668年の墓誌 ― 1961年に国宝
銅製船氏王後墓誌は、東京都中央区日本橋室町の三井記念美術館が所蔵する銅板の墓誌で、1961年(昭和36年)4月27日に国宝に指定された。それに先立つ1953年(昭和28年)3月31日には重要文化財となっている。員数は1面、種別は考古資料、指定番号は00026。読みは「どうせいふなしおうごぼし」である。
文化庁の解説文は一行しかない。「奈良時代の資料。」評価の言葉が残されていない物件であり、記録から読み取れるのは員数と年代と出土地に限られる。
ト書には出土の情報が記される。戊辰年十二月殯葬於松岳山在銘、大阪府柏原市大字国分松岡山出土。戊辰年は668年にあたり、銘文にこの年が刻まれている。
時代欄と年代欄が合わない
文化庁のデータベースには、内部で整合しない記載がある。
時代欄は「奈良」、年代欄と西暦欄はいずれも「668」である。しかし奈良時代は和銅3年(710年)の平城京遷都からとするのが通例で、668年はその42年前、飛鳥時代にあたる。解説文も「奈良時代の資料」とする。
銘文の戊辰年が668年を指すことは動かない。時代区分の記載が年代と合っていない、という形の食い違いである。本稿は年代(668年)を採り、時代区分の記載に相違があることを記すにとどめる。
668年は天智天皇7年にあたる。近江大津宮の時代である。
銘文が伝えること
墓誌は、被葬者の経歴を記して墓に納める板である。銅板に文字を刻み、埋葬とともに埋める。
ト書に引かれる「戊辰年十二月殯葬於松岳山」は、戊辰年の十二月に松岳山に殯葬したという意味である。殯葬は、遺体を仮に安置する殯を経て葬ることをいう。埋葬の年月と場所が銘文に記されていることになる。
柏原市の記録によれば、船氏王後は百済系の渡来氏族である船氏の人で、その経歴が銘文に刻まれている。渡来系の氏族の個人について、当人の墓から出た文字資料があるという点が、この墓誌の性格を示す。
出土地の松岡山(松岳山)は大阪府柏原市国分にある。古墳の所在地であり、墓誌はそこから出土した。現在は東京の美術館が所蔵しており、出土地と保管地が離れている。
墓誌という資料の性格
古代の日本で、年月を明記した文字資料は多くない。
木簡や金石文はあるが、個人の経歴と没年を記した墓誌はさらに限られる。銅製船氏王後墓誌のほか、銅製美努岡万連墓誌など数点が知られる程度である。
墓誌が貴重なのは、書かれた年が動かせないためである。後世の写本ではなく、埋葬時に作られてそのまま埋められた。銘文の戊辰年は、その時点で刻まれた年である。
文化庁の解説が「奈良時代の資料」の一言にとどまるのに対し、指定番号00026という若い番号は、考古資料としての早い時期の指定であることを示す。重要文化財が1953年、国宝が1961年である。
鑑賞
銅製船氏王後墓誌は三井記念美術館が所蔵する。常設展示ではなく、展示の有無と時期は美術館の予定による。
開館時間と観覧料は展覧会により異なるため、訪問前に美術館の案内で確認したい。実物を目当てにする場合は、出陳の有無を必ず確かめたい。
出土地の松岳山古墳は大阪府柏原市国分市場にある。墓誌そのものは現地にないが、古墳は残っている。遺物と出土地が別の府県にあるので、両方を見るには二度の移動が要る。
三井記念美術館へは、東京メトロ銀座線・半蔵門線の三越前駅から徒歩約1分、三井本館7階である。
Q&A
- 銅製船氏王後墓誌はいつ国宝に指定されましたか。
- 1961年(昭和36年)4月27日です。それに先立つ1953年(昭和28年)3月31日に重要文化財となっています。員数は1面、種別は考古資料、指定番号は00026。銘文の戊辰年は668年にあたります。
- 文化庁の時代欄が「奈良」なのはなぜですか。
- データベースの時代欄は「奈良」ですが、年代欄と西暦欄はいずれも668です。奈良時代は710年の平城京遷都からとするのが通例で、668年はその42年前にあたります。時代区分の記載が年代と合っておらず、本稿は年代を採り相違を記すにとどめています。
- 墓誌とは何ですか。
- 被葬者の経歴を記して墓に納める板です。ト書に引かれる銘文は「戊辰年十二月殯葬於松岳山」で、戊辰年の十二月に松岳山に殯葬したという意味です。殯葬は遺体を仮に安置する殯を経て葬ることをいい、埋葬の年月と場所が銘文に記されています。
- どこから出土したのですか。
- 文化庁のト書は「大阪府柏原市大字国分松岡山出土」と記します。柏原市の記録によれば、船氏王後は百済系の渡来氏族である船氏の人です。現在は東京の三井記念美術館が所蔵しており、出土地と保管地が離れています。
- 銅製船氏王後墓誌は見られますか。
- 三井記念美術館が所蔵しますが常設展示ではなく、展示の有無と時期は美術館の予定によります。開館時間と観覧料も展覧会により異なるため、訪問前に確認してください。東京メトロ三越前駅から徒歩約1分、三井本館7階です。
基本情報
| 名称 | 銅製船氏王後墓誌(どうせいふなしおうごぼし) |
|---|---|
| 所在地 | 東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階 三井記念美術館 |
| 指定区分 | 国宝(考古資料)/指定番号00026 |
| 指定年 | 1953年(昭和28年)3月31日 重要文化財/1961年(昭和36年)4月27日 国宝 |
| 員数 | 1面 |
| 寸法 | 銅板の墓誌。銘に「戊辰年十二月殯葬於松岳山」とあり、戊辰年は668年にあたる。大阪府柏原市大字国分松岡山出土 |
| 所有者 | 三井記念美術館 |
| 公開状況 | 常設展示ではなく、展示の有無と時期は美術館の予定による。開館時間と観覧料は展覧会により異なる |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 銅製船氏王後墓誌
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/201/859
- 文化遺産オンライン 銅製船氏王後墓誌
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/178482
- 柏原市 船氏王後墓誌
- https://www.city.kashiwara.lg.jp/docs/2016081400033/
- 三井記念美術館 公式サイト
- https://www.mitsui-museum.jp/
最終更新日: 2026.09.04