田清右衛門商店は現在も金物問屋として営業する現役の商家であり、私邸でもあるため、内部の一般公開は行われていません。ただし、国登録有形文化財である外塀・店舗兼主屋・蔵などの外観は、湯の山街道から自由にご覧いただけます。
Q写真撮影におすすめの時間帯は?
A外塀や店舗は北向きのため、午前中の柔らかい光の中で撮影するのがおすすめです。黒漆喰の壁と白壁の蔵のコントラストが美しく映えます。春や秋は気候も穏やかで、街道散策を楽しみながらの撮影に最適です。
Q三木の他の観光スポットと組み合わせるには?
A黒田清右衛門商店は三木市中心部に位置し、三木城跡・みき歴史資料館・湯の山街道の町並みは徒歩圏内です。三木上の丸駅周辺の金物資料館なども含めれば、半日〜1日かけてじっくり三木の歴史と文化を堪能できます。
Q観光ガイドはありますか?
A三木市観光協会では、2週間前までに申し込めば無料でガイドボランティアを派遣しています。三木城跡や街道の歴史など、地元ならではの詳しい解説を聞きながら散策できます。問い合わせ先:三木市観光協会(TEL 0794-83-8400)
Q三木金物のお土産を買うならどこがおすすめ?
A道の駅みき2階の「金物展示即売館」がおすすめです。三木市内の製造メーカー70数社、約2万点の金物製品が揃い、プロ用の大工道具から家庭用の包丁まで幅広い品揃えです。伝統工芸士が作る逸品も手に入ります。

基本情報

名称 黒田清右衛門商店外塀(くろだせいうえもんしょうてん そとべい)
指定区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 令和元年(2019年)12月5日
建築年代 昭和時代前期(昭和2年頃と推定)
規模 全長約6.5m、高さ約3.3m
構造 木造、瓦葺・銅板葺
所有者 株式会社黒田清右衛門商店
所在地 兵庫県三木市本町2丁目980番地、1121番地
アクセス 神戸電鉄粟生線 三木駅または三木上の丸駅から徒歩約10分
駐車場 専用駐車場なし。近隣の公共駐車場またはみき歴史資料館駐車場(台数限定)をご利用ください
問い合わせ 三木市立みき歴史資料館 TEL 0794-82-5060

参考文献

黒田清右衛門商店(国登録文化財) - 三木市ホームページ
https://www.city.miki.lg.jp/site/mikirekishishiryokan/19137.html
黒田清右衛門商店が国登録有形文化財に - アトリエCINQplus
https://at-cinq.com/plus/kuroda-01/
三木金物の歴史 - 三木工業協同組合
https://www.miki-japan.com/history
三木市立金物資料館 - おでかけ三木
https://www.mikishi-kankou.com/culture/555/
三木城跡 - ハートにぐっと北播磨
https://kita-harima.jp/spot/85/
三木市内 史跡めぐり - 道の駅みき
https://mikiyama.co.jp/sightseeing/shiseki

最終更新日: 2026.01.13

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