1巻の図像 ― 1953年に国宝

紙本墨画五部心観(巻初を欠く)は、滋賀県の園城寺が所有する平安時代の図像で、1953年(昭和28年)3月31日に国宝に指定された。員数は1巻、分類は絵画、国は日本である。附指定はない。

文化庁データベースの重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されている。これまで扱った中で14件目にあたる。

解説文は「平安時代の作品。」の一文のみである。一文だけの解説は、これで9件目となる。

欠損が名称に書き込まれている

この物件の名称に注目したい。紙本墨画五部心観(巻初を欠く)である。

括弧の中に「巻初を欠く」とある。巻の初めの部分が失われていることが、名称そのものに書かれている。

作品の状態が名前になっている例は、他にもある。指定番号00072の紙本著色花下遊楽図は、名称に「右隻の二扇を欠く」と記される。屏風の右側の二扇が失われていることが、やはり名称に入っている。

紙本金地著色松に草花図では、名称の山括弧のスラッシュの前が空で、作者が記録されていないことを示していた。名称が示すのは、そこに何があるかだけではない。何が欠けているかも示す。

紙本墨画鳥獣人物戯画では、脱落や錯簡があることが本体の記録に書かれず、断簡の記録にしか現れなかった。名称に欠損を書き込む方式であれば、記録を追わなくても状態が分かる。

同じ指定番号の下に、完本と欠損本がある

指定番号を見ると、構造が分かる。

本件は指定番号00073、枝番02である。同じ00073の枝番01に、紙本墨画五部心観(完本)がある。こちらも1巻で、園城寺が所有する。

一つの指定番号の下に、二つの巻が枝番で分かれている。枝番01が完本、枝番02が巻初を欠く巻である。

完本が先の番号になっている。同じ本文をもつ二巻が、状態の違いによって別々に記録され、しかも一つの指定にまとめられている。

絹本著色夏景山水図と絹本著色秋景冬景山水図は、もと一組と記されながら別々の物件だった。この例は逆で、二巻が一つの指定番号を共有する。

枝番という仕組み

枝番は、これまで扱った物件では大半が00だった。

紙本金地著色松に草花図は00042の枝番00、紙本著色西行法師行状絵詞は01218の枝番00である。枝番が01や02になるのは、一つの指定が複数の品を含む場合にあたる。

員数が複数であることとは別の仕組みである。絹本著色十六羅漢像は16幅を一つの物件として数え、枝番は使わない。一方この二巻は、それぞれ1巻として別の記録をもち、指定番号だけを共有する。

まとめるか分けるかの判断が、員数と枝番という二つの仕組みで表されている。

文化庁は、なぜこの二巻を枝番で分けたのかを記していない。状態が大きく異なるためと考えられるが、記録からは分からない。

鑑賞

所有は園城寺で、滋賀県大津市にある。寺が所蔵する図像であり、常設で公開される性格のものではない。

紙に描かれたものは光に弱く、公開期間が限られるのが通例である。長い巻であるため、一度に全体を広げて展示することは難しい。

完本と巻初を欠く巻は別の記録をもつため、二巻が揃って展示されるとは限らない。

拝観の条件は変わることがあるため、訪問前に園城寺の案内で確認したい。

Q&A

Q紙本墨画五部心観はいつ国宝に指定されましたか。
A1953年(昭和28年)3月31日です。員数は1巻、分類は絵画、所有は園城寺、指定番号は00073の枝番02で、附指定はありません。重要文化財を経ずに国宝へ指定されています。
Q名称の「巻初を欠く」とは何ですか。
A巻の初めの部分が失われていることを示します。作品の欠損が名称そのものに書き込まれており、指定番号00072の紙本著色花下遊楽図も「右隻の二扇を欠く」と名称に記されます。
Q完本もあるのですか。
Aあります。同じ指定番号00073の枝番01に紙本墨画五部心観(完本)があり、こちらも1巻で園城寺が所有します。一つの指定番号の下に、完本と巻初を欠く巻が枝番で分かれています。
Q枝番とは何ですか。
A一つの指定が複数の品を含むときに使われる番号です。これまで扱った物件では大半が00でした。員数が複数であることとは別の仕組みで、十六羅漢像は16幅を一つの物件として数え枝番を使いません。
Q鑑賞できますか。
A寺が所蔵する図像であり、常設の公開ではありません。紙に描かれたものは光に弱く、長い巻であるため一度に全体を広げての展示は難しく、完本と揃って展示されるとも限りません。

基本情報

名称紙本墨画五部心観(巻初を欠く)(しほんぼくがごぶしんかん)
所在地滋賀県。所有者は園城寺
指定区分国宝(絵画)/指定番号00073の枝番02/附指定はない/枝番01は完本
指定年1953年(昭和28年)3月31日 国宝
員数1巻
寸法文化庁の解説文は「平安時代の作品。」の一文のみで、寸法も内容も記されていない。名称に巻初を欠くとあり、巻の初めの部分が失われている。国は日本、時代は平安
所有者園城寺
公開状況寺が所蔵する図像で、常設の公開ではない。長い巻のため全体を広げての展示は難しい

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 紙本墨画五部心観(巻初を欠く)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/76
文化庁 国指定文化財等データベース 紙本墨画五部心観(完本)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/77
文化遺産オンライン 五部心観(巻初を欠く)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/125274
三井寺 文化財のご紹介
https://miidera-museum.jp/unesco/contents/gobushinkan/

最終更新日: 2026.09.05