国宝「玳玻天目茶碗」との出会い - 800年の時を超えて
京都の相国寺承天閣美術館に収蔵される玳玻天目茶碗は、単なる茶道具を超えた存在です。南宋時代(12-13世紀)に中国江西省の吉州窯で生まれたこの茶碗は、黒地に黄褐色の梅花文様が浮かび上がる、まさに「用の美」の極致といえる作品です。
玳玻天目が国宝に指定された理由
この茶碗が1953年に国宝に指定された最大の理由は、その技術的卓越性にあります。吉州窯独自の「剪紙技法」と呼ばれる二重施釉技術は、まず黒釉を施し、その上に切り紙で文様を作り、さらに灰釉を重ねるという複雑な工程を経ています。焼成時に切り紙が焼失することで、黒地に黄褐色の文様が現れるのです。
日本には5つの天目茶碗が国宝指定されていますが、玳玻天目はその中で唯一の「玳玻」タイプ。内面に配された15個の梅花文様は、上段9個、中段5個、下段1個という計算された配置で、南宋時代の美意識の高さを物語っています。
鼈甲のような神秘的な釉薬の魅力
「玳玻」という名前は、タイマイ亀の甲羅を意味し、その釉薬が生み出す鼈甲状の斑文に由来します。特筆すべきは、茶溜り部分に現れる虹色の光彩。角度を変えて見ると、まるで宇宙を覗き込むような深遠な美しさを発見できます。
高さ6.7cm、口径11.8cmという小振りなサイズは、手に取った時の親密さを演出し、茶を点てる際の所作を美しく見せる絶妙な大きさです。重量約235gという軽さも、長時間の茶事での使用を考慮した実用性を示しています。
松平不昧が愛した至高の茶碗
江戸時代、茶人大名として名高い松平不昧(松平治郷)は、この茶碗を井戸茶碗と並ぶ最高級の茶碗として評価しました。不昧自筆の箱書「玳玻盞」は、彼の深い愛着を物語ります。大阪の豪商から松平家、そして相国寺へと伝来したこの茶碗は、日本の茶道史における重要な証人でもあります。
相国寺承天閣美術館での鑑賞体験
2025年10月19日のリニューアルオープン後は、最新のLED照明により、これまで以上に釉薬の微妙な色彩変化を楽しめるようになります。美術館は地下鉄烏丸線「今出川」駅から徒歩わずか6-8分。入館料は一般800円と、国宝を間近で鑑賞できることを考えれば驚くほどリーズナブルです。
相国寺は足利義満が1392年に創建した臨済宗の大本山。法堂の「鳴き龍」や、茶道と深い関わりを持つ宗旦稲荷社など、見どころも豊富です。
京都観光の新たな魅力スポット
相国寺周辺は、京都御所まで徒歩5分、金閣寺・銀閣寺へのアクセスも良好な立地。表千家・裏千家といった茶道の家元も近く、茶道体験と組み合わせた文化的な一日を過ごすことができます。
特におすすめは、午前中に美術館を訪れ、午後は京都御苑を散策し、夕方に茶道体験をするコース。800年前の中国で生まれ、日本で大切に守られてきた茶碗との出会いは、きっと忘れられない京都の思い出となるでしょう。
東西文化の架け橋として
玳玻天目茶碗は、中国の高度な陶磁技術と日本の美意識が融合した、まさに東アジア文化交流の結晶です。禅僧たちが天目山から持ち帰ったこの茶碗は、単なる輸入品ではなく、日本の茶道文化の中で新たな価値と意味を獲得しました。
2016年にはクリスティーズで同時代の天目茶碗が1100万ドルで落札されるなど、その価値は世界的にも認められています。しかし、真の価値は金額では測れません。手に取り、茶を点て、飲むという行為の中で初めて、この茶碗の本質に触れることができるのです。
Q&A
- 玳玻天目茶碗はいつでも見ることができますか?
- 相国寺承天閣美術館の常設コレクションの一部ですが、特別展での展示が中心となります。2025年10月19日のリニューアルオープン後の展示予定は、美術館の公式サイトでご確認ください。なお、2025年6月23日から10月18日までは改修工事のため休館となります。
- なぜ中国製の茶碗が日本の国宝になっているのですか?
- 鎌倉・室町時代に禅僧たちが中国から持ち帰った天目茶碗は、日本の茶道文化の中で特別な地位を獲得しました。800年以上日本で大切に保存され、日本文化の発展に重要な役割を果たしたことから、その文化的価値が認められ国宝に指定されています。
- 玳玻天目の「玳玻」とはどういう意味ですか?
- 「玳玻」は玳瑁(たいまい)、つまりタイマイ亀の甲羅を意味します。黒地に黄褐色の斑文が散らばる釉薬の様子が、鼈甲の模様に似ていることから、この名前が付けられました。
- 実際にお茶を飲むのに使われていたのですか?
- はい、実際に茶事で使用されていました。特に江戸時代の茶人大名・松平不昧は、この茶碗を愛用していたことが知られています。現在は保存のため使用されていませんが、その形状や重量は実用を考慮した設計となっています。
- 他にも似たような茶碗を見ることはできますか?
- 京都国立博物館にも玳玻天目が収蔵されています。また、日本には国宝指定された天目茶碗が5碗あり、静嘉堂文庫美術館、藤田美術館、大阪市立東洋陶磁美術館でそれぞれ異なるタイプの天目茶碗を鑑賞できます。
参考文献
- 玳玻天目茶碗 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/125777
- 相国寺承天閣美術館 公式サイト
- https://www.shokoku-ji.jp/museum/
- WANDER 国宝 - 玳玻天目茶碗
- https://wanderkokuho.com/201-00382/
- Google Arts & Culture - Taihi Tenmoku Tea Bowl
- https://artsandculture.google.com/asset/taihi-tenmoku-tea-bowl-with-long-tailed-bird-unknown/vAE0YdSppmSiMA
- 吉州窯(きっしゅうよう)とは|玳玻天目の産地の特徴と歴史
- https://touji-gvm.com/jizhouware/
基本情報
| 名称 | 玳玻天目茶碗(たいひてんもくちゃわん) |
|---|---|
| 別名 | 玳玻散花文天目茶碗、梅花天目 |
| 制作地 | 中国江西省吉州窯 |
| 制作年代 | 南宋時代(12-13世紀) |
| 材質 | 半磁質素地、黒釉、灰釉(二重施釉) |
| 寸法 | 高さ6.7cm、口径11.8cm、高台径3.5cm |
| 重量 | 約235g |
| 所蔵 | 相国寺(京都市上京区) |
| 指定 | 国宝(1953年3月31日指定) |
| 登録番号 | 00094-00 |