1口の太刀 ― 1956年に国宝
沃懸地獅子文毛抜形太刀〈中身無銘〉は、奈良県の春日大社が所有する鎌倉時代の工芸品で、1941年(昭和16年)11月6日に重要文化財となり、1956年(昭和31年)6月28日に国宝に指定された。員数は1口、指定番号は00191である。
寸法は総長98.4センチメートル、鞘長78.5センチメートル、柄長19.4センチメートルとされる。文化庁データベースの所在地の欄は空で、これで19件目になる。
柄長19.4センチメートルは、小村神社の金銅荘環頭大刀拵とまったく同じ数値である。所有も時代も違う二口が、柄の長さで一致している。
三口の太刀が連番で並び、一口だけ重文が早い
春日大社の三口の太刀が、指定番号で続いている。
本件は00191、沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀が00192、沃懸地酢漿平文兵庫鎖太刀が00193である。
三口とも1956年6月28日に国宝となった。同じ日である。
ところが重要文化財の日は揃わない。00192と00193は国宝と同じ1956年6月28日だが、本件だけが1941年11月6日である。
本件は15年早く重要文化財になり、そのあとで三口が同じ日に国宝となった。
専修寺の二棟や櫛引八幡宮の二領は、二段階とも同じ日だった。本件を含む三口は、後の段階だけが揃っている。
名前の由来が、記録に説明されている
なぜその名で呼ばれるかが、解説文に書かれている。
毛抜形太刀は柄の中央に毛抜形の長目貫を据えていることからの呼称で、毛抜太刀の製にならったものである、とある。
毛抜の形をした細長い目貫が柄の中央にある。そこから毛抜形と呼ばれる、という説明である。
一字一仏法華経序品では、作り方そのものが名になっていた。ただし記録が由来を説明してはいない。
白絲威褄取鎧の卯の花威、赤絲威鎧の菊一文字も通称の由来がある。あちらは色や金具の形から来ている。
本件は、名の由来を記録自身が説明している。呼称で、という語が使われている点にそれが表れている。
金と銀のめっきが、部位で分けられる
同じ拵のなかで、めっきの種類が使い分けられている。
総金具については、冑金、縁、手抜緒通金菊花形、鯉口、足金具、笠金、石突が以上鍍金とされる。
一方、目貫は腹帯猪の目透、責金が以上鍍銀である。鞘の革先金も鍍銀とされる。
大きな金具は金めっき、目貫と責金は銀めっきである。部位によって色が分けられている。
宝相華蒔絵経箱では、華と円輪が金蒔、葉と蔓が銀蒔だった。澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃では、金と青金という同じ金属の色が分けられていた。
本件はめっきの金属そのものが分かれている。鐔は葵形透彫で鍍金、大切羽は四葉左右猪の目透で鍍金とされる。
鑑賞
所有は春日大社である。所在都道府県の欄は奈良県とされるが、所在地の欄は空である。
獅子の数も記される。鞘は金沃懸地で、表裏三疋獅子描割、とある。表と裏に三匹ずつではなく、表裏を合わせて三匹と読める書き方である。
残り具合については、足革(残欠)、とされる。足革が欠けた状態で残っている。
沃懸地酢漿平文兵庫鎖太刀では鶉革の佩緒が残欠、沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀では装具が完存だった。三口で残り具合が三様になる。
評価は、現存する同種の太刀は極めて稀で、製作も優れる、とされる。神社が保管する太刀であり、常設で公開される性格のものではない。訪問前に確認したい。
Q&A
- この太刀はいつ指定されましたか。
- 1941年(昭和16年)11月6日に重要文化財、1956年(昭和31年)6月28日に国宝へ指定されました。員数は1口、指定番号は00191です。
- 同じ春日大社の他の太刀との違いは何ですか。
- 国宝の日は三口とも同じですが、重要文化財の日が違います。00192と00193は1956年ですが、本件だけ15年早い1941年です。
- 毛抜形とはどういう意味ですか。
- 文化庁は「柄の中央に毛抜形の長目貫を据えていることからの呼称で、毛抜太刀の製にならったもの」と記します。名の由来が記録自身に説明されています。
- めっきに違いはありますか。
- あります。冑金や縁などの総金具は鍍金、目貫と責金、鞘の革先金は鍍銀です。部位によって金と銀が分けられています。
- 何が評価されているのですか。
- 文化庁は「現存する同種の太刀は極めて稀で、製作も優れる」と記します。同じ種類の残存が少ないことと、作りのよさの両方が挙げられています。
基本情報
| 名称 | 沃懸地獅子文毛抜形太刀〈中身無銘〉(いかけじししもんけぬきがたたち)/同じ春日大社の00192・00193と連番 |
|---|---|
| 所在地 | 所在都道府県の欄は奈良県。所在地の欄は空で、所有者は春日大社とされる |
| 指定区分 | 国宝(工芸品)/指定番号00191 |
| 指定年 | 1941年(昭和16年)11月6日 重要文化財/1956年(昭和31年)6月28日 国宝 |
| 員数 | 1口 |
| 寸法 | 総長98.4センチメートル、鞘長78.5センチメートル、柄長19.4センチメートル。柄は白鮫着で金銅覆輪、中央に金銅の毛抜形大目貫を据える。鞘は金沃懸地に表裏3疋の獅子を描割とし、足革は残欠。総金具は鍍金、目貫と責金は鍍銀。時代は鎌倉 |
| 所有者 | 春日大社 |
| 公開状況 | 神社が保管する太刀で、常設の公開ではない |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 沃懸地獅子文毛抜形太刀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/482
- 文化庁 国指定文化財等データベース 沃懸地酢漿紋兵庫鎖太刀(00192)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/483
- 春日大社 公式サイト
- https://www.kasugataisha.or.jp/
- 春日大社 国宝殿
- https://www.kasugataisha.or.jp/museum/
最終更新日: 2026.09.06