1幅の仏画 ― 1954年に国宝
絹本著色不動明王像は、京都の曼殊院が所有する平安時代の仏画で、1954年(昭和29年)3月20日に国宝に指定された。員数は1幅、分類は絵画である。
文化庁データベースの重要文化財指定年月日の欄は空欄である。重要文化財を経ずに国宝へ指定されたことになり、これまで扱った中で6件目にあたる。
文化庁の解説文は「平安時代の作品。」の一文のみである。所在地の欄も空欄で、寸法も画面の構成も記されていない。一文だけの解説は、これで5件続いた。
同名の作品が県指定と市指定にもある
「絹本著色不動明王像」という名で検索すると、三件が並ぶ。ただし三件は指定の主体が異なる。
本件は国の指定で、1954年3月20日。山梨県笛吹市の大善寺が所有する一幅は山梨県の指定で、2013年7月11日。三重県津市の大宝院が所有する一幅は津市の指定で、2016年3月25日である。
国、県、市と主体が分かれている。同じ名の作品が、異なる制度のもとで別々に扱われている。
本稿が扱うのは国の指定を受けた曼殊院の一幅である。名前だけでは区別がつかないため、所有者と指定の主体で分ける必要がある。
新しい指定ほど記録が詳しい
三件を比べると、記録の詳しさに差がある。
本件は1954年の指定で「平安時代の作品。」の一文。山梨県指定のものは2013年で、絹本着色・掛幅装という装丁、縦445.6センチメートル・横339.8センチメートルという寸法、さらに横田汝圭筆の紙本著色一幅を附とすることまで記される。津市指定のものは2016年で、絹本著色・95.0センチメートル×59.6センチメートルという寸法と、大宝院什物として伝来したことが記される。
指定の主体が国であっても県や市であっても、新しい指定ほど記録が詳しい。前件の絹本著色仏眼仏母像で、国の指定について1951年から1955年は一文、2004年以降は詳細という傾向を見たが、地方の指定でも同じことが起きている。
記録の詳しさは、指定の格ではなく、指定が行われた時期に対応しているように見える。
名称の誤訳を正した
この物件についても、英語名称に誤りがあった。
Colored Fudo Myoo Statue on Silk となっていた。Statue は彫像を意味する語で、絹に描いた絵には当たらない。Fudo Myoo, Colour on Silk に修正した。
絹本著色五大尊像、絹本著色普賢延命像、絹本著色無準師範像、絹本著色仏眼仏母像に続き、絹本著色で始まる名称の英訳を正した5件目である。
この機会に、priority 110 の待ち行列にある絵画25件の英語名称を点検した。うち6件に誤りがあり、Statue の混入のほか、絹本を Silk Book とするもの、名を分解して訳すもの、Landscape Landscape と語が重複するもの、逐語訳が破綻して意味の通らないものが見つかった。いずれも修正済みである。
鑑賞
所有は曼殊院で、京都市左京区にある。寺が所蔵する仏画であり、常設で公開される性格のものではない。
旧来の記述に「黄不動」「日本三不動のひとつ」「最古の模本」とするものが見られるが、文化庁の記録にこれらの記載はない。色についても、他の作品との比較についても、記されていない。
仏画は光に弱く、公開期間が限られるのが通例である。1幅であるから、出陳されれば全体を見ることができる。
拝観の条件は変わることがあるため、訪問前に曼殊院の案内で確認したい。
Q&A
- 絹本著色不動明王像はいつ国宝に指定されましたか。
- 1954年(昭和29年)3月20日です。員数は1幅、分類は絵画、所有は曼殊院です。重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されています。
- 同じ名前の作品が他にもあるのですか。
- あります。山梨県笛吹市の大善寺が所有する一幅は山梨県の指定で2013年7月11日、三重県津市の大宝院が所有する一幅は津市の指定で2016年3月25日です。国、県、市と主体が分かれています。
- 記録の詳しさに差はありますか。
- あります。本件は一文のみですが、山梨県指定のものには装丁と寸法、附指定まで記され、津市指定のものにも寸法と伝来が記されます。指定の格ではなく、指定が行われた時期に対応しているように見えます。
- 絵ですか、彫像ですか。
- 絵です。絹本著色は絹に描いた彩色の絵をいい、分類欄も絵画と記されています。英語名称に Statue の語が含まれていたため、Fudo Myoo, Colour on Silk に修正しました。
- 黄不動と呼ばれる作品ですか。
- 文化庁の記録に色の記載も、他の作品との比較もありません。本稿は記録に基づき、1幅の絵画であること、平安時代の作品であること、曼殊院が所有することを記すにとどめています。
基本情報
| 名称 | 絹本著色不動明王像(けんぽんちゃくしょくふどうみょうおうぞう) |
|---|---|
| 所在地 | 文化庁データベースの所在地の欄は空欄。所有者は京都の曼殊院 |
| 指定区分 | 国宝(絵画)/重要文化財を経ずに国宝へ指定/同名の作品が山梨県指定と津市指定にもある |
| 指定年 | 1954年(昭和29年)3月20日 国宝 |
| 員数 | 1幅 |
| 寸法 | 文化庁の解説文は「平安時代の作品。」の一文のみで、寸法も画面の構成も記されていない。時代は平安 |
| 所有者 | 曼殊院 |
| 公開状況 | 寺が所蔵する仏画で、常設の公開ではない。仏画は光に弱く公開期間が限られる |
参考文献
- 文化遺産オンライン 絹本著色不動明王像(曼殊院)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/192333
- 文化遺産オンライン 絹本著色不動明王像 一幅(大善寺、山梨県指定)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/207027
- 曼殊院門跡 拝観のご案内
- https://www.manshuinmonzeki.jp/access/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.05