1口の薙刀 ― 1957年に国宝
薙刀〈銘備前国長船住人長光造〉は、静岡県三島市中田町1-43の佐野美術館にある鎌倉時代の工芸品で、1937年(昭和12年)5月25日に重要文化財となり、1957年(昭和32年)2月19日に国宝に指定された。員数は1口、所有は公益財団法人佐野美術館である。
国宝となった1957年2月19日は、蝶螺鈿蒔絵手箱、太刀〈銘光世作(名物大典太)〉と同じ日である。この日に国宝となった物件は、これで3件目になる。
作者の欄は備前国長船住人長光とする。銘をそのまま作者名としている。
茎が、刀身より20センチ長い
寸法の数字に目を引くものがある。
身長43.3、反1.8、元幅3.2、茎長63.6(㎝)、とある。
身長は刃のある部分の長さ、茎は柄に入る部分をいう。身長43.3センチメートルに対し、茎長は63.6センチメートルである。
刀身より、柄に隠れる部分のほうが20センチメートルほど長い。
刀〈金象嵌銘正宗本阿花押〉は刃長67.0センチメートル、短刀〈銘吉光〉は身長27.7センチメートルに茎長11.4センチメートルだった。刀や短刀では、茎は刀身より短い。
薙刀は長い柄の先に刃を付ける。柄に深く差し込むため、茎が長くなる。数字が構造を示している。
消耗品だったことが、希少さの理由になっている
なぜ残りにくいのかが記録される。
佐野美術館は、薙刀は鎌倉時代から室町時代にかけて、実戦で使われた消耗品であるため、本品のように保存状態がよいものは非常に珍しい、と記す。
使い捨てられる道具だった。だから良い状態のものが残っていない。
文化庁も、この工に限らず、現存する鎌倉時代の薙刀は極めて少ない、とする。続けて、地刃の出来が優れ、かつ健全で、生ぶ茎有銘の作は稀有である、と記す。
武蔵埼玉稲荷山古墳出土品の「現存最古」、福岡県平原方形周溝墓出土品の「他を凌駕した数量」、埴輪武装男子立像の「最も優れた作品」は、古さや数や質を言うものだった。
本件は、なぜ残っていないかを説明したうえで、残っていることを価値としている。
所蔵館の記録は、県を岡山県とする
所在についても記録が揃わない。
文化庁の記録は所在地を静岡県三島市中田町1-43とする。所蔵館である佐野美術館も静岡県三島市にある。
ところが佐野美術館の別のレコードは、県の欄を岡山県とする。作者の長光は備前長船、現在の岡山県の刀工である。
作られた土地が県の欄に入ったものと見られる。分類も、文化庁は工芸品、こちらは金工とする。
蝶螺鈿蒔絵手箱では、県の欄が千葉県で住所が東京都だった。曜変天目茶碗では、二つの記録が丸の内と世田谷で食い違った。
本件は、作者の出身地が所在の欄に現れている。本稿は住所に従い、静岡県三島市と記す。
鑑賞
所在は佐野美術館で、所有は公益財団法人佐野美術館である。館が保管する薙刀であり、常設で公開される性格のものではない。
茎の記述が細かい。茎は生ぶ。先栗尻。鑢目浅い筋違。目釘孔3、目釘孔の下表裏に梵字を刻し、その下佩表に長銘がある、とある。
目釘孔は3つである。太刀〈銘正恒〉は原目釘孔が1つ、太刀〈銘三条〉と太刀〈銘光世作〉は2つ、短刀〈銘吉光〉は4つだった。
梵字が刻まれている点も他になかった。彫刻についても、表裏に薙刀樋に護摩箸を添え、ともに掻流す、とある。
なお旧来の記述に「国宝の薙刀は2振のみ」とするものが見られるが、文化庁の記録に振数の記載はない。東京国立博物館の薙刀〈銘長光〉は1949年の重要文化財である。展示の予定は変わることがあるため、訪問前に確認したい。
Q&A
- この薙刀はいつ指定されましたか。
- 1937年(昭和12年)5月25日に重要文化財、1957年(昭和32年)2月19日に国宝へ指定されました。員数は1口、所在は佐野美術館、所有は公益財団法人佐野美術館です。
- 寸法はどのくらいですか。
- 身長43.3センチメートル、反り1.8センチメートル、元幅3.2センチメートル、茎長63.6センチメートルです。刀身より、柄に隠れる茎のほうが20センチメートルほど長くなっています。
- なぜ珍しいのですか。
- 佐野美術館は「薙刀は鎌倉時代から室町時代にかけて、実戦で使われた消耗品であるため、本品のように保存状態がよいものは非常に珍しい」と記します。文化庁も「現存する鎌倉時代の薙刀は極めて少ない」とします。
- 茎には何が刻まれていますか。
- 文化庁は「目釘孔3、目釘孔の下表裏に梵字を刻し、その下佩表に長銘がある」と記します。目釘孔は3つあり、梵字と長い銘が刻まれています。
- 国宝の薙刀は2振だけですか。
- 文化庁の記録に振数の記載はありません。旧来の記述にそうするものが見られますが、本稿はこの数字を記していません。東京国立博物館の薙刀〈銘長光〉は1949年の重要文化財です。
基本情報
| 名称 | 薙刀〈銘備前国長船住人長光造〉(なぎなた めいびぜんのくにおさふねじゅうにんながみつぞう) |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県三島市中田町1-43。所蔵館の別レコードは県の欄を岡山県とするが、これは作者の出身地にあたる |
| 指定区分 | 国宝(工芸品)/所蔵館の記録は金工とする |
| 指定年 | 1937年(昭和12年)5月25日 重要文化財/1957年(昭和32年)2月19日 国宝 |
| 員数 | 1口 |
| 寸法 | 身長43.3センチメートル、反り1.8センチメートル、元幅3.2センチメートル、茎長63.6センチメートル。薙刀造、三ッ棟で、茎は生ぶ、目釘孔は3つ。目釘孔の下に梵字を刻す。作者は備前国長船住人長光、時代は鎌倉 |
| 所有者 | 公益財団法人佐野美術館 |
| 公開状況 | 館が保管する薙刀で、常設の公開ではない |
参考文献
- 文化遺産オンライン 薙刀〈銘備前国長船住人長光造/〉
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/197550
- 文化遺産オンライン 薙刀 銘 備前国長船住人長光造(佐野美術館)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/140834
- 文化遺産オンライン 薙刀〈銘長光〉(東京国立博物館・重要文化財)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/183612
- 佐野美術館 公式サイト
- https://sanobi.or.jp/
最終更新日: 2026.09.05