1冊の楽譜 ― 1952年に国宝
催馬楽譜は、佐賀県佐賀市松原2-5-22にある平安時代の書で、1952年(昭和27年)11月22日に国宝に指定された。員数は1冊、所有は公益財団法人鍋島報效会である。
文化庁データベースの重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されている。これまで扱った中で23件目にあたる。
文化庁の解説文は「平安時代の作品。」の一文のみである。一文だけの解説は21件目になる。所蔵館である徴古館の記録は、紙本墨書、料紙鳥の子紙、竪25.5センチメートル、横16.7センチメートルとする。
演奏が絶えたあと、譜面から復興された
催馬楽という音楽そのものの歴史が記録される。
徴古館は、催馬楽とは宮廷歌謡のひとつで、日本古来の歌謡を唐楽の拍子・旋律に合わせて編曲したものである、と記す。
続けて、13世紀以降、催馬楽の演奏は衰退し応仁の乱の後には廃絶したが、17世紀に入り古譜に基づいて復興された、とある。
一度演奏が絶えている。そのあと、古い譜面をもとに再び演奏されるようになった。
紙本墨画五部心観では、原本が失われ模本だけが残った。喪乱帖では、王羲之の真筆が現存せず模本が国宝になった。それらは物が失われた例である。
本件は、演奏という行為が途切れている。物は残り、行為だけが絶えた。そして残った物から行為が再開された。
同じ名で、国宝と重要文化財がある
催馬楽譜という名の物件は、これだけではない。
東京国立博物館にも催馬楽譜があり、こちらは1957年(昭和32年)6月18日の重要文化財で、国宝指定年月日の欄は空である。解説文は本件と同じく「平安時代の作品。」の一文である。
員数が違う。本件は1冊、東京国立博物館のものは1巻である。冊は綴じたもの、巻は巻いたものをいう。
姫路城イ、ロ、ハ、ニの渡櫓では、ほとんど同じ名の建物が国宝と重要文化財に分かれていた。曜変天目茶碗では、同名の二碗が同じ日に国宝となった。
本件は名称が完全に同じで、区分が違い、員数の単位まで違う。手鑑「藻塩草」催馬楽譜断簡(四辻切)という断簡もあり、こちらは葉である。
伝えられた筆者は、推定年代より二百年後の人である
筆者についての記述に、大きな隔たりがある。
徴古館は作者を(伝)宗尊親王(1242年から1274年)とする。鎌倉時代の人である。
ところが解説はこう記す。鎌倉時代の宗尊親王筆と伝わるが、11世紀中頃の名筆の手になり、現存する催馬楽古写本うち最古のものである。
伝承では13世紀の人、推定では11世紀の書である。二百年ほどの隔たりがある。
和漢朗詠集(雲紙)では、伝藤原行成に対して源兼行が推定された。どちらも11世紀の人である。古今和歌集巻第廿では、伝紀貫之に対して三人の寄合書とされた。
本件は、伝承の人物と推定される年代が、時代をまたいで食い違っている。
鑑賞
所在は佐賀県佐賀市松原2-5-22で、所有は公益財団法人鍋島報效会である。館が保管する書であり、常設で公開される性格のものではない。紙に書かれたものは光に弱く、公開期間が限られる。
中身も具体的に記される。飛雲文様のある料紙に押界を施した上で、律詩24首・呂歌36(内3欠)首を収め、万葉仮名を用いて温雅な楷書で記されている、とある。
呂歌については、36首のうち3首が欠けていると示される。数えたうえで、欠けている数まで書かれている。
雅楽の旋法は律と呂に分かれる、ともある。二つの旋法それぞれの歌が収められている。
展示の予定は変わることがあるため、訪問前に館の案内で確認したい。
Q&A
- 催馬楽譜はいつ国宝に指定されましたか。
- 1952年(昭和27年)11月22日です。員数は1冊、所在は佐賀県佐賀市松原2-5-22、所有は公益財団法人鍋島報效会です。重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ていません。
- 催馬楽とは何ですか。
- 徴古館は「宮廷歌謡のひとつで、日本古来の歌謡を唐楽の拍子・旋律に合わせて編曲したもの」と記します。13世紀以降に演奏が衰退し応仁の乱の後には廃絶しましたが、17世紀に古譜に基づいて復興されました。
- 同じ名前の物件が他にもありますか。
- あります。東京国立博物館の催馬楽譜は1957年6月18日の重要文化財で、員数は1巻です。本件は1冊で、名称が同じでありながら区分も員数の単位も違います。
- 誰が書いたものですか。
- 徴古館は作者を(伝)宗尊親王(1242年から1274年)としつつ、解説では「鎌倉時代の宗尊親王筆と伝わるが、11世紀中頃の名筆の手になり」と記します。伝承と推定で二百年ほどの隔たりがあります。
- 何が収められているのですか。
- 徴古館は「飛雲文様のある料紙に押界を施した上で、律詩24首・呂歌36(内3欠)首を収め、万葉仮名を用いて温雅な楷書で記されている」と記します。呂歌は36首のうち3首が欠けています。
基本情報
| 名称 | 催馬楽譜(さいばらふ)/東京国立博物館の催馬楽譜は重要文化財の別物件 |
|---|---|
| 所在地 | 佐賀県佐賀市松原2-5-22 |
| 指定区分 | 国宝(書)/重要文化財を経ずに国宝へ指定 |
| 指定年 | 1952年(昭和27年)11月22日 国宝 |
| 員数 | 1冊 |
| 寸法 | 所蔵館の記録によれば竪25.5センチメートル、横16.7センチメートル。紙本墨書、料紙は鳥の子紙。飛雲文様のある料紙に押界を施し、律詩24首と呂歌36首(うち3首を欠く)を万葉仮名の楷書で記す。時代は平安時代後期 |
| 所有者 | 公益財団法人鍋島報效会 |
| 公開状況 | 館が保管する書で、常設の公開ではない。紙に書かれたものは光に弱く、公開期間が限られる |
参考文献
- 文化遺産オンライン 催馬楽譜(徴古館)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/224059
- 文化遺産オンライン 催馬楽譜(国指定文化財等データベース)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/125854
- 文化遺産オンライン 催馬楽譜(東京国立博物館・重要文化財)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/167295
- 公益財団法人鍋島報效会 徴古館
- https://www.nabeshima.or.jp/
最終更新日: 2026.09.05