天平勝宝8年頃の倉 ― 1997年に国宝
正倉院正倉は、奈良県奈良市雑司町にある奈良時代の倉庫建築で、1997年(平成9年)5月19日に重要文化財と国宝に同日指定された。員数は1棟。構造は桁行九間、梁間三間、一重、高床校倉、寄棟造、本瓦葺。所有は国(宮内庁)である。
文化庁の解説は建立の時期をこう記す。正倉院は東大寺大仏殿西北方に位置し、もとは東大寺に属した。正倉の建立は、光明皇后が聖武天皇の遺愛品を東大寺に献納した天平勝宝8年(756年)前後と考えられる。
重要文化財と国宝の指定日が同じなのは、それまで宮内庁所管で文化財として指定されていなかったためである。1997年に指定されるにあたり、重要文化財の指定と国宝への指定が同日に行われた。
正倉とは何か ― 郡ごとに置かれた倉
文化庁の解説は、この建物の名称そのものから説き起こす。
古代には、律令制の下、各国の正税を収納するために郡ごとに正倉が設置されていた。正倉には多くの倉庫建築がつくられたが、それらは収納するものの違いなどにより校倉、板倉、丸木倉などの様々な構造のものがあり、規格による区別も行われていた。
つまり正倉は固有名詞ではなく、律令制のもとで全国に置かれた倉庫の種別である。正倉院という名も、正倉が並ぶ区画を指す一般名詞に由来する。
古代の各寺院には、経蔵などの伽藍の主要な構成物件のほか、広大な所領をもっていたため、正倉と同様、敷地内に倉庫建築が多く存在した。そのうちいくつかが現存し、多くは校倉造となっている。
双倉形式 ― 指定理由の核心
指定理由は二文で示される。前半は建築史上の評価である。
正倉院正倉は、東大寺の中に建てられた倉庫建築で、現存する奈良時代建立の校倉の中でも最大級の規模を有し、双倉形式を伝える唯一の校倉造の建物としてわが国の建築史上きわめて高い価値が認められる。
双倉とは、二つの倉を並べてその間を塞いだ形式をいう。正倉は北倉・中倉・南倉の三室構成で、北倉と南倉を校倉造とし、中倉を板倉形式とする。もとは北と南の二つの校倉があり、その間を板壁で塞いで中倉としたと考えられている。文化庁が「双倉形式を伝える唯一の校倉造の建物」と書くのは、この構成を指す。
後半は文化史上の評価である。奈良時代の政治経済上特別な存在であった正倉の様子を伝える唯一の建造物遺構として、わが国の文化史上きわめて重要な意義を有している。
校倉造は三角形の断面を持つ木材を井桁に組み上げる工法で、湿度によって木が伸縮し内部の環境を調整するとしばしば説明される。ただし文化庁の解説はこの点に触れていない。本稿も断定を避ける。
高床の長大な倉
桁行九間、梁間三間。高床造で東を向く。屋根は寄棟造の本瓦葺である。
高床造は床を地面から離して立てる形式で、倉庫建築では湿気と鼠を避けるために用いられる。正倉の床下は人が立てるほどの高さがあり、太い柱が並ぶ。外から見ると、建物の下半分が柱だけの空間になっている。
北倉と南倉の校倉造は、断面が三角形の木材を横に積み上げて壁とする。組み上げた材の端が建物の隅で交互に飛び出し、独特の輪郭を作る。中倉は板倉形式で、柱の間に板を落とし込む。同じ建物の中に二種類の壁があることになり、外から見ても質感の違いが分かる。
宝物は昭和期に鉄筋コンクリート造の収蔵庫へ移され、正倉は建物として保存されている。平成23年から平成26年(2011年から2014年)にかけて屋根の全面葺替を含む整備工事が行われた。
見学
正倉の外構は無料で公開されている。公開は平日の午前10時から午後3時までで、土曜日・日曜日・祝日と年末年始は公開されない。宮内庁正倉院事務所が管理しており、公開日程は変更されることがあるため訪問前に確認したい。
公開されるのは外構のみで、内部には入れない。柵の外から建物の東面を見る形になる。校倉の壁と高床の柱は、この位置から十分に観察できる。
宝物は正倉院展で毎年秋に奈良国立博物館で公開される。会期は10月下旬から11月上旬にかけての約2週間で、毎年出陳品が入れ替わる。宝物を見たい場合は、正倉の見学とは別に日程を合わせる必要がある。
交通はJR奈良駅または近鉄奈良駅からバスで今小路下車、徒歩約5分。東大寺大仏殿の北西にあたり、大仏殿からは徒歩約10分である。
Q&A
- 正倉院正倉はいつ建てられ、いつ国宝に指定されましたか。
- 文化庁は、光明皇后が聖武天皇の遺愛品を東大寺に献納した天平勝宝8年(756年)前後の建立と考えています。1997年(平成9年)5月19日に重要文化財と国宝に同日指定されました。それまで宮内庁所管で文化財として指定されていなかったためです。
- 正倉とは何ですか。
- 律令制のもとで各国の正税を収納するため郡ごとに設置された倉庫です。固有名詞ではなく倉庫の種別で、校倉、板倉、丸木倉など様々な構造がありました。正倉院という名も、正倉が並ぶ区画を指す一般名詞に由来します。
- 正倉院正倉が国宝に指定された理由は何ですか。
- 文化庁は、現存する奈良時代建立の校倉の中でも最大級の規模を有し、双倉形式を伝える唯一の校倉造の建物として建築史上きわめて高い価値を認めています。あわせて、奈良時代の政治経済上特別な存在であった正倉の様子を伝える唯一の建造物遺構としての意義も挙げています。
- 双倉形式とはどのような構造ですか。
- 二つの倉を並べてその間を塞いだ形式です。正倉は北倉・中倉・南倉の三室構成で、北倉と南倉が校倉造、中倉が板倉形式です。もとは二つの校倉があり、その間を板壁で塞いで中倉としたと考えられています。
- 正倉院正倉は見学できますか。宝物は見られますか。
- 外構が平日の午前10時から午後3時まで無料公開されています。内部には入れず、柵の外から東面を見る形です。宝物は毎年秋の正倉院展で奈良国立博物館に出陳されるため、正倉の見学とは別に日程を合わせる必要があります。
基本情報
| 名称 | 正倉院正倉(しょうそういんしょうそう) |
|---|---|
| 所在地 | 奈良県奈良市雑司町129 |
| 指定区分 | 国宝(建造物)/世界遺産「古都奈良の文化財」構成資産 |
| 指定年 | 1997年(平成9年)5月19日 重要文化財および国宝に同日指定 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行9間、梁間3間、一重、高床校倉、寄棟造、本瓦葺。北倉・中倉・南倉の3室構成で、北倉と南倉を校倉造、中倉を板倉形式とする。東面する。756年頃 |
| 所有者 | 国(宮内庁) |
| 公開状況 | 外構を平日の午前10時から午後3時まで無料公開。土日祝と年末年始は公開なし。内部は非公開 |
参考文献
- 文化遺産オンライン 正倉院正倉
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/201499
- 宮内庁 正倉院
- https://shosoin.kunaicho.go.jp/
- 宮内庁 正倉院の概要
- https://www.kunaicho.go.jp/culture/shosoin/shosoin.html
- 奈良国立博物館 正倉院展
- https://www.narahaku.go.jp/
最終更新日: 2026.09.03