1合の手箱 ― 1957年に国宝
蝶螺鈿蒔絵手箱は、東京都港区白金台2-20-12にある鎌倉時代の工芸品で、1931年(昭和6年)1月19日に重要文化財となり、1957年(昭和32年)2月19日に国宝に指定された。員数は1合、所有は公益財団法人荏原畠山記念文化財団である。
寸法は縦26.4センチメートル、横35.1センチメートル、高さ21.2センチメートルである。
重要文化財となった1931年1月19日は、姫路城イ、ロ、ハ、ニの渡櫓や太刀〈銘正恒〉と同じ日にあたる。
記録にローマ字が混入している
品質・形状の欄に、明らかな誤りがある。
螺鈿のtひょうと牡丹花はほとんどが精緻な切透かし法により、とある。
tひょう、と読める。前後の文脈から、蝶であるべき箇所である。名称も蝶螺鈿蒔絵手箱であり、直前の文にも蝶の羽根には三つ巴、と出てくる。
入力の途中でローマ字が残ったものと考えられる。ここまで記録の破損をいくつか見てきた。阿高・黒橋貝塚では「塚」が〓に置き換わり、二子山石器製作遺跡では「母岩」が母岸となっていた。
それらは漢字の範囲内の誤りだった。本件はローマ字が混じっている。破損の型としては初めてになる。
本稿は蝶と解して記す。
県の欄と所在地が食い違う
所在についても記録が揃わない。
文化遺産オンラインは県を千葉県とし、所在地を東京都港区白金台2-20-12とする。県と住所が一致しない。
CMSは千葉県と東京都の両方を持つ。所有者は公益財団法人荏原畠山記念文化財団で、その施設は東京都港区にある。
曜変天目茶碗(稲葉天目)では、国指定文化財等データベースが千代田区丸の内、CMSが世田谷区岡本とし、館の移転によると考えられた。福岡県平原方形周溝墓出土品では、記録が前原市、旧記述が糸島市だった。
本件は県の欄だけが住所と合わない。所有者や保管施設の所在が変わった経緯によると考えられるが、記録に説明はない。本稿は住所を東京都港区として記す。
三つの技法が、三つの色に対応している
評価の書き方に特徴がある。
金研出蒔絵、螺鈿、銀平文の三種類の技法を用い、蝶文を表した手箱である、とある。
続けて、蒔絵の金色、螺鈿の白色、平文の銀色で色彩的な印象を強め、と記される。
技法が三つ、色が三つ、順番も対応している。技法を挙げてから、それぞれがどの色を出すかを並べている。
色絵藤花文茶壺では、赤、緑、紫、銀、金と五色が並んでいた。あちらは絵の具の色を数え上げるだけである。本件は技法と色を組にして示している。
結びは、大型の器形や精緻な技法と共に、鎌倉時代の特色を如実に示す、同時代の代表作である、となる。
鑑賞
所在は東京都港区白金台で、所有は公益財団法人荏原畠山記念文化財団である。館が保管する手箱であり、常設で公開される性格のものではない。
形も細かい。口縁に錫の置口を廻らした合口造の箱。ゆるやかな甲盛り、胴張りがあり、身の長側面には調形の金銅紐金物を打つ。内に懸子を納める、とある。
文様の配置も、前面に牡丹唐草と蝶を配し、蝶の羽根には三つ巴、小花、小円、渦文などを表す、と記される。羽根一枚のなかにさらに文様がある。
見えない部分にも及ぶ。蓋裏と懸子のまわりには梨子地に研出蒔絵で群舞する蝶を描く。身と懸子の内面に青地牡丹文緞子を貼る、とある。蓋を開けなければ見えない面にも蝶が舞う。
所蔵館は、内箱表に松平不昧の筆による書き付けがあると記す。中身だけでなく容れ物にも記録が残っている。展示の予定は変わることがあるため、訪問前に館の案内で確認したい。
Q&A
- 蝶螺鈿蒔絵手箱はいつ指定されましたか。
- 1931年(昭和6年)1月19日に重要文化財、1957年(昭和32年)2月19日に国宝へ指定されました。員数は1合、所有は公益財団法人荏原畠山記念文化財団です。
- 記録に誤りがあるのですか。
- 品質・形状の欄に「螺鈿のtひょうと牡丹花は」とあり、蝶であるべき箇所にローマ字が混入しています。入力の途中で残ったものと考えられ、本稿は蝶と解しています。
- 所在地はどこですか。
- 東京都港区白金台2-20-12です。ただし文化遺産オンラインの県の欄は千葉県とされており、住所と一致しません。記録に説明はなく、本稿は住所に従っています。
- どのような技法が使われていますか。
- 文化庁は「金研出蒔絵、螺鈿、銀平文の三種類の技法を用い」とし、「蒔絵の金色、螺鈿の白色、平文の銀色で色彩的な印象を強め」と記します。技法と色が順に対応しています。
- 見えない部分にも装飾があるのですか。
- あります。「蓋裏と懸子のまわりには梨子地に研出蒔絵で群舞する蝶を描く」「身と懸子の内面に青地牡丹文緞子を貼る」とされ、蓋を開けなければ見えない面にも蝶が舞います。
基本情報
| 名称 | 蝶螺鈿蒔絵手箱(ちょうらでんまきえてばこ) |
|---|---|
| 所在地 | 東京都港区白金台2-20-12。ただし文化遺産オンラインの県の欄は千葉県とされ、住所と一致しない |
| 指定区分 | 国宝(工芸品) |
| 指定年 | 1931年(昭和6年)1月19日 重要文化財/1957年(昭和32年)2月19日 国宝 |
| 員数 | 1合 |
| 寸法 | 縦26.4センチメートル、横35.1センチメートル、高さ21.2センチメートル。口縁に錫の置口を廻らした合口造で、内に懸子を納める。金研出蒔絵・螺鈿・銀平文の3種の技法を用いる。時代は鎌倉 |
| 所有者 | 公益財団法人荏原畠山記念文化財団 |
| 公開状況 | 館が保管する手箱で、常設の公開ではない |
参考文献
- 文化遺産オンライン 蝶螺鈿蒔絵手箱
- https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/125694
- 荏原畠山美術館 蝶螺鈿蒔絵手箱
- https://www.hatakeyama-museum.org/collection/lacquer/000050.html
- 荏原畠山美術館 公式サイト
- https://www.hatakeyama-museum.org/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.05