吉田家住宅主屋:多良海道沿いに佇む明治期の居蔵造町家

佐賀県鹿島市の中村地区、かつての長崎街道多良往還(多良海道)沿いに、ひっそりと佇む一軒の町家があります。吉田家住宅主屋は、2009年に国の登録有形文化財に登録された、明治時代の商家建築です。白漆喰の壁と入母屋造の屋根が美しいこの建物は、九州地方に特徴的な「居蔵造」の様式をよく伝える貴重な近代町家として、その歴史的価値が認められています。

吉田家住宅主屋とは

吉田家住宅主屋は、佐賀県鹿島市大字中村字本町103番地に所在する、明治時代(1868年〜1911年)に建築された木造2階建ての町家です。建築面積は228平方メートルを誇り、かつて商人たちが行き交った多良海道に西面して建っています。

この建物は、地域の商業活動を支えた商家の住居として建てられたと考えられ、その堂々たる佇まいは、往時の繁栄を今に伝えています。2009年1月8日に国の登録有形文化財(建造物)に登録され、日本の近代化を物語る重要な建築遺産として保護されています。

文化財としての価値

吉田家住宅主屋が国の登録有形文化財に選ばれた理由は、その建築様式にあります。「居蔵造」と呼ばれる九州地方独特の建築形式を良好な状態で保存しており、明治期の町家建築の特徴を今に伝える貴重な存在です。

外観は入母屋造の桟瓦葺で、背面には直角に別の入母屋造の部分が張り出す複雑な屋根構成を持っています。外壁は白漆喰仕上げの大壁とし、美しい白い壁面が周囲の景観の中で際立っています。特筆すべきは側面の腰部分で、煉瓦を積んだ意匠が施されており、明治という時代の西洋文化の影響を示す興味深い特徴となっています。

内部は南側に通り土間を配し、北側に居室を設けるという伝統的な町家の間取りを踏襲しています。座敷には黒檀をはじめとする銘木が使われており、当時の施主の財力と洗練された美意識を物語っています。

居蔵造とは何か

「居蔵造(いぐらづくり)」とは、二重屋根を特徴とする独特の建築様式です。江戸時代後期から明治時代にかけて、草葺き屋根から瓦葺き屋根への移行期に発展したこの様式は、九州地方や中国地方西部に多く見られます。

居蔵造の最大の特徴は、上屋根と下屋根の間に「くちあき」と呼ばれる空間があることです。この二重構造は、夏の暑さや冬の寒さを和らげる優れた断熱効果を持ち、また外観上も重厚感と安定感を生み出しています。瓦の普及に伴い、それまでの草葺き屋根の高さやバランスを維持しながら耐久性を高めるために考案されたとされています。

吉田家住宅主屋は、この居蔵造の形態を極めて良好に伝えており、日本の建築史、特に民家建築の発展過程を理解する上で貴重な資料となっています。

建築的見どころ

吉田家住宅主屋には、明治期の職人技と美意識が随所に見られます。まず目を引くのは、入母屋造の桟瓦葺による屋根です。入母屋造は、寄棟造と切妻造を組み合わせた格式高い屋根形式で、商家の繁栄と威厳を表現しています。

白漆喰で仕上げられた大壁は、防火性に優れるとともに、美しい白い外観を生み出しています。漆喰壁は日本の伝統的な左官技術の粋を集めたもので、何十年もの風雪に耐えてきたその姿は、匠の技の素晴らしさを証明しています。

側面に積まれた煉瓦は、明治という時代の特色を如実に物語るディテールです。文明開化の時代、西洋から導入された煉瓦は近代化の象徴であり、それを伝統的な町家建築に取り入れたことは、当時の人々の進取の気性を感じさせます。

内部に目を向けると、南側の通り土間と北側の居室という、町家特有の効率的な空間構成が見られます。そして座敷には黒檀をはじめとする銘木がふんだんに使われており、その重厚で優美な雰囲気は、格式ある接客空間としての役割を今も感じさせます。

周辺の見どころ

吉田家住宅主屋が位置する鹿島市は、歴史と文化の宝庫です。周辺には見逃せない観光スポットが数多くあります。

中でも特に訪れていただきたいのが「肥前浜宿」です。2006年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されたこのエリアは、酒蔵通りと茅葺の町並みという二つの特色ある地区で構成されています。酒蔵通りには白壁土蔵造りの大型酒蔵が立ち並び、現在も複数の酒蔵が醸造を続けています。多良岳山系の良質な地下水と佐賀平野の米に恵まれたこの地は、古くから銘酒の産地として知られ、地酒の試飲や酒蔵見学を楽しむことができます。

茅葺の町並みには、有明海に面した港町として栄えた時代の面影が残ります。漁師町として発展した地区には、茅葺き屋根の民家が密集し、昔ながらの風景が今も守られています。

また、日本三大稲荷の一つに数えられる祐徳稲荷神社も車で約10分の距離にあります。年間約300万人もの参拝者が訪れるこの神社は、総漆塗りの華麗な社殿が見事で、「鎮西日光」とも称されています。本殿は清水寺を思わせる舞台造りで、境内からは周囲の山々を一望できます。

訪問案内

吉田家住宅主屋へのアクセスは、JR長崎本線の肥前鹿島駅が最寄り駅となります。福岡市のJR博多駅から特急で約1時間、JR佐賀駅からは約20分です。

お車でお越しの場合は、長崎自動車道の武雄インターチェンジまたは嬉野インターチェンジから約30〜40分です。

鹿島市観光の際は、吉田家住宅主屋とともに、肥前浜宿の酒蔵通りや茅葺の町並み、そして祐徳稲荷神社を組み合わせて巡ることをお勧めします。コンパクトなエリアに見どころが集中しているため、一日で複数のスポットを訪れることが可能です。

肥前浜駅の観光案内所ではレンタサイクルの貸し出しも行っており、歴史ある町並みを自転車でのんびりと巡るのも良いでしょう。また、嬉野温泉や武雄温泉といった佐賀県を代表する温泉地へもバスで40〜45分ほどでアクセスできるため、日中は鹿島で観光を楽しみ、夕方からは温泉でゆっくり過ごすというプランもおすすめです。

Q&A

Q居蔵造とはどのような建築様式ですか?
A居蔵造は、二重屋根を特徴とする九州地方独特の建築様式です。草葺き屋根から瓦葺き屋根への移行期に発展し、上屋根と下屋根の間に空間を設けることで優れた断熱効果を実現しています。吉田家住宅主屋は、この居蔵造の形態を良好に伝える貴重な建築遺産です。
Q吉田家住宅主屋は見学できますか?
A吉田家住宅主屋は国の登録有形文化財ですが、個人所有の可能性があるため、見学の可否や条件は変動する場合があります。訪問前に鹿島市観光協会または鹿島市商工観光課にお問い合わせいただくことをお勧めします。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A近隣には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された肥前浜宿があり、酒蔵通りでの地酒試飲や酒蔵見学が人気です。また、日本三大稲荷の一つ・祐徳稲荷神社も車で約10分の距離にあります。発酵食品の生産が盛んな地域でもあり、醤油や味噌、漬物なども名産品です。
Q鹿島市へのアクセス方法を教えてください。
AJR博多駅から長崎本線の特急で肥前鹿島駅まで約1時間、JR佐賀駅からは約20分です。お車の場合は長崎自動車道の武雄ICまたは嬉野ICから約30〜40分です。肥前浜駅の観光案内所ではレンタサイクルも利用できます。
Q吉田家住宅主屋の建築的な見どころは何ですか?
A主な見どころとして、入母屋造の桟瓦葺による格式高い屋根、白漆喰仕上げの美しい大壁、明治時代の西洋文化の影響を示す煉瓦積みの腰壁、そして座敷に使われた黒檀をはじめとする銘木の数々があります。伝統と近代が融合した明治期の町家建築の粋を見ることができます。

基本情報

名称 吉田家住宅主屋(よしだけじゅうたくしゅおく)
文化財区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2009年(平成21年)1月8日
建築年代 明治時代(1868年〜1911年)
構造・規模 木造2階建、瓦葺、建築面積228㎡
建築様式 居蔵造の町家建築
所在地 佐賀県鹿島市大字中村字本町103
最寄り駅 JR長崎本線 肥前鹿島駅

参考文献

文化遺産オンライン - 吉田家住宅主屋(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/144861
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/
肥前浜宿(ひぜんはましゅく) - 鹿島市公式サイト
https://www.city.saga-kashima.lg.jp/main/324.html
鹿島市公式観光サイト かしまいろ
https://saga-kashima-kankou.com/
祐徳稲荷神社 公式サイト
https://www.yutokusan.jp/
肥前浜宿まちづくり公社 公式サイト
https://hizenhamashuku.com/

最終更新日: 2026.01.02

近隣の国宝・重要文化財