1基の多宝塔 ― 1976年に重要文化財
久米寺多宝塔は、奈良県橿原市久米町にある江戸時代前期の建造物で、1976年(昭和51年)5月20日に重要文化財に指定された。国宝ではなく、重要文化財としての指定である。所有は久米寺である。
員数は1基である。構造は三間多宝塔、栩葺とされる。年代の欄は江戸前期/1615-1660で、45年の幅になる。
栩葺は、厚く割った板を重ねて葺く方法をいう。ここまで檜皮葺、本瓦葺、桟瓦葺、茅葺、こけら葺と見てきたが、栩葺は初めてになる。
奈良時代の塔跡に、江戸時代の塔が建っている
建物の年代と、その場所の年代が大きく離れている。
文化庁は、巨大な奈良時代の塔趾に建ち、江戸時代に仁和寺から移したと伝える、と記す。
塔趾は塔の跡地をいう。奈良時代の塔があった場所に、江戸時代の塔が置かれていることになる。
その隔たりはおよそ千年におよぶ。
旧集成館機械工場では、同じ場所が建造物と史跡の二つで指定されていた。あちらは同じ時代の産業施設である。
本件は、場所そのものが持つ時代と、建っている物の時代が別になる。しかも建物は他所から移されている。
「型どおり」でありながら、評価されている
ありふれた形であることが、そのまま短所とされていない。
文化庁は、型どおりの三間多宝塔であるが、全体の均衡がよく、材料、工法とも優秀な正統派の建築、と記す。
型どおりと言い切ったうえで、均衡、材料、工法の三つを挙げて評価している。
大笹原神社本殿では傑作の一とされ、専修寺御影堂では指標とされた。北口本宮冨士浅間神社では地方的特色が挙げられた。いずれも他と違う点による評価である。
黒漆螺鈿礼盤では、礼盤としてふさわしいと用途への適合が挙げられた。若戸大橋では、専門を異にする技術者らの協同作業が挙げられた。
本件は、標準的な形のなかでの出来のよさが理由になっている。評価の言い方として7型目にあたる。部材の保存もよい、とも続く。
移築の年が、記録によって示され方が違う
いつ移されたかについて、二つの書き方がある。
文化庁は、江戸時代に仁和寺から移したと伝える、とする。年を示さず、伝承として述べている。
一方、西国四十九薬師霊場会は、万治二(一六五九)年に京都の仁和寺から移築した多宝塔、と記す。年が特定されている。
万治2年は1659年で、年代の欄の1615-1660という45年幅の終わり近くにあたる。
羽馬家住宅では、文化庁が90年幅、南砺市が12年幅と、絞り込みの細かさが分かれていた。
本件は、一方が幅と伝承、他方が確定した年である。同じ霊場会は本堂についても寛文3年(1663年)再建と記しており、多宝塔の移築の4年のちにあたる。
参拝
所在は奈良県橿原市久米町で、所有は久米寺である。
塔の内部についても記される。文化庁は、初重四方の扉に護方八方天を描き、胎蔵界大日如来を祀る、とする。
初重は塔の一階部分をいう。四方の扉に絵が描かれ、中に像が安置されていることになる。
九重塔では、構造の欄に相輪を欠くとあり、内部については触れられなかった。神角寺本堂では解説文の欄が空だった。
本件は塔の外形だけでなく、扉の絵と祀られる仏まで記録に入っている。寺の建物であり、拝観については寺の定めによる。訪問前に確認したい。
Q&A
- 久米寺多宝塔はいつ指定されましたか。
- 1976年(昭和51年)5月20日に重要文化財へ指定されました。国宝ではなく重要文化財で、員数は1基、所有は久米寺です。
- いつ移されたのですか。
- 記録によって示され方が違います。文化庁は「江戸時代に仁和寺から移したと伝える」と年を示さず、西国四十九薬師霊場会は万治二(1659)年とします。
- 建っている場所は何ですか。
- 文化庁は「巨大な奈良時代の塔趾に建ち」と記します。奈良時代の塔の跡地に、江戸時代の塔が置かれており、約1000年の隔たりがあります。
- 何が評価されているのですか。
- 文化庁は「型どおりの三間多宝塔であるが、全体の均衡がよく、材料、工法とも優秀な正統派の建築」とし、「部材の保存もよい」と続けます。
- 栩葺とは何ですか。
- 厚く割った板を重ねて葺く方法です。薄い板を用いるこけら葺に比べ、板が厚くなります。
基本情報
| 名称 | 久米寺多宝塔(くめでらたほうとう) |
|---|---|
| 所在地 | 奈良県橿原市久米町 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物・宗教建築)/国宝ではない |
| 指定年 | 1976年(昭和51年)5月20日 重要文化財 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 3間多宝塔、栩葺。奈良時代の塔跡に建つ。初重の4方の扉に護方八方天を描き、胎蔵界大日如来を祀る。年代の欄は江戸前期で、西暦は1615年から1660年と45年の幅で示される |
| 所有者 | 久米寺 |
| 公開状況 | 寺の建物で、拝観は寺の定めによる |
参考文献
- 文化遺産オンライン 久米寺多宝塔
- https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/123424
- 西国四十九薬師霊場会 第7番 久米寺
- https://yakushi49.jp/07kumedera/
- 橿原市 文化財
- https://www.city.kashihara.nara.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.10