1巻の典籍 ― 1953年に国宝
六祖恵能伝は、滋賀県の延暦寺が所有する唐時代の書跡・典籍で、1953年(昭和28年)3月31日に国宝に指定された。員数は1巻、指定番号は00158である。
文化庁データベースの重要文化財指定年月日の欄は空で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されている。これまで扱った中で26件目にあたる。
国宝となった1953年3月31日は、浄土寺多宝塔、浄土寺本堂、園城寺金堂、崇福寺大雄宝殿、崇福寺第一峰門と同じ日である。
国の欄が、中国とされている
六祖恵能伝の記録の国の欄には、日本以外の名がある。
国は中国、時代は唐とされる。年代の欄と西暦の欄はどちらも803である。
日本の制度による国宝でありながら、作られた国は中国と記されている。
喪乱帖では、王羲之の真筆が現存せず、唐時代の模本が国宝となっていた。あちらも中国に由来するが、記録の国の欄までは確認していない。
本件は、国の欄がはっきりと中国を示している。時代の欄も日本の時代区分ではなく唐である。
所有は延暦寺で、日本にある。作られた場所と、いまある場所が国をまたいでいる。
一文の解説が、「唐時代の作品。」である
六祖恵能伝の解説文は一文のみである。ただし文面がこれまでと違う。
唐時代の作品。とある。
ここまで一文だけの解説を23件見てきた。梨地螺鈿金荘餝劔も、催馬楽譜も、延喜式も、一字一仏法華経序品も、いずれも「平安時代の作品。」だった。
本件は「唐時代の作品。」である。同じ形式でありながら、入る時代の名が違う。
一文解説としては24件目にあたるが、平安以外の時代が入る例はこれが初めてになる。
書式は同じで、中身だけが物件に合わせて置き換わっている。記録の作られ方が読み取れる。
ト書に、中国の元号で日付が入る
六祖恵能伝の年代の根拠は、ト書の欄にある。
貞元十九年二月十三日奥書、とある。貞元は唐の元号で、貞元十九年は803年にあたる。
年代の欄と西暦の欄も803である。ト書と年代の欄が一致している。
延喜式〈巻第十二残巻、第十四/第十六〉では、年代の欄が空でト書の欄に大治二年の奥書があった。日本の元号である。
一字一仏法華経序品では、年代の欄もト書の欄も空だった。
本件は年代の欄とト書の欄の両方が埋まり、しかも中国の元号で日付まで示されている。三つの物件で、欄の埋まり方が三通りに分かれる。
鑑賞
所有は延暦寺である。所在都道府県の欄は滋賀県とされるが、所在地の欄は空で、これで9件目になる。
寺が保管する典籍であり、常設で公開される性格のものではない。紙に書かれたものは光に弱く、公開期間が限られる。
同じ延暦寺は宝相華蒔絵経箱も所有している。こちらは工芸品で、同じく所在地の欄が空である。所有者が同じで分野が違う。
寸法・重量の欄、品質・形状の欄、作者の欄、画賛・奥書・銘文等の欄、伝来の欄はいずれも空である。
公開の予定は寺の定めによる。訪問前に延暦寺の案内で確認したい。
Q&A
- 六祖恵能伝はいつ国宝に指定されましたか。
- 1953年(昭和28年)3月31日です。員数は1巻、指定番号は00158、所有は延暦寺です。重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ていません。
- どこで作られたものですか。
- 文化庁の記録は国を中国、時代を唐とします。日本の制度による国宝でありながら、作られた国は中国と記されています。所有は日本の延暦寺です。
- いつのものですか。
- 年代の欄と西暦の欄がどちらも803です。ト書の欄にも「貞元十九年二月十三日奥書」とあり、貞元は唐の元号で貞元十九年は803年にあたります。
- 解説には何が書かれていますか。
- 「唐時代の作品。」の一文のみです。一文だけの解説はこれで24件目ですが、これまではいずれも「平安時代の作品。」で、平安以外の時代が入る例は初めてになります。
- 寸法はどのくらいですか。
- 記載がありません。寸法・重量の欄、品質・形状の欄、作者の欄、画賛・奥書の欄、伝来の欄はいずれも空です。所在地の欄も空で、都道府県のみ滋賀県とされます。
基本情報
| 名称 | 六祖恵能伝(ろくそえのうでん) |
|---|---|
| 所在地 | 所在都道府県の欄は滋賀県。所在地の欄は空で、所有者は延暦寺とされる |
| 指定区分 | 国宝(書跡・典籍)/指定番号00158/重要文化財を経ずに国宝へ指定/国の欄は中国 |
| 指定年 | 1953年(昭和28年)3月31日 国宝 |
| 員数 | 1巻 |
| 寸法 | 寸法・重量、品質・形状、作者、画賛・奥書、伝来の欄はいずれも空。年代の欄と西暦の欄はどちらも803で、ト書の欄に「貞元十九年二月十三日奥書」とある。国は中国、時代は唐 |
| 所有者 | 延暦寺 |
| 公開状況 | 寺が保管する典籍で、常設の公開ではない。紙に書かれたものは光に弱く、公開期間が限られる |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 六祖恵能伝
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/682
- 比叡山延暦寺 国宝殿
- https://www.hieizan.or.jp/keidai/kokuhoden
- 比叡山延暦寺 公式サイト
- https://www.hieizan.or.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.06