聚光院庭園:茶の湯と禅の美が出会う場所

京都・紫野の大徳寺境内に静かに佇む聚光院。その方丈南側に広がる「百積の庭(ひゃくせきのにわ)」は、茶聖・千利休が作庭したと伝わる枯山水庭園であり、国の名勝に指定されています。通常は非公開というベールに包まれたこの庭園は、茶道を志す方々にとってまさに聖地ともいえる特別な場所です。

表千家、裏千家、武者小路千家の茶道三千家の菩提所として、利休の墓を中心に歴代宗匠の墓所が並ぶ聚光院。その庭園には、利休が追求した「侘び」の精神が凝縮されており、訪れる者の心を静かに、そして深く揺さぶります。

聚光院の歴史:戦国武将と茶聖の物語

聚光院は永禄9年(1566年)、戦国武将・三好義継が養父・三好長慶の菩提を弔うために創建しました。寺名の「聚光院」は、長慶の法名「聚光院殿前匠作眠室進近大禅定門」に由来しています。この創建の前年、義継は永禄の変で室町幕府13代将軍・足利義輝を攻め滅ぼしており、その激動の時代を背景に、父への追善供養としてこの塔頭が建てられました。

開山は大徳寺第107世住職の笑嶺宗訢(しょうれいそうきん)禅師。笑嶺和尚は千利休に禅の道を教えた師でもありました。利休は和尚に深く参禅し、やがて聚光院を自らの菩提寺と定めます。以来、利休の流れを汲む茶道三千家が代々の墓所としてこの地を守り続けてきたのです。

名勝指定の理由:なぜ文化財として価値があるのか

聚光院庭園が昭和33年(1958年)に国の名勝に指定されたのは、桃山時代の方丈庭園として意匠をよく残し、この時代の枯山水庭園の特徴を顕著に示しているためです。約50坪(約165平方メートル)という限られた空間の中に、卓越した構成美が凝縮されています。

方丈の南面に広がる平庭形式の庭園は、生垣を背景として、その手前に石組を東西二群に分けて直線上に配置しています。中央には石橋(いしばし)が架けられ、庭園を象徴的に二分しています。使用されている石は小ぶりながらも、要所に立石を据えることで景観に変化を与え、静けさの中にも動きを感じさせる構成となっています。

特筆すべきは、この庭園が狩野永徳の下絵をもとに千利休が作庭したという伝承です。永徳が手がけた方丈室中の襖絵「花鳥図」と庭園西側の石組みが視覚的に呼応するように設計されており、絵画と庭園が一体となった空間美を創出しています。このような内外の調和は、日本庭園の中でも稀有な例といえるでしょう。

見どころと魅力

絵画と庭園の対話

聚光院庭園の最大の魅力は、国宝に指定された狩野永徳・松栄父子の障壁画との視覚的な連続性にあります。方丈室中を飾る「花鳥図」の東面と、庭園西側の石組みは、あたかも絵の世界が庭へと流れ出るかのような配置となっています。襖を開け放った時、室内の華やかな金碧画と、外の静謐な枯山水が織りなすコントラストは、まさに息を呑む美しさです。

白砂から苔庭へ:時の移ろい

明治時代中期頃の記録によると、この庭園には元々白砂が敷かれていたとされています。現在は一面の苔に覆われ、その姿は創建当時とは異なりますが、数百年の歳月が育んだ苔の緑は、庭園に深い奥行きと静けさを与えています。白砂の頃の凛とした緊張感とは異なる、柔らかな包容力を湛えた空間へと変化を遂げました。

利休お手植えの沙羅の木

庭園の西側には、千利休が自ら植えたと伝わる沙羅の木(娑羅双樹)が立っています。現在の木は4代目とされますが、利休から続く命の連なりを今に伝えています。沙羅双樹は、釈迦が入滅された場所に生えていたとされる聖なる木。『平家物語』冒頭の「沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす」という一節を思い起こさせ、庭園に深い仏教的意味を添えています。

重要文化財の茶室:閑隠席と枡床席

庭園に隣接して、二つの重要文化財茶室が残されています。「閑隠席(かんいんせき)」は、千利休150回忌にあたる寛保元年(1741年)に、表千家7代・如心斎が寄進したもの。三畳という極めて狭い空間で、明かりが極度に制限され、西日の頃にしか陽が入らないほどの暗さです。天井は一段低くなった落天井とし、点前座を下げることで客座を上段に見せる工夫がなされています。利休の精神を受け継ぐ、緊張感に満ちた侘び茶室です。

「枡床席(ますどこせき)」は閑隠席から約70年後に建てられた四畳半の茶室。半畳を踏込み式の正方形(枡形)の床の間としたことからこの名があります。表千家6代・覚々斎好みと伝わり、閑隠席に比べて明るく開放的な設えが特徴です。二つの茶室を見比べることで、茶の湯の多様な表現を体感できます。

拝観について:貴重な特別公開の機会

聚光院は通常非公開の塔頭であり、定期的に行われる特別公開の機会にのみ拝観が可能です。特別公開では、方丈の高精細複製障壁画、庭園、茶室などを、スタッフの案内付きで拝観できます。

特に注目すべきは「国宝里帰り」と銘打った特別展です。通常は京都国立博物館に寄託されている狩野永徳・松栄の国宝障壁画46面が聚光院に戻り、創建当時の姿で公開されます。2016年の里帰り展には全国から約10万人が訪れ、大きな話題となりました。

また、毎月28日は千利休の月命日にあたり、三千家が輪番で月次法要を営んでいます。茶道を嗜む方であれば、この法要に参列し、歴史ある茶室での呈茶を体験することも可能です(表千家は1月・4月・7月・10月、裏千家は2月・5月・11月、武者小路千家は3月・6月・9月・12月を担当)。

特別公開の情報は「京都春秋」のホームページで確認できます。予約優先制のため、早めの予約をお勧めいたします。

周辺情報:大徳寺と紫野を歩く

聚光院を訪れたら、大徳寺境内の他の塔頭も巡ってみてはいかがでしょうか。常時拝観可能な塔頭として、龍源院、瑞峯院、大仙院、高桐院(現在は修復のため拝観休止中の場合あり)があり、それぞれに個性的な庭園や建築を楽しめます。

大徳寺の北側に鎮座する今宮神社は、「玉の輿」のご利益で知られる神社です。境内には叩いて撫でて持ち上げる「阿呆賢さん(おもかる石)」があり、参拝者に人気です。東門前の参道には、平安時代から続く「一文字屋和輔(一和)」と江戸時代創業の「かざりや」という二軒のあぶり餅屋が向かい合って営業しています。炭火で香ばしく焼いた餅に白味噌だれをかけたあぶり餅は、病気平癒・厄除けのご利益があるとされる名物です。

その他、織田信長を祀る建勲神社、北野天満宮、金閣寺なども比較的近く、京都の歴史と文化を存分に堪能できるエリアです。

Q&A

Q聚光院庭園はいつ拝観できますか?
A聚光院は通常非公開であり、定期的に行われる特別公開期間のみ拝観可能です。特別公開は数ヶ月間にわたって実施されることが多く、予約優先制となっています。最新の公開情報は「京都春秋」の公式ウェブサイトでご確認ください。なお、特別公開期間中でも法要等により拝観休止日がある場合があります。
Q千利休とのゆかりについて教えてください
A聚光院の開祖・笑嶺宗訢禅師は千利休に禅を教えた師です。利休は和尚に参禅し、檀家となって多くの資財を寄せ、やがて聚光院を自らの菩提寺としました。境内には利休の墓を中心に茶道三千家歴代の墓所があり、毎月28日には三千家輪番で月次法要が営まれています。庭園は狩野永徳の下絵をもとに利休が作庭したと伝わり、西側の沙羅の木も利休お手植えの4代目とされています。
Q国宝の障壁画は見られますか?
A狩野永徳・松栄による国宝障壁画46面は、通常は京都国立博物館に寄託されています。聚光院には高精細複製画が展示されています。ただし、「国宝里帰り」と銘打った特別展の際には、実物が聚光院に戻り公開されます。本物を創建当時の空間で鑑賞できる貴重な機会ですので、ぜひ公開情報をチェックしてください。
Q写真撮影はできますか?
A方丈内部や茶室での写真撮影は、文化財保護と静謐な雰囲気を守るため、原則として禁止されています。スタッフの案内によるツアー形式での拝観となりますので、指示に従ってください。外観の一部は撮影可能な場合もありますが、その時々の方針に従ってください。
Q京都駅からのアクセス方法は?
A地下鉄とバスの乗り継ぎが便利です。京都駅から地下鉄烏丸線で北大路駅まで約13分、北大路バスターミナルから市バス1・101・102・204・205・206系統などで「大徳寺前」下車、徒歩約7分です。聚光院は大徳寺境内の北寄りに位置しています。バスのみの場合は約1時間かかりますので、地下鉄併用をお勧めします。

基本情報

名称 聚光院(じゅこういん)
庭園名 聚光院庭園(百積の庭・ひゃくせきのにわ)
文化財指定 国指定名勝(昭和33年6月12日指定)
庭園面積 約577㎡(約50坪)
庭園様式 枯山水・平庭式
作庭 千利休作庭と伝わる(狩野永徳の下絵による)
創建 永禄9年(1566年)
開基 三好義継
開山 笑嶺宗訢(大徳寺第107世住職)
宗派 臨済宗大徳寺派
所在地 京都府京都市北区紫野大徳寺町58
アクセス 市バス「大徳寺前」下車徒歩約7分
拝観 通常非公開(特別公開期間のみ)
拝観料(参考) 大人2,000円程度(公開内容により異なる)
お問い合わせ 京都春秋(075-231-7015)

参考文献

文化遺産データベース - 聚光院庭園(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/163131
聚光院 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/聚光院
大徳寺 聚光院|そうだ 京都、行こう。
https://souda-kyoto.jp/guide/spot/daitokuji-jukoin.html
5年半ぶりの国宝里帰り。「大徳寺 聚光院」特別公開の見どころをチェック!|そうだ 京都、行こう。
https://souda-kyoto.jp/blog/01127.html
茶聖 千利休 生誕500年!大徳寺にある利休ゆかりの地をご紹介!(京都春秋プレスリリース)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000063967.html
大徳寺聚光院 国宝里帰り 特別公開|京都市公式 京都観光Navi
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=6900
聚光院 京都通百科事典
https://www.kyototuu.jp/Temple/JyukouIn.html
【京都歴史探訪】生誕500年・千利休ゆかりの地を訪ねて - KYOTO SIDE
https://www.kyotoside.jp/entry/20221013/
【和の伝統文化】利休忌月次法要 於 大徳寺聚光院 - 京都芸術大学
https://www.kyoto-art.ac.jp/t-blog/?p=117510

最終更新日: 2026.01.02

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