日本の伝統的醸造建築の宝庫

宮城県登米市登米町(とよままち)の歴史ある城下町に佇む「旧山田本店(ヤマカノ醸造)旧仕込み蔵」は、日本の豊かな醸造文化を今に伝える貴重な建造物です。2021年に国の登録有形文化財に登録されたこの大正時代の土蔵は、現在も味噌・醤油の醸造元として活躍するヤマカノ醸造の敷地内にあり、伝統的な醸造建築の素晴らしさを間近に感じることができます。

旧山田本店仕込み蔵とは

旧山田本店仕込み蔵は、大正時代(1919年〜1926年)に味噌・醤油の仕込みを目的として建設された大規模な土蔵造り二階建ての建築物です。かつて「山田本店」の名で味噌醤油醸造業を営んでいた山田本家が建設したもので、現在のヤマカノ醸造株式会社の敷地内に位置しています。

建物の規模は桁行十五間(約27メートル)、梁間四間(約7.3メートル)、建築面積186平方メートルという堂々たるもの。この大きさは、当時の醸造業がこの地域でいかに重要な産業であったかを物語っています。

なぜ文化財に登録されたのか

この仕込み蔵は、2021年2月4日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その登録理由には、建築的・歴史的に見て複数の重要な価値が認められています。

最も注目すべき特徴は、西洋建築の技術を日本の伝統的な土蔵造りに融合させた革新的な構造です。小屋組には「洋小屋組風の疑似トラス」が採用され、大梁と束を帯鉄とボルトで締めるという、当時としては先進的な工法が用いられています。これは、大正時代の日本の職人たちが西洋の建築技術を学び、醸造施設という特殊な用途に適応させた創意工夫の証といえます。

建物は徹底して機能性を重視した設計となっています。開口部を極力少なくした閉鎖的な構造は、発酵に必要な温度と湿度を安定させるための工夫です。厚い土壁は優れた断熱性と調湿性を備え、良質な味噌・醤油を醸造するための理想的な環境を提供しています。

また、この仕込み蔵は醸造場の中核施設として機能してきた大型土蔵であり、江戸時代から続く登米地方の醸造業の歴史を今に伝える産業遺産としての価値も高く評価されています。

建築的な見どころ

旧山田本店仕込み蔵には、建築愛好家や文化財に関心のある方にとって魅力的な特徴が数多くあります。

土蔵造り(どぞうづくり)は、日本の伝統的な建築技法の中でも最も洗練されたものの一つです。竹と縄で編んだ下地の上に何層もの土壁を塗り重ね、最後に漆喰で仕上げます。この工法により、耐火性、断熱性、そして発酵に適した安定した環境が実現されています。

屋根は鉄板葺き(てっぱんぶき)となっており、東北地方の厳しい降雪に耐える実用性と、伝統的な土蔵の美観を両立させています。

現在この施設を運営するヤマカノ醸造では、仙台藩主・伊達政宗公の時代から続く「仙台味噌」の伝統を守り続けています。大豆の旨みと深い香りが特徴の赤味噌は、このような歴史ある仕込み蔵で醸造されてきたものです。

登米町と醸造業の歴史

登米町(とよままち)は、仙台伊達藩の一門である登米伊達家二万一千石の城下町として、約300年にわたり栄えました。北上川を水運とする交通の要所であったこの地は、米穀の集散地として発展し、その豊かな農産物を背景に醸造業も盛んになりました。

周辺の肥沃な平野で収穫される良質な米と大豆、そして北上川水系の清らかな水は、醸造に理想的な条件を備えていました。最盛期には数多くの味噌・醤油醸造所が操業していましたが、現在、歴史ある蔵元として残っているのは、天保4年(1833年)創業の「海老喜」と、明治42年(1909年)創業の「ヤマカノ醸造」の2軒のみとなっています。

明治時代には廃藩置県により、登米町は一時「登米県」、続いて「水沢県」の県庁所在地となりました。この行政上の重要性を反映して、明治時代には洋風建築物が次々と建設され、現在「みやぎの明治村」と呼ばれる趣ある町並みが形成されました。

周辺の観光スポット

旧山田本店仕込み蔵の見学と合わせて、登米町の豊かな文化遺産を巡ることをお勧めします。

教育資料館(旧登米高等尋常小学校)は、明治21年(1888年)に建設された洋風学校建築で、国の重要文化財に指定されています。特徴的なバルコニーと左右対称のデザインは、明治の近代化を象徴する美しい建物です。

警察資料館(旧登米警察署庁舎)もまた、明治時代のハイカラな洋風建築を今に伝える貴重な建物で、県指定有形文化財となっています。

武家屋敷「春蘭亭」は、400年以上の歴史を持つ武家屋敷を改装した茶房です。囲炉裏を囲んでいただく抹茶と季節の和菓子は格別の味わいです。

伝統芸能伝承館「森舞台」は、世界的建築家・隈研吾氏の設計による能舞台で、藩政時代から伝わる「登米能」をはじめとする伝統芸能の公演が行われています。

北上川の堤防からは、かつて登米の繁栄を支えた雄大な流れを眺めることができ、散策にも最適です。

地元グルメを味わう

登米を訪れたら、この地域の醸造文化と深く結びついた郷土料理をぜひ堪能してください。

油麩丼(あぶらふどん)は登米を代表するご当地グルメです。小麦粉のグルテンを植物油で揚げた「油麩」を、出汁で煮込んで半熟卵でとじ、ご飯の上にのせた一品。かつ丼のように見えて、驚くほどあっさりとした優しい味わいが特徴です。B-1グランプリにも出場し、全国的にも知られるようになりました。

はっとは、登米地方に古くから伝わる郷土料理です。小麦粉を水で練って熟成させ、薄くのばして茹で上げたもので、醤油仕立ての汁でいただいたり、あずきやずんだで甘く仕上げたりと、様々な食べ方があります。つるつる、しこしこの食感がやみつきになります。

地元の食堂では、ヤマカノ醸造の味噌や醤油を使った料理が提供されています。旧山田本店仕込み蔵のような歴史ある施設で醸造された調味料の味を、ぜひお試しください。

Q&A

Q旧山田本店仕込み蔵の内部を見学することはできますか?
Aこの仕込み蔵はヤマカノ醸造株式会社が現在も使用している施設の一部です。外観は自由に見学できますが、内部見学については事前にヤマカノ醸造へお問い合わせください。工場見学の機会が設けられている場合もあります。
Q登米町を訪れるのに最適な季節はいつですか?
A登米町は四季折々の魅力があります。春は桜、夏は北上川沿いの緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、いつ訪れても美しい風景を楽しめます。屋内の博物館や資料館も充実しており、温かい郷土料理もあるため、寒い季節でも十分に楽しめます。
Q仙台から登米町へのアクセス方法を教えてください。
Aお車の場合は、三陸自動車道の登米ICから約4キロメートル(車で約5分)です。公共交通機関をご利用の場合は、仙台駅前から東日本急行の高速乗合バス「とよま総合支所行」に乗車し、約90分で「とよま明治村」バス停に到着します。
Qヤマカノ醸造には他にも登録文化財がありますか?
Aはい、ヤマカノ醸造の敷地内には複数の登録有形文化財があります。旧山田本店文庫蔵、商蔵、北蔵、南蔵、表門などが登録されており、歴史的な醸造施設群として貴重な景観を形成しています。
Qヤマカノ醸造の商品はどこで購入できますか?
Aヤマカノ醸造の味噌・醤油は、醸造元での直接購入のほか、とよま観光物産センター「遠山之里」、オンラインショップでお求めいただけます。宮城県内のスーパーマーケットでも広く販売されています。代表商品の「登穀味噌」や「仙台みそ」は、地元の原材料にこだわった逸品です。

基本情報

名称 旧山田本店(ヤマカノ醸造)旧仕込み蔵
読み方 きゅうやまだほんてん(やまかのじょうぞう)きゅうしこみぐら
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 令和3年(2021年)2月4日
建築年代 大正時代(1919年〜1926年)
構造 土蔵造2階建、鉄板葺
建築面積 186平方メートル
規模 桁行十五間、梁間四間
所有者 ヤマカノ醸造株式会社
所在地 〒987-0702 宮城県登米市登米町登米字寺池桜小路81-1
アクセス 三陸自動車道 登米ICから車で約5分/仙台駅前から東日本急行高速バス「とよま総合支所行」で約90分「とよま明治村」下車

参考文献

旧山田本店(ヤマカノ醸造)旧仕込み蔵 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/569172
ヤマカノ醸造株式会社 公式ウェブサイト
https://www.yamakano.co.jp/
歴史ある味噌蔵「ヤマカノ醸造」の秘密 - 登米市
https://tome-pr.jp/2020/02/21/midokoro-yamakano/
登米市観光物産協会 - ヤマカノ醸造
https://www.tome-city.com/publics/index/252/
登米市 - 歴史を訪ねる
https://www.city.tome.miyagi.jp/kanko/tourism/see/rekishi/index.html
みやぎの明治村 公式サイト
https://toyoma.co.jp/
油麩丼 - 農林水産省 うちの郷土料理
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/aburafu_don_miyagi.html

最終更新日: 2026.01.27

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