国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館:戦後モダニズムとアカデミックスピリットの融合
東京都三鷹市、緑豊かな国際基督教大学(ICU)のキャンパス内に、日本の戦後モダニズム建築を代表する建物が佇んでいます。学生や教職員から「D館」の愛称で親しまれてきたディッフェンドルファー記念館は、60年以上にわたり大学コミュニティの交流の場として愛されてきました。2023年に国の登録有形文化財に指定されたこの建物は、建築的な優秀さだけでなく、戦後日本の教育における開拓精神をも象徴しています。
国際的なビジョンから生まれた建物
1958年に竣工したディッフェンドルファー記念館は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880-1964)が設立したヴォーリズ建築事務所によって設計されました。ヴォーリズはアメリカ出身の建築家、教育者、宣教師で、1941年に日本国籍を取得し「一柳米来留(ひとつやなぎ めれる)」と改名。日本全国で1,400棟以上の建築設計を手がけ、日本の建築界に大きな足跡を残しました。
この建物は、ICU設立に多大な貢献をしたラルフ・E・ディッフェンドルファー博士にちなんで名付けられました。日本で最初に構想された本格的な学生会館として、学生と教職員の交流を育む場として設計されました。その理念は今日まで受け継がれています。
建築的特徴:戦後モダニズムの真髄
ディッフェンドルファー記念館は、1950年代のモダニズム建築の特徴を顕著に示しており、2017年にはDOCOMOMO Japan(ドコモモ・ジャパン)により「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定されました。建物は地上3階、地下1階建てで、建築面積は約1,175平方メートルです。
北側のファサードは緩やかな曲線を描き、周囲の芝生や樹木と呼応するようにデザインされています。一方、南側は手摺やバルコニーで水平ラインを強調した意匠となっています。平面はロの字型で、中央に広い中庭を設けることで、親密な屋外空間を創出しています。
特筆すべきは、竣工当時のアルミサッシが現存していることです。これは日本最初期のオーダーメイドのアルミサッシで、現在主流の押出成形ではなく鋳造で製作されました。内部にスチールの補強を組み込むことで見付幅を細くし、眺望を最大限に確保するという先進的な設計が施されています。
なぜ文化財に指定されたのか
ディッフェンドルファー記念館が2023年2月に国の登録有形文化財に登録された理由は複数あります。まず、広いガラス面、水平ラインの強調、日本最初期のアルミサッシュの使用など、戦後モダニズム建築の特徴を備えた秀作であることが評価されました。
また、設計過程において学生の意向を取り入れたという点も歴史的に重要です。これは戦後の自由な大学教育を目指したICUの建学の理念を象徴するものでした。
さらに、2000年と2021年に行われた2度の大規模改修は、いずれも原設計者の後継者である一粒社ヴォーリズ建築事務所によって、当初建物の価値を損なわないよう注意深く実施されました。このような保存への継続的な取り組みも高く評価されています。
見どころと魅力
ディッフェンドルファー記念館には、数多くの見どころがあります。北側の講堂(オーディトリアム)では、講演会からコンサートまで様々な大学行事が開催されています。学生ラウンジには、大理石で囲まれた暖炉やコペンハーゲンリブを施した木製壁面パネルなど、オリジナルの意匠が残されており、当時の設計者たちの細部へのこだわりを感じることができます。
床材にも注目です。田島ルーフィング製の「Pタイル」は、当時としては画期的なビニル床タイルでした。2021年の改修では、歴史的価値の高い部分を中心にオリジナルのタイルを保存しつつ、他の部分では同じ意匠の新しいタイルに更新されました。
隣接する大学礼拝堂との関係も興味深いポイントです。礼拝堂は1954年にヴォーリズ建築事務所が設計し、1960年にアントニン・レーモンド設計事務所によって増築されました。ヴォーリズとレーモンドという二人の巨匠の建築が並び立つ姿を見ることができるのは、日本でICUキャンパスだけです。
周辺情報
ICUキャンパス自体が訪れる価値のある場所です。約62万平方メートルの広大な敷地には、豊かな緑、散策路、そして建築的に重要な建物が点在しています。キャンパスはかつて中島飛行機の三鷹研究所があった場所で、一部の建物には当時の構造が活用されています。
近隣の観光スポットとしては、三鷹の森ジブリ美術館(要予約)、井の頭恩賜公園とその弁財天、吉祥寺駅周辺の魅力的な商店街などがあります。自然の美しさと都市の利便性が調和したエリアです。
Q&A
- 一般の人もディッフェンドルファー記念館を見学できますか?
- 原則として、ICUキャンパスへの一般の方の立ち入りは制限されています。ただし、オープンキャンパスや特別なプログラムが開催されることがあります。取材や研究目的での訪問をご希望の方は、事前にICUパブリックリレーションズ・オフィスにお問い合わせください。
- DOCOMOMO Japanとは何ですか?
- DOCOMOMO(Documentation and Conservation of buildings, sites, and neighborhoods of the Modern Movement)Japanは、重要なモダニズム建築の記録と保存に取り組む国際組織の日本支部です。DOCOMOMO Japanによる選定は、その建物が近代建築史において重要な位置を占めることを示しています。
- ウィリアム・メレル・ヴォーリズとはどのような人物ですか?
- ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880-1964)は、アメリカ・カンザス州出身の建築家、教育者、宣教師です。1905年に来日し、ヴォーリズ建築事務所を設立。学校、教会、病院、商業建築など、日本全国で1,400棟以上の設計を手がけました。1941年に日本国籍を取得し「一柳米来留」と改名。代表作には関西学院大学キャンパス、神戸女学院、大丸心斎橋店などがあります。
- ICUへのアクセス方法を教えてください。
- ICUは東京都三鷹市にあります。最寄り駅はJR中央線の三鷹駅または武蔵境駅です。いずれの駅からもICU行きのバスで約15〜20分、またはタクシーをご利用ください。
- ディッフェンドルファー記念館と同じくヴォーリズが設計した建物は他にありますか?
- ICUキャンパス内には、本館(1953年竣工)、シーベリー記念礼拝堂(1959年竣工)など、ヴォーリズ建築事務所が設計した建物が複数あります。また、ICU内の泰山荘は1999年に国の登録有形文化財に指定されており、ディッフェンドルファー記念館は大学として2件目の文化財指定となりました。
基本情報
| 正式名称 | 国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館(東棟) |
|---|---|
| 英語名称 | International Christian University Diffendorfer Memorial Hall (East Building) |
| 設計 | ヴォーリズ建築事務所(担当:片桐泉) |
| 竣工年 | 1958年(昭和33年) |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造、地上3階、地下1階建 |
| 建築面積 | 約1,175㎡ |
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)、2023年2月27日登録 |
| DOCOMOMO選定 | 2017年「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」選定 |
| 所在地 | 東京都三鷹市大沢3-10-2 |
| 所有者 | 学校法人国際基督教大学 |
| アクセス | JR三鷹駅または武蔵境駅よりバスで約15〜20分 |
| 一般公開 | 構内立入は原則禁止。見学希望は大学へ要事前連絡 |
参考文献
- 国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/587676
- [インタビュー]Pタイルが彩る登録有形文化財「国際基督教大学 ディッフェンドルファー記念館 東棟」- 田島ルーフィング
- https://tajima.jp/flooring/news/pickup_vories_202211.html
- ディッフェンドルファー記念館(東棟)が国の登録有形文化財へ - 国際基督教大学公式
- https://www.icu.ac.jp/news/2211181700.html
- 国際基督教大学(ICU)ディッフェンドルファー記念館と大学礼拝堂の窓 保存、継承、そして - 窓研究所
- https://madoken.jp/article/22550/
- キャンパス・施設紹介 - 国際基督教大学
- https://www.icu.ac.jp/about/campus/
- ウィリアム・メレル・ヴォーリズ - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/ウィリアム・メレル・ヴォーリズ