飛鳥時代の壁画5面 ― 2019年に国宝

キトラ古墳壁画は、奈良県高市郡明日香村のキトラ古墳の石室に描かれていた壁画で、2019年(令和元年)7月23日に国宝に指定された。それに先立つ2018年(平成30年)10月31日には重要文化財となっている。国宝となったのは東壁・西壁・南壁・北壁・天井の計5面である。所有は国(文部科学省所管)である。

制作は7世紀末から8世紀初頭、飛鳥時代とされる。奈良文化財研究所によれば、現存する飛鳥時代の壁画は少なく、特に大陸風の図像が描かれた古墳壁画については、キトラ古墳壁画と高松塚古墳壁画の2例しか発見されていない。

指定の理由は二点である。キトラ古墳壁画には、高松塚古墳壁画では失われている朱雀の図像が良好な状態で残っていること。天井に描かれた天文図が東アジアにおける最古の例として貴重であること。この二点により、高松塚古墳壁画と並んで日本の古代絵画史を考えるうえで不可欠な作例と位置づけられた。

2026年(令和8年)7月26日、キトラ古墳は世界遺産「飛鳥・藤原の宮都」の構成資産として登録された。日本国内では27件目の世界遺産である。

四神がすべて揃う唯一の例

四神は天の四方を司る神獣で、壁画は対応する方位に合わせて配置される。東壁に青龍、南壁に朱雀、西壁に白虎、北壁に玄武が描かれている。

高松塚古墳では盗掘により南壁の朱雀が失われていた。そのため、国内で四神の図像がすべて揃うのはキトラ古墳壁画のみである。文化庁も四神すべてが現存している例は国内初と記す。

四神の下には、獣頭人身の十二支が描かれる。北壁中央の子から時計回りに、方位に合わせて各壁に3体ずつ配置された。現在確認できているのは子・丑・寅・午・戌・亥の6体である。12体のうち半分しか残っていないことは、あわせて押さえておきたい。

天文図 ― 赤道と黄道を備える

天井には天文図があり、東に金箔で太陽、西に銀箔で月が描かれる。

奈良文化財研究所は、この天文図が赤道や黄道を示す円を備えており、本格的な中国式星図としては現存する世界最古の例といえる、と記す。三重の同心円(内規・赤道・外規)と黄道が描かれ、その内側に北斗七星などの星座が配される。

星の総数は277個である。中国の天文体系に基づきながら北天の星を天文観測に即して配置し、緯度の補正もなされていると評価されている。装飾ではなく観測に基づく図であることが、この天文図の価値にあたる。

ただし文化庁の記載は「東アジア最古の現存例」であり、「世界最古」は奈良文化財研究所の「本格的な中国式星図としては」という限定つきの表現である。両者を区別して読みたい。

剥ぎ取られた壁画

壁画は現在、古墳の中にはない。

1983年11月7日に石室内の玄武が発見されて調査が始まったが、発掘後に湿気で石室内にカビが発生し、壁画の変質が進行していることが判明した。このため壁画を剥ぎ取って保存する作業が行われることとなり、文化庁は2004年8月から、損傷の激しいものから順に取り外した。

剥ぎ取られた壁画は、墳丘のかたわらに建つキトラ古墳壁画体験館「四神の館」で、温湿度を厳重に管理された環境で保存されている。壁画は古墳から切り離されて別の建物にあるという状態が、現在の保存の形である。

キトラ古墳そのものは二段築成の円墳で、上段が直径9.4メートル、テラス状の下段が直径13.8メートル、高さは上下段あわせて4メートルを少し超えると推測されている。2000年に史跡、続いて特別史跡に指定された。

見学

四神の館は入館無料で、原寸大の石室模型、複製、映像により四神・天文図・十二支が示される。通常の見学で見られるのはこちらである。

実物の壁画は、文化庁が実施する特別公開の期間にのみ公開される。申込方法や料金は公開回ごとに変わるため、訪問前に文化庁の公式ページで最新の情報を確認したい。公開は年に数回で、回によって公開される面が異なる。

同じ明日香村には高松塚古墳がある。キトラは四神が揃い天文図と十二支があり、高松塚は男女の群像が見どころで朱雀を失っている。見られるものが違うので、両方を訪ねると壁画古墳の幅が分かる。

交通は近鉄吉野線の壺阪山駅から徒歩約15分。国営飛鳥歴史公園のキトラ古墳周辺地区にある。

Q&A

Qキトラ古墳壁画はいつ国宝に指定されましたか。
A2019年(令和元年)7月23日です。それに先立つ2018年(平成30年)10月31日に重要文化財となっています。国宝となったのは東壁・西壁・南壁・北壁・天井の計5面で、制作は7世紀末から8世紀初頭の飛鳥時代とされます。
Qキトラ古墳壁画が国宝とされた理由は何ですか。
A高松塚古墳壁画では失われている朱雀の図像が良好な状態で残っていること、天井の天文図が東アジア最古の例として貴重であることの二点です。大陸風の図像をもつ古墳壁画はキトラと高松塚の2例しか発見されておらず、日本の古代絵画史に不可欠な作例とされました。
Q四神と十二支はどう描かれていますか。
A東壁に青龍、南壁に朱雀、西壁に白虎、北壁に玄武が方位に合わせて描かれ、国内で四神すべてが揃うのはキトラ古墳壁画のみです。その下に獣頭人身の十二支が北壁中央の子から時計回りに各壁3体ずつ配されますが、現在確認できるのは子・丑・寅・午・戌・亥の6体です。
Q天文図はどのようなものですか。
A三重の同心円と黄道を備え、内側に北斗七星などの星座が配され、星の総数は277個です。東に金箔の太陽、西に銀箔の月が描かれます。文化庁は東アジア最古の現存例とし、奈良文化財研究所は本格的な中国式星図としては現存する世界最古の例といえるとしています。
Qキトラ古墳壁画は見られますか。
A壁画はカビ被害のため2004年から剥ぎ取られ、四神の館で保存されています。実物は文化庁の特別公開の期間にのみ公開され、申込方法や料金は回ごとに変わるため公式ページで確認してください。四神の館は入館無料で、原寸大の石室模型や複製が常時見られます。

基本情報

名称キトラ古墳壁画(きとらこふんへきが)
所在地奈良県高市郡明日香村阿部山 キトラ古墳壁画体験館「四神の館」
指定区分国宝(絵画)/キトラ古墳は特別史跡/世界遺産「飛鳥・藤原の宮都」構成資産
指定年2018年(平成30年)10月31日 重要文化財/2019年(令和元年)7月23日 国宝/2026年(令和8年)7月26日 世界遺産登録
員数5面(東壁・西壁・南壁・北壁・天井)
寸法四神を方位に合わせて配し、その下に獣頭人身の十二支を各壁3体ずつ。天井に三重の同心円と黄道を備える天文図、星の総数277個。東に金箔の太陽、西に銀箔の月。7世紀末から8世紀初頭
所有者国(文部科学省所管)
公開状況実物は文化庁の特別公開の期間のみ。四神の館は入館無料で原寸大模型と複製を常時展示

参考文献

文化庁 キトラ古墳の概要
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/takamatsu_kitora/kitora_gaiyo.html
奈良文化財研究所 キトラ古墳壁画体験館 四神の館
https://www.nabunken.go.jp/shijin/about/
文化庁 国宝キトラ古墳壁画の公開
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/takamatsu_kitora/kitora_kokai/
国営飛鳥歴史公園 キトラ古墳
https://www.asuka-park.jp/area/kitora/tumulus/

最終更新日: 2026.09.03