発生地 ― 1959年に天然記念物

志津川のオキチモズク発生地は、熊本県阿蘇郡南小国町にある天然記念物で、1959年(昭和34年)7月1日に指定された。種別は史跡名勝天然記念物である。

指定されているのは生物そのものではなく、それが生じる場所である。名称も発生地とされる。

管理団体名の欄には、南小国町(昭37・5・18)とあり、1962年5月18日にあたる。前に扱った佐敷城跡や阿蘇の文化的景観では管理団体の欄が空だったが、本件は町の名と、その団体が指定された日が記録されている。

1944年の記録は文語体で書かれている

この物件と対になる記録がある。愛媛県東温市吉久のオキチモズク発生地で、1944年(昭和19年)6月26日の指定である。

その解説文が、本件と大きく違う。オキチモズクは淡水産の珍奇なる紅藻類の一種なり本発生地は日本に於て最初に発見せられたる處にして且オキチモズクの分布の北限に当る、とある。

文語体である。「なり」「せられたる」「して且」といった語法が使われている。

本件の解説はこうである。オキチモズクはわが国淡水産の紅藻類の一種でその産地は極めて限られている、と口語体で書かれる。

1944年と1959年で15年の差がある。同じ制度の記録でありながら、指定の時期によって文体そのものが違う。ここまで「新しい指定ほど記録が詳しい」傾向を見てきたが、詳しさだけでなく書き方も変わっている。

生物の名が、発見地の地名から来ている

愛媛の記録は、そこが最初の発見地であることを記す。日本に於て最初に発見せられたる處、とある。

本件の記録も、最初に発見された愛媛県下お吉泉の発生地とともに、と記す。お吉泉という地名が出てくる。

オキチモズクという名は、この地名から来ている。生物の名が、最初に見つかった場所の名を負っている。

そしてその発見地そのものが天然記念物に指定されている。名の由来になった場所が、名を負った生物のゆえに保護されている。

喪乱帖は本文の冒頭語から名を取り、和漢朗詠集(雲紙)は料紙の名から名を取った。本件は、生物の名を介して地名が二重に働いている。

二つの発生地が、互いを引き合っている

記録どうしの関係にも注目したい。

本件の記録は、最初に発見された愛媛県下お吉泉の発生地とともにオキチモズクの産地として学術上貴重である、と結ぶ。愛媛の記録を引いて、自らの価値を述べている。

愛媛の記録は、そこが最初の発見地であり、分布の北限に当たると記す。こちらは熊本に触れない。1944年の時点で熊本はまだ指定されていない。

後から指定された側が、先に指定された側を引く形になっている。五重塔初重壁画が平等院鳳凰堂のそれと比較され、京都国立博物館の四季山水図巻が山水長巻を基準に説明されたのと同じ型である。

なお旧来の記述に「日本に3箇所しかない」とするものが見られるが、文化庁の記録に産地の数は記されていない。極めて限られている、とあるのみである。本稿はこの数字を記さない。

訪問

所在は熊本県阿蘇郡南小国町である。文化庁は範囲を、志津川のうち満願寺温泉の下流一帯、と記す。

オキチモズクは河床の石に着生している、とある。川底の石に付いて育つ。

生きた藻類が対象であるため、季節や水量によって見え方が変わる。建物や美術品のような公開・非公開の別はない。

河川であり、周辺には温泉と生活の場がある。立ち入りには配慮が要る。訪問前に町の案内で確認したい。

Q&A

Q志津川のオキチモズク発生地はいつ指定されましたか。
A1959年(昭和34年)7月1日です。種別は史跡名勝天然記念物、所在は熊本県阿蘇郡南小国町で、管理団体は南小国町で、1962年(昭和37年)5月18日に指定とされます。
Qなぜオキチモズクという名なのですか。
A最初に発見された愛媛県のお吉泉という地名に由来します。文化庁は本件の解説で「最初に発見された愛媛県下お吉泉の発生地とともに」と記し、その発見地自体も天然記念物に指定されています。
Q愛媛の記録と文体が違うのですか。
A違います。1944年(昭和19年)指定の愛媛の解説は「淡水産の珍奇なる紅藻類の一種なり」と文語体で書かれ、1959年指定の本件は口語体です。指定の時期によって文体そのものが違います。
Q産地はいくつありますか。
A文化庁の記録に数は記されていません。「その産地は極めて限られている」とあるのみです。旧来の記述に日本に3箇所とするものが見られますが、本稿はこの数字を記していません。
Qどこで見られるのですか。
A文化庁は範囲を「志津川のうち満願寺温泉の下流一帯」とし、「オキチモズクは河床の石に着生している」と記します。川底の石に付いて育つため、季節や水量によって見え方が変わります。

基本情報

名称志津川のオキチモズク発生地(しづがわのおきちもずくはっせいち)
所在地熊本県阿蘇郡南小国町
指定区分史跡名勝天然記念物(天然記念物)/愛媛県東温市のオキチモズク発生地は別の物件
指定年1959年(昭和34年)7月1日 指定
員数員数の欄はない
寸法文化庁は寸法を記していない。範囲は志津川のうち満願寺温泉の下流一帯とされ、オキチモズクは河床の石に着生する
所有者文化庁の記録では所有者欄は空欄。管理団体は南小国町で、1962年5月18日に指定されている
公開状況河川であり公開・非公開の別はない。周辺に温泉と生活の場があり、立ち入りには配慮が要る

参考文献

文化遺産オンライン 志津川のオキチモズク発生地
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/139684
文化遺産オンライン オキチモズク発生地(愛媛県東温市)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/139434
南小国町 志津川
https://www.town.minamioguni.lg.jp/kankou/manganji-ougi/shizugawa.html
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/

最終更新日: 2026.09.05