1口の太刀 ― 1956年に国宝
沃懸地酢漿平文兵庫鎖太刀〈中身無銘〉は、奈良県の春日大社が所有する鎌倉時代の工芸品で、1956年(昭和31年)6月28日に重要文化財となり、同じ1956年6月28日に国宝に指定された。員数は1口、指定番号は00193である。
重要文化財と国宝が同じ日である。天寿国繡帳残闕に続いて2件目になる。
寸法は総長104.8センチメートル、鞘長84.8センチメートル、柄長21.2センチメートルとされる。文化庁データベースの所在地の欄は空で、これで10件目になる。
解説文が、もう一方との違いだけを述べている
この物件の解説には、それ自体の説明がない。
文化庁は、国宝沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀とほぼ同様なもので、おそらく同時期に製作されたものと考えられる、と書き出す。
続けて、総長が本太刀拵の方が長く、鎖はやや繊細で、金物を据えず、鞘の酢漿紋は平文で、佩緒に鶉革を用いている点が異なる、とする。
ほぼ同様である、と述べたうえで、異なる点だけが並べられている。何であるかは、もう一方を知らなければ分からない。
専修寺如来堂では、和様を基調とする御影堂と明瞭な対比をみせる、と一文で対比されていた。あちらは自身の説明もある。
本件は解説文の全体が比較でできている。独立した説明を持たない例になる。
違いは五つ挙げられる
もう一方と異なる点が、順に列挙される。
一つ目は総長で、本件のほうが長い。二つ目は鎖で、やや繊細とされる。
三つ目は金物を据えていないこと、四つ目は鞘の酢漿紋が平文であること、五つ目は佩緒に鶉革を用いていることである。
五つのうち、四つ目は名称にも現れている。本件は沃懸地酢漿平文兵庫鎖太刀、もう一方は沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀である。
平文という語の有無が、二つを分けている。平文は金属の薄板を貼って文様を表す技法をいう。
太山寺本堂では、同名の二件を梁間と屋根で見分けた。本件は名称そのものに技法の違いが入っている。
刀身には銘がなく、名は外装から来ている
名称の後半に、刀身の状態が付く。
中身無銘とある。刀身に作者の銘がない。
名称の前半、沃懸地酢漿平文兵庫鎖は、すべて外装の記述である。沃懸地は金粉を密に蒔いた漆の地、酢漿は文様、兵庫鎖は佩くための鎖をいう。
菊造腰刀〈刀身無銘伝当麻〉では、菊造という柄の意匠が名になっていた。あちらは刀身に伝承があった。
本件は伝承もなく、無銘とだけ記される。名を作っているのは外装だけである。
品質・形状の欄は外装に集中する。柄は白鮫着、銀地鍍金覆輪、俵形鋲二個四双、とあり、鞘は金沃懸地、酢漿文平文三双、三連、とされる。
鑑賞
所有は春日大社である。所在都道府県の欄は奈良県とされるが、所在地の欄は空である。
金具についても細かい。総金具は冑金、覆輪、縁露金物、指目貫、大切羽、小切羽、口金、足金物、責金、石突が銀地鍍金とされる。
文様の範囲も限られる。足金物、鞘尾金具の一部に唐草文を表すほかは無文、とある。ほとんどの部分に文様がない。
鎖と鐔は銀である。年代・西暦・作者・ト書・画賛奥書・伝来の欄はいずれも空である。
神社が保管する太刀であり、常設で公開される性格のものではない。展示の予定は変わることがあるため、訪問前に確認したい。
Q&A
- この太刀はいつ指定されましたか。
- 1956年(昭和31年)6月28日に重要文化財となり、同じ日に国宝へも指定されました。二段階が同じ日になる例で、天寿国繡帳残闕に続いて2件目にあたります。
- 解説には何が書かれていますか。
- もう一方の国宝との違いだけです。「国宝沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀とほぼ同様なもので」と書き出し、異なる点が並べられます。それ自体の説明はありません。
- もう一方とどこが違うのですか。
- 五つ挙げられます。総長が長いこと、鎖がやや繊細なこと、金物を据えないこと、鞘の酢漿紋が平文であること、佩緒に鶉革を用いていることです。
- 刀身に銘はありますか。
- ありません。名称に「中身無銘」と付きます。名称の前半はすべて外装の記述で、名を作っているのは外装だけです。
- どのような装飾ですか。
- 文化庁は「足金物、鞘尾金具の一部に唐草文を表すほかは無文」と記します。鞘は金沃懸地に酢漿文を平文で三双、三連としています。
基本情報
| 名称 | 沃懸地酢漿平文兵庫鎖太刀〈中身無銘〉(いかけじかたばみひょうもんひょうごぐさりたち)/同じ春日大社の沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀も国宝 |
|---|---|
| 所在地 | 所在都道府県の欄は奈良県。所在地の欄は空で、所有者は春日大社とされる |
| 指定区分 | 国宝(工芸品)/指定番号00193/重要文化財と国宝が同じ日 |
| 指定年 | 1956年(昭和31年)6月28日 重要文化財および国宝 |
| 員数 | 1口 |
| 寸法 | 総長104.8センチメートル、鞘長84.8センチメートル、柄長21.2センチメートル。柄は白鮫着で銀地鍍金覆輪、鞘は金沃懸地に酢漿文を平文で3双3連とする。足金物と鞘尾金具の一部に唐草文を表すほかは無文。鎖と鐔は銀。時代は鎌倉 |
| 所有者 | 春日大社 |
| 公開状況 | 神社が保管する太刀で、常設の公開ではない |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 沃懸地酢漿平文兵庫鎖太刀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/484
- 文化庁 国指定文化財等データベース 金装花押散兵庫鎖太刀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/485
- 春日大社 公式サイト
- https://www.kasugataisha.or.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.06