戸板ホール:金石往還沿いに残る昭和初期の村役場建築

金沢市北西部、歴史ある金石街道沿いに佇む「戸板ホール」は、昭和15年(1940年)に建てられた旧戸板村役場庁舎です。2008年に国の登録有形文化財に指定されたこの建物は、戦前の地方自治の歴史を今に伝える貴重な存在として、静かにその姿を留めています。

兼六園や武家屋敷跡など華やかな観光スポットが注目される金沢において、戸板ホールは知る人ぞ知る歴史的建造物です。大正末期から昭和初期にかけての地方役場建築の典型を今に伝えるこの建物は、金沢の郊外に息づくもうひとつの歴史を物語っています。

戸板村の歴史

戸板村は明治22年(1889年)の町村制施行により、西念新保村、示野村、長田村など18の村が合併して誕生しました。村域は現在の金沢市北西部に位置し、村内はほぼ全域が平坦な平野で、南には犀川が流れていました。

村の中央を貫くように通っていたのが、かつて「宮腰往還」と呼ばれた金石往還(現在の石川県道17号金沢港線)です。この道は元和2年(1616年)に加賀藩3代目藩主・前田利常が整備したもので、金沢城下西端の広岡と港町・宮腰(現在の金石)を一直線に結んでいました。利常公が金沢城から見下ろした時、かがり火が一直線上になるように縄を張って道を引いたという逸話が残されています。

江戸時代、海運が物流の中心だった時代において、宮腰は加賀藩の外港として重要な役割を果たしました。東北から木材、能登から塩が船で運ばれ、加賀からは米が積み出されるなど、この往還は城下の人々にとって「生命線」ともいえる存在でした。

昭和18年(1943年)10月1日、戸板村は金沢市に編入されました。その後、村役場庁舎は昭和27年から昭和60年まで戸板公民館として使用され、地域住民の集いの場として親しまれました。

建築的特徴と意匠

戸板ホールは、大正末期から昭和初期にかけての地方役場建築の典型的な姿を今に伝えています。和洋折衷の意匠を取り入れながらも、実用的で威厳のある佇まいは、当時の公共建築に求められた理想像を体現しています。

建物の主な特徴は以下の通りです。

  • 構造:木造2階建、寄棟造妻入
  • 屋根:日本瓦葺き
  • 建築面積:212平方メートル
  • 外壁:鎧下見板張り(白色)
  • 玄関ポーチ:モルタル仕上げ(柱・壁ともに)
  • 窓:矩形窓を多数配置
  • 背面:下屋を付設

特に注目すべきは、外壁の鎧下見板張りと玄関ポーチのモルタル仕上げの対比です。建物全体は伝統的な日本の木造建築技法で造られていますが、正面玄関部分のみ柱や壁をモルタルで仕上げることで、西洋建築の影響を受けた威厳ある外観を演出しています。この和洋折衷の意匠こそが、戸板ホールの外観を特徴づける最大の見どころといえるでしょう。

登録有形文化財に指定された理由

平成20年(2008年)4月18日、戸板ホールは国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。戸板地区の建造物が国登録有形文化財に指定されたのは、これが初めてのことでした。

文化財としての価値が認められた主な理由は以下の点です。

  • 歴史的価値:戦前の地方行政の姿を伝える貴重な村役場建築として、地域史を物語る重要な証人となっています。
  • 建築的価値:大正末期から昭和初期にかけての典型的な地方役場建築の様式を良好な状態で保存しています。
  • 地域的価値:金沢旧城下からその外港の金石へ通じる歴史的街道沿いに立地し、交通の要衝としての地域の歴史を物語っています。
  • 保存状態:昭和36年(1961年)と平成19年(2007年)に改修が行われましたが、2007年の改修では、アルミサッシを木製建具に入れ替えるなど、建築当時の意匠に外観を復元する工事が施されました。

現在の戸板ホール

現在、戸板ホールは家具・インテリアを扱う店舗として活用されています。歴史的建造物に新たな命を吹き込みながら、建築遺産としての価値を保存するこの取り組みは、文化財の活用事例としても注目されています。

建物は現在の石川県道17号線(金石街道)に北面して建っています。かつて松並木が続いていたというこの街道は、現在では片側3車線の広い道路となっていますが、戸板ホールの佇まいは、かつての宮腰往還の面影を今に伝えています。

周辺情報・観光スポット

戸板ホールを訪れた際には、周辺の歴史的なエリアも併せて散策されることをおすすめします。

  • 金石地区:北西に位置する歴史ある港町。北前船の寄港地として栄えた面影が残り、「こまちなみ保存区域」にも指定されています。昔ながらの狭い路地や板塀の町家が連なり、ノスタルジックな雰囲気を楽しめます。
  • 銭屋五兵衛記念館:金石にある記念館。加賀藩時代に北前船を操り、加賀の豪商として名を馳せた銭屋五兵衛の生涯を紹介しています。
  • 大野地区:金石に隣接するエリア。醤油の五大産地のひとつとして知られ、歴史ある醤油蔵を利用したカフェやショップが人気です。
  • 金沢港クルーズターミナル:2020年にオープンした現代的な施設。かつて北前船が行き交った港に、今では豪華客船が寄港します。
  • 金沢駅:東へ約2〜3km。北陸新幹線で首都圏からのアクセスも便利です。

Q&A

Q戸板ホールはいつ建てられましたか?また、もともと何の建物でしたか?
A戸板ホールは昭和15年(1940年)に竣工しました。もともとは石川郡戸板村の役場庁舎として建てられました。昭和18年に戸板村が金沢市に編入された後は、昭和27年から昭和60年まで戸板公民館として使用されていました。
Q戸板ホールの中に入ることはできますか?
Aはい、現在は家具・インテリアを扱う店舗として営業しているため、営業時間内であれば内部を見学することができます。歴史的な建物の雰囲気を感じながら、ショッピングを楽しむことができます。
Q戸板ホールの建築的な見どころは何ですか?
A最大の見どころは、和洋折衷の意匠です。外壁は伝統的な鎧下見板張り(白色)ですが、正面の玄関ポーチ部分のみ柱や壁がモルタル仕上げとなっており、洋風の雰囲気を醸し出しています。この対比が建物の外観を特徴づけています。
Q金沢駅から戸板ホールへのアクセス方法を教えてください。
A戸板ホールは金沢市二口町に位置し、金沢駅から北西へ約2〜3kmの距離にあります。金石方面行きの路線バスを利用するか、タクシーで約10分程度でアクセスできます。金石街道(県道17号線)沿いにあります。
Q金石街道(金石往還)とはどのような道ですか?
A金石街道は、元和2年(1616年)に加賀藩3代藩主・前田利常が整備した歴史ある道路です。金沢城下と外港・宮腰(現在の金石)を一直線に結び、「宮腰往還」とも呼ばれていました。江戸時代には物資輸送の重要な幹線として、城下の経済を支えていました。現在は石川県道17号金沢港線として整備されています。

基本情報

名称 戸板ホール(旧戸板村役場庁舎)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)/平成20年(2008年)4月18日登録
竣工 昭和15年(1940年)
改修 昭和36年(1961年)、平成19年(2007年)
構造 木造2階建、寄棟造妻入、瓦葺
建築面積 212平方メートル
所在地 石川県金沢市二口町ロ17
アクセス JR金沢駅より北西へ約2〜3km、石川県道17号線(金石街道)沿い

参考文献

文化遺産オンライン - 戸板ホール(旧戸板村役場庁舎)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/183236
金沢市戸板公民館ブログ - 戸板ホールが国登録有形文化財に
https://toitakoumi.exblog.jp/8449468
Wikipedia - 戸板村
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%B8%E6%9D%BF%E6%9D%91
Wikipedia - 石川県道17号金沢港線
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%B7%9D%E7%9C%8C%E9%81%9317%E5%8F%B7%E9%87%91%E6%B2%A2%E6%B8%AF%E7%B7%9A
金沢市例規集 - 隣接町村の合併
https://www.city.kanazawa.ishikawa.jp/reiki/reiki_honbun/a400RG00000002.html

最終更新日: 2026.01.02

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