飛鳥時代の直刀 ― 昭和27年に国宝

七星剣は、大阪市天王寺区の四天王寺が所有する飛鳥時代の直刀で、1952年(昭和27年)3月29日に国宝に指定された。それに先立つ1912年(大正元年)9月3日には、古社寺保存法に基づく旧国宝となっている。員数は1口、種別は工芸品、指定番号は00055。読みは「しちせいけん」である。

文化庁の解説は短い。丙子椒林剣と共に聖徳太子の剣と伝えられる。星文を象嵌したものは、ほかに正倉院御物中、法隆寺献納宝物中に有る以外には遺例のない貴重な大刀である。上古刀中稀有の優品であり、保存も良好である、と。

ここで用語を確かめておきたい。現代の刀剣用語では「剣」は両刃で左右対称のものを指し、片刃の直刀には「大刀」の字を当てる。七星剣は名称に剣の字を持つが片刃の直刀で、文化庁の解説も「大刀」と記している。名称と分類が一致しない例である。

星文を象嵌した大刀は三例しかない

指定解説の中心は一句にある。星文を象嵌したものは、ほかに正倉院御物中、法隆寺献納宝物中に有る以外には遺例のない貴重な大刀である。

刀身に星の文様を金象嵌した古代の大刀は、正倉院宝物と法隆寺献納宝物、そしてこの七星剣の三つの系統にしか残っていない。残存例の少なさそのものが指定の根拠になっている。

星宿を崇める信仰は中国から伝わり、飛鳥時代から奈良時代にかけて日本で行われた。北斗七星を意匠とする刀は破邪や鎮護の力を宿すとされ、儀式に用いられたと考えられている。実用の武器ではなく、儀礼のための刀である。

文化庁は最後に「上古刀中稀有の優品であり、保存も良好である」と結ぶ。上古刀とは、反りのある日本刀が生まれる以前の直刀をいう。

刀身の記述 ― 七星と瑞雲と竜頭

寸法は長さ62.4センチメートル、元幅2.4センチメートル、先幅1.8センチメートル、鋒長1.7センチメートル。

文化庁の品質・形状の記載を追う。切刃造、丸棟、内反りごころの直刀。鍛は板目柾がかり、やや疲れて肌立ち、刃文は直刃ほつれごころで大きく焼落として小沸つき、帽子はない。

切刃造は鎬を刃寄りに立てた造り込み、丸棟は棟を丸く仕上げた形をいう。内反りごころとは、わずかに刃の側へ反る傾向を指す。反りのある日本刀が成立する前の形式である。帽子がないとは、鋒の部分に刃文が現れていないことをいう。

装飾についてはこう記される。表裏に二筋樋を刻し、掻流しとなり、樋の上に七星と瑞雲、鎺元に竜頭を金象嵌している。

樋は刀身に彫られた溝で、二筋樋は二本を並べて彫ったもの。掻流しは樋を茎の途中で流して終える形である。その樋の上に、北斗七星と瑞雲、そして鎺元には竜の頭が金で象嵌されている。

茎については、直ぐで、鑢目不明、恐らく槌目仕立、茎先に懸通しの孔が欠損しているが痕跡を止めている、と記録される。欠損した孔の痕跡まで記載するのが指定の記録の性格である。

丙子椒林剣との対

七星剣は単独で伝わったわけではない。四天王寺は丙子椒林剣も所有し、こちらも国宝である。文化庁の解説はどちらの記録でも相互に言及する。

二振りとも寺伝で聖徳太子の剣とされる。ただし文化庁は丙子椒林剣の解説で、名称の解釈に諸説あり後考を待つと明記している。伝承をそのまま事実として扱ってはいない。

両者の状態は異なる。丙子椒林剣は完存し、腰元に「丙子椒林」の4字を金象嵌する。七星剣は少なくとも鎌倉時代から錆身で拵えも失われており、昭和27年に研磨が行われた。文化庁が七星剣について「保存も良好である」と書くのは、この研磨を経た状態についての評価にあたる。

作風でも差がある。七星剣は丙子椒林剣に比べてスラグの残留物が目立つとされる一方、地金は小板目がよく練れ地沸が厚くつく。二振りを並べて見ることで、飛鳥時代の直刀の幅が分かる。

拝観

所有は四天王寺だが、七星剣は東京国立博物館に寄託されている。公開の機会は多くない。

丙子椒林剣とともに、特別展や企画展で展示されることがある。常設で見られる状態ではないため、実物を目当てにする場合は東京国立博物館と四天王寺の双方の展示情報を確認したい。

四天王寺の宝物館では、寺宝が期間を限って公開される。七星剣そのものが出ない期間でも、聖徳太子信仰に関わる資料は展示されている。四天王寺の伽藍は推古天皇元年(593年)の創建と伝えられ、中門・五重塔・金堂・講堂を南北一直線に配する四天王寺式伽藍配置で知られる。

交通は大阪メトロ谷町線の四天王寺前夕陽ヶ丘駅から徒歩約5分、JR天王寺駅から徒歩約12分である。

Q&A

Q七星剣はいつ国宝に指定されましたか。
A大正元年(1912年)9月3日に古社寺保存法に基づく旧国宝、昭和27年(1952年)3月29日に文化財保護法のもとで国宝に指定されました。員数は1口、種別は工芸品、指定番号は00055。飛鳥時代の作で、所有は四天王寺です。
Q七星剣が国宝とされた理由は何ですか。
A文化庁は「星文を象嵌したものは、ほかに正倉院御物中、法隆寺献納宝物中に有る以外には遺例のない貴重な大刀である」と記します。刀身に星の文様を金象嵌した古代の大刀は三つの系統にしか残っておらず、残存例の少なさが指定の根拠です。上古刀中稀有の優品とも評されています。
Q七星剣にはどのような文様がありますか。
A表裏に二筋樋を刻して掻流しとし、樋の上に七星と瑞雲、鎺元に竜頭を金象嵌しています。七星は北斗七星で、星宿を崇める信仰は中国から伝わり飛鳥から奈良時代にかけて行われました。破邪や鎮護の力を宿すとされ、儀式に用いられたと考えられています。
Q七星剣は「剣」ですか「大刀」ですか。
A現代の刀剣用語では「剣」は両刃で左右対称のものを指し、片刃の直刀には「大刀」の字を当てます。七星剣は名称に剣の字を持ちますが片刃の直刀で、文化庁の解説も「大刀」と記しています。名称と分類が一致しない例です。
Q七星剣は見られますか。
A所有は四天王寺ですが、東京国立博物館に寄託されており公開の機会は多くありません。丙子椒林剣とともに特別展や企画展で展示されることがあります。実物を目当てにする場合は、東京国立博物館と四天王寺の双方の展示情報を確認してください。

基本情報

名称七星剣(しちせいけん)
所在地大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18 四天王寺(東京国立博物館に寄託)
指定区分国宝(工芸品)/指定番号00055
指定年1912年(大正元年)9月3日 古社寺保存法に基づく旧国宝/1952年(昭和27年)3月29日 国宝
員数1口
寸法長さ62.4センチメートル、元幅2.4センチメートル、先幅1.8センチメートル、鋒長1.7センチメートル。切刃造、丸棟、内反りごころの直刀。表裏に二筋樋、樋の上に七星と瑞雲、鎺元に竜頭を金象嵌。飛鳥時代
所有者四天王寺
公開状況東京国立博物館に寄託。常設公開ではなく、特別展や企画展で展示されることがある

参考文献

文化遺産オンライン 七星剣
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/148428
文化遺産オンライン 丙子椒林剣
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/125737
東京国立博物館 コレクション
https://www.tnm.jp/modules/r_collection/
四天王寺 公式サイト
https://www.shitennoji.or.jp/

最終更新日: 2026.09.03