はじめに:証券業界の財を今に伝える建築遺産

東京都港区白金台の閑静な住宅街に佇む三菱電機高輪荘は、日本の近代史における経済発展と建築文化の融合を象徴する貴重な文化財です。この邸宅は、主屋・洋館・蔵の3棟から構成され、かつて遠山証券の創業者・遠山芳三の東京における本邸として建設されました。

一般公開はされていませんが、2000年12月に3棟すべてが国の登録有形文化財に指定されており、山の手の住宅地開発の歴史と、昭和初期の上流階級の生活様式を知る上で極めて重要な建造物として評価されています。

歴史的背景:遠山家と証券業界

三菱電機高輪荘は、昭和6年(1931年)に株取引で財をなした遠山芳三の東京邸として建設されました。遠山芳三は遠山証券(のちに日興証券に吸収)の創業者であり、戦後の兜町では火曜会を率いた証券業界の重鎮でした。

建設地として選ばれたのは、明治学院の南方に位置する白金台の一等地です。この地域は明治・大正期から富裕層の邸宅地として発展し、多くの実業家や華族が居を構えた由緒ある住宅街でした。戦後、邸宅は三菱電機株式会社の所有となり、現在も同社の施設として大切に維持管理されています。

なお、遠山芳三は日興証券の創業者である遠山元一の従兄にあたります。遠山元一が故郷の埼玉県川島町に建設した旧遠山邸(現・遠山記念館)は国の重要文化財に指定されており、両家の邸宅はともに昭和初期の近代和風建築の傑作として知られています。

建築的特徴:3棟の文化財建造物

主屋(しゅおく)

主屋は、昭和初期の近代和風住宅の典型的な姿を今に伝える木造2階建ての建物です。入母屋造り、桟瓦葺きの屋根を持ち、建築面積は約410平方メートルに及びます。

間取りの特徴として、東端に玄関と応接室を配置し、西方に向かって10畳・8畳、8畳・8畳、8畳・6畳の和室セットを雁行(がんこう)させる構成をとっています。この「雁行型」と呼ばれる配置は、各部屋から庭園への眺望を確保しながら、空間に奥行きと変化を与える巧みな設計手法です。上流階級の邸宅に見られる高度な空間構成の技を見ることができます。

洋館(ようかん)

洋館は主屋の西方に独立して建つ木造2階建ての建物で、寄棟造り、桟瓦葺きの屋根を持ちます。建築面積は約55平方メートルです。

北東端の階段上がり口で主屋西端の廊下に接続する設計となっており、西南端には約1間半(約2.7メートル)四方のサンルームが張り出しています。このサンルームは、庭園を眺めながら西洋式の生活を楽しむための空間として設けられました。

南庭に臨む主屋の奥座敷とともに、この洋館は「和館洋館併存型」と呼ばれる住宅構成を示す好例です。明治から昭和初期にかけて、上流階級の邸宅では日本間と洋間を併せ持つスタイルが流行し、本邸はその建築様式を忠実に体現しています。

蔵(くら)

蔵は主屋西北端の厨房部の西側に建つ鉄筋コンクリート造の建物で、地上3階・地下1階の計4層構造となっています。建築面積は約41平方メートルです。

地階を車庫として利用し、上階は倉庫として使用されました。南面には下屋庇を差し掛けて「蔵前」と呼ばれる空間を設け、伝統的な土蔵のスタイルを踏襲しています。屋根は陸屋根(平らな屋根)に造られており、その箱形状の意匠は昭和初期における近代土蔵としての特色をよく示しています。

木造が主流であった邸宅建築において、鉄筋コンクリート造の蔵を設けることは、防火性と耐久性への高い意識を示すとともに、新しい建築技術への積極的な姿勢を表しています。

登録有形文化財に指定された理由

三菱電機高輪荘の3棟は、2000年(平成12年)12月4日に国の登録有形文化財(建造物)に指定されました。その主な理由は以下の通りです。

  • 都市史的価値:山の手の住宅地開発の様相を知る上で貴重な建造物群であること
  • 建築史的価値:昭和初期の近代和風住宅の典型的な姿を今に伝えていること
  • 文化的価値:和館洋館併存型という上流階級の生活様式を示す建築構成を有すること
  • 技術的価値:近代的な鉄筋コンクリート造と伝統的な木造建築が共存する希少な事例であること

これらの建物は、大正から昭和にかけての東京における富裕層の住まい方と、その時代の建築技術・デザインの粋を今に伝える貴重な証人なのです。

見学に関する情報

三菱電機高輪荘は、現在一般には公開されていません。敷地は高い塀に囲まれており、外観すらほとんど見ることができない状況です。また、特別公開などのイベント情報も現時点では確認されていません。

しかしながら、建築や文化財に興味をお持ちの方は、周辺に点在する見学可能な歴史的建造物や庭園を訪れることで、白金台という地域が持つ豊かな文化的遺産を堪能することができます。

周辺の見どころ

白金台エリアには、三菱電機高輪荘を訪れた際にぜひ立ち寄りたい魅力的なスポットが数多くあります。

明治学院大学 白金キャンパス

高輪荘のすぐ北側に位置する明治学院大学は、日本最古のキリスト教主義学校の一つです。キャンパス内には、明治23年(1890年)築のネオゴシック様式の明治学院記念館や、登録有形文化財に指定されている宣教師館「インブリー館」など、歴史的建造物が点在しています。守衛所で声をかければ、キャンパス内の散策が可能です。

東京都庭園美術館

旧朝香宮邸として1933年に建設されたアール・デコ様式の洋館を活用した美術館です。建物自体が国の重要文化財に指定されており、フランス人デザイナーのアンリ・ラパンやルネ・ラリックの作品が随所に施されています。緑豊かな庭園も見どころで、四季折々の風景を楽しむことができます。

八芳園

約1万2000坪の広大な日本庭園を有する施設で、江戸時代から続く池泉回遊式庭園を無料で散策できます。樹齢500年以上の盆栽コレクションや、四季折々の花々、茶室などが配され、都心にいながら日本の美を堪能できます。茶道体験や手巻き寿司体験などの日本文化体験プログラムも人気です。

瑞聖寺

寛文10年(1670年)に創建された江戸で最初の黄檗宗寺院です。大雄宝殿は国の重要文化財に指定されており、入母屋造り・本瓦葺きの二重屋根が印象的です。近年、建築家・隈研吾氏の設計による庫裏が新設され、伝統と現代建築の融合も話題となっています。

国立科学博物館附属自然教育園

庭園美術館に隣接する約20ヘクタールの森林で、武蔵野の自然を今に伝える貴重な緑地です。都会の喧騒を忘れさせる静かな散策路が整備されており、季節ごとに様々な植物や野鳥を観察することができます。

アクセス情報

三菱電機高輪荘は、東京都港区白金台2-6-11に位置しています。最寄り駅は以下の通りです。

  • 白金台駅(東京メトロ南北線・都営三田線)2番出口より徒歩約7分
  • 高輪台駅(都営浅草線)A2出口より徒歩約7分
  • 白金高輪駅(東京メトロ南北線・都営三田線)1番出口より徒歩約7分

バスをご利用の場合は、JR目黒駅または品川駅から都営バスに乗車し、「明治学院前」バス停で下車してください。

Q&A

Q三菱電機高輪荘の内部を見学することはできますか?
A残念ながら、三菱電機高輪荘は一般公開されていません。敷地は高い塀で囲まれており、定期的な公開イベントも行われていません。現在は三菱電機株式会社の企業施設として維持管理されています。
Qこの邸宅と日興証券の遠山家との関係は何ですか?
A三菱電機高輪荘は、遠山証券の創業者・遠山芳三の邸宅として建設されました。遠山芳三は、川島屋證券(後の日興証券、現SMBC日興証券)の創業者・遠山元一の従兄にあたります。両者はともに昭和初期の日本の証券業界を牽引した人物です。
Q白金台エリアで見学できる他の文化財はありますか?
A白金台エリアは文化財の宝庫です。東京都庭園美術館(旧朝香宮邸、重要文化財)、明治学院大学のインブリー館(登録有形文化財)、瑞聖寺の大雄宝殿(重要文化財)など、多くの歴史的建造物を見学することができます。また、八芳園の庭園は400年以上の歴史を持ち、無料で散策が可能です。
Q白金台エリアを訪れるのに最適な季節はいつですか?
Aどの季節も魅力的ですが、特におすすめなのは桜の季節(3月下旬~4月上旬)と紅葉の季節(11月中旬~12月上旬)です。八芳園や自然教育園では四季折々の自然を楽しむことができ、庭園美術館の庭園も季節ごとに異なる表情を見せてくれます。
Q周辺の施設では英語対応はありますか?
Aはい、主要な施設では外国語対応が充実しています。八芳園では日本語・英語対応の無料オーディオガイドアプリを提供しています。東京都庭園美術館では英語のオーディオガイドや案内表示があります。明治学院大学の歴史的建造物にも一部英語の説明パネルが設置されています。

基本情報

名称 三菱電機高輪荘(主屋・洋館・蔵)
文化財指定 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2000年(平成12年)12月4日
建築年代 昭和前期(1926-1988)
主屋の構造 木造2階建、瓦葺、建築面積410㎡
洋館の構造 木造2階建、瓦葺、建築面積55㎡
蔵の構造 鉄筋コンクリート造地上3階地下1階建、瓦葺、建築面積41㎡
旧所有者 遠山芳三(遠山証券創業者)
現所有者 三菱電機株式会社
所在地 東京都港区白金台2-6-11
公開状況 非公開
最寄り駅 白金台駅、高輪台駅、白金高輪駅(いずれも徒歩約7分)

参考文献

三菱電機高輪荘主屋 - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137788
三菱電機高輪荘洋館 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/193019
三菱電機高輪荘蔵 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/186750
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002018
遠山元一 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%A0%E5%B1%B1%E5%85%83%E4%B8%80
八芳園を巡って日本庭園を知ろう - 港区観光協会
https://visit-minato-city.tokyo/ja-jp/articles/530

最終更新日: 2026.01.28

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