1口の太刀 ― 1950年に重要文化財
太刀〈銘備州長船師光/応永九年(以下不明)〉は、京都府の北野天満宮が所有する室町時代の工芸品で、1950年(昭和25年)8月29日に重要文化財に指定された。員数は1口、指定番号は01363である。
作者は備州長船師光と記録されている。年代は応永9年、西暦では1402年である。
文化庁の解説文は「室町時代の作品。」の一文のみである。一文だけの解説は、これで13件目となる。
名称が銘文そのものである
この物件の名称は、刀に刻まれた銘文をそのまま写している。
銘備州長船師光/応永九年(以下不明)。前半が作者名、後半が年紀にあたる。
ここまで扱った絵画では、名称の山括弧に作者と形状が入っていた。紙本金地著色松に草花図はスラッシュの前が空で作者不記載を示し、絹本著色一遍上人絵伝〈法眼円伊筆〉は作者が入っていた。
刀剣の場合、山括弧に入るのは銘文である。誰が作ったかも、いつ作ったかも、刀そのものに刻まれている。名称はそれを転記している。
作者欄にも備州長船師光とあり、名称と一致する。銘があるため、作者が確定している。
「以下不明」が名称に入っている
注目すべきは、名称の末尾である。
応永九年(以下不明)とある。応永九年までは読めるが、その先が読めない。読めないことが、名称そのものに書き込まれている。
紙本墨画五部心観は名称に「巻初を欠く」とあり、紙本著色花下遊楽図は「右隻の二扇を欠く」とあった。どちらも物が失われている。
本件は違う。刀身は欠けていない。刻まれた文字が読めないだけである。物の欠損ではなく、読み取りの限界が名称に記されている。
年紀は通常、年に続けて月日が刻まれる。関連物件の太刀〈銘備州長船盛光/応永廿三年十二月日〉のように、月日まで記されるのが普通である。本件は年までしか読めない。
読めない箇所の表し方が二通りある
関連物件を見ると、読めない部分の書き方に別の型がある。
太刀〈銘備州長船(以下不明)(伝師光作)/明徳□年□〉という物件がある。こちらは□を使う。
□は一文字が読めないことを示す。明徳□年□とあれば、明徳の何年かが分からず、その先の一文字も分からないという意味になる。
一方、本件の(以下不明)は、そこから先がまとめて読めないことを示す。一文字ずつ数えられる場合は□、数えられない場合は(以下不明)と、書き分けられている。
その物件はさらに(伝師光作)とも記す。銘の作者名部分が読めないため、師光の作と伝えられるという扱いになっている。本件は師光の名が読めるため、伝が付かない。
月まで違えば別の物件になる
関連物件には、同じ作者の刀が二口並ぶ。
太刀〈銘備州長船盛光/応永廿三年十二月日/〉と、太刀〈銘備州長船盛光/応永廿三年八月日〉である。
作者も年も同じで、月だけが違う。十二月と八月である。それぞれ別の物件として記録されている。
銘に月日まで刻まれるからこそ、同じ年に作られた刀を区別できる。名称が銘文の転記であることの効果がここに現れる。
所有は北野天満宮で、京都府にある。神社が所蔵する太刀であり、常設で公開される性格のものではない。展示の予定は変わることがあるため、訪問前に確認したい。
Q&A
- この太刀はいつ指定されましたか。
- 1950年(昭和25年)8月29日に重要文化財に指定されました。員数は1口、指定番号は01363、所有は京都府の北野天満宮です。年代は応永9年、西暦1402年です。
- 名称が長いのはなぜですか。
- 名称が刀に刻まれた銘文をそのまま写しているためです。前半の備州長船師光が作者名、後半の応永九年が年紀にあたります。作者欄にも同じ名が記録されています。
- 「以下不明」とは何ですか。
- 応永九年までは読めるが、その先が読めないことを示します。刀身が欠けているのではなく、刻まれた文字が読めないという意味です。読み取りの限界が名称に書き込まれています。
- 他の書き方もあるのですか。
- あります。太刀〈銘備州長船(以下不明)(伝師光作)/明徳□年□〉という物件は□を使います。一文字ずつ数えられる場合は□、数えられない場合は(以下不明)と書き分けられています。
- 同じ作者の刀は他にもありますか。
- 関連物件に太刀〈銘備州長船盛光/応永廿三年十二月日〉と〈銘備州長船盛光/応永廿三年八月日〉があります。作者も年も同じで月だけが違い、それぞれ別の物件として記録されています。
基本情報
| 名称 | 太刀〈銘備州長船師光/応永九年(以下不明)〉(たち めいびしゅうおさふねもろみつ) |
|---|---|
| 所在地 | 京都府。所有者は北野天満宮 |
| 指定区分 | 重要文化財(工芸品)/指定番号01363 |
| 指定年 | 1950年(昭和25年)8月29日 重要文化財 |
| 員数 | 1口 |
| 寸法 | 文化庁の解説文は「室町時代の作品。」の一文のみで、寸法は記されていない。名称は刀に刻まれた銘文の転記で、作者は備州長船師光、年代は1402年(応永9年)。年紀は年までしか読めない |
| 所有者 | 北野天満宮 |
| 公開状況 | 神社が所蔵する太刀で、常設の公開ではない |
参考文献
- 文化遺産オンライン 太刀〈銘備州長船師光/応永九年(以下不明)〉
- https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/198443
- 文化庁 国指定文化財等データベース 同物件
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/6246
- 北野天満宮 宝物殿
- https://kitanotenmangu.or.jp/guidance/houmotsuden/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.05