旧山陰合同銀行根雨支店店舗:出雲街道の宿場町に佇む昭和初期の洋風銀行建築

鳥取県の南西部、山間の静かな町・日野町根雨に、昭和初期の面影を色濃く残す洋風建築があります。2025年3月に国の登録有形文化財となった「旧山陰合同銀行根雨支店店舗」は、大オーダーの付柱やペディメント、精緻なタイル装飾を備えた端正な銀行建築です。かつて出雲街道の宿場町として栄えた根雨の歴史とともに、この建物の魅力をご紹介します。

建物の歴史:地方銀行から文化財へ

この建物は1927年(昭和2年)、雲陽実業銀行根雨支店として建築されました。当時、この地域はたたら製鉄で栄え、鉄山師と呼ばれる富裕な製鉄業者たちが経済を支えていました。そうした経済的繁栄を背景に、山間の小さな町にも西洋建築の粋を集めた銀行店舗が誕生したのです。

その後、銀行再編の波を受け、1931年には松江銀行根雨支店となり、1941年には山陰合同銀行根雨支店として地域の金融を担い続けました。2018年に近隣の複合施設「金持テラスひの」へ移転するまで、実に約90年にわたって銀行として機能し続けました。

移転後も建物は日野町によって大切に保存され、1996年には鳥取県の「県民の建物100選」に選定されました。そして2025年3月13日、その歴史的・建築的価値が認められ、国の登録有形文化財(建造物)として正式に登録されました。

建築的特徴:昭和初期の洋風銀行建築の粋

旧山陰合同銀行根雨支店店舗は、出雲街道に東面して建つ木造平屋建ての銀行店舗です。屋根は寄棟造の鉄板葺で、建築面積は約126平方メートル。外観は西洋のネオクラシカル様式を採り入れた、昭和初期らしい銀行建築の特徴を備えています。

正面ファサードで最も目を引くのは、建物の高さいっぱいに並ぶ「大オーダー」の付柱です。この古典主義建築の手法は、建物に威厳と重厚感を与え、金融機関としての信頼性を視覚的に表現しています。

中央部には三角形のペディメント(破風)が立ち上がり、レリーフ装飾が施されています。古代ギリシャ神殿を源流とするこの意匠は、西洋建築の格式を象徴するものです。軒廻りには半球を連ねたレリーフが飾られたコーニス(軒蛇腹)が廻り、窓廻りには丁寧なタイル貼りの装飾が施されています。

内部に入ると、正面側は吹き抜けとなっており、天井は折り上げ式で中心飾りが付けられています。この空間構成により、比較的小規模な建物でありながら、開放感と荘厳さを兼ね備えた銀行らしい雰囲気が生まれています。

内部の見どころ:銀行時代の面影

2018年の移転に伴い、銀行としての備品類は撤去されましたが、オリジナルのカウンターや金庫は現在も残されています。これらの設備は、かつてこの建物で日々の銀行業務が行われていた時代を偲ばせる貴重な遺構です。

吹き抜けの高い天井と中心飾り、そして大きな窓から差し込む自然光が織りなす空間は、昭和初期の地方銀行の雰囲気を今に伝えています。当時の人々がこの建物に足を踏み入れた際に感じたであろう、近代化への期待と信頼感を追体験することができるでしょう。

建物内部の撮影も可能ですが、事前申請が必要です。撮影を希望される場合は、10日前までに日野町役場へお申し込みください。

文化財としての価値

旧山陰合同銀行根雨支店店舗が登録有形文化財に選ばれた理由は、複数の観点から評価されています。

まず、昭和初期の地方銀行建築の典型的な姿を今に伝えている点です。大オーダーの付柱、ペディメント、コーニス、タイル装飾といった西洋建築の要素を巧みに組み合わせた外観は、当時の銀行建築が目指した「信頼」と「格式」の視覚的表現として秀逸です。

また、木造でありながら洋風の外観を実現した技術的な工夫も注目されます。内部の吹き抜け天井と折り上げ天井の組み合わせは、限られた空間を最大限に活かす知恵が詰まっています。

さらに、出雲街道沿いの宿場町・根雨という歴史的な町並みの中に位置し、地域の近代化の歴史を物語る建造物として、景観的にも重要な役割を果たしています。

根雨の町:出雲街道の宿場町

旧山陰合同銀行根雨支店店舗が建つ根雨は、古くから交通の要衝として栄えた歴史ある町です。「根雨」という一風変わった地名には、美しい伝説が込められています。

伝説によると、奈良時代の元明天皇の頃、伯耆国一帯が大飢饉に見舞われた際、人々は根雨神社の牛頭天王に雨乞いをしました。すると、たちまち黒雲が湧き起こり、甘露のような雨がこの里から降り始め、やがて日本中に広がって五穀を潤したといいます。「根雨」とは「根を潤す雨」、すなわち「根潤う里」という意味なのです。

江戸時代、根雨は出雲街道の主要な宿駅として発展しました。出雲街道は播磨国姫路と出雲国松江を結ぶ重要な街道で、松江藩主は参勤交代の際にこのルートを通行し、根雨で休息を取るのが常でした。今も「本陣の門」や旧茶屋(休憩所)であった緒形家、梅林家の建物など、宿場町としての面影が残っています。

また、根雨は「たたらの里」としても知られています。たたら製鉄で財を成した近藤家は、主屋に土蔵を配した格式ある商家の佇まいを見せており、地域の繁栄を今に伝えています。近藤家の向かいにあった「出店近藤」は、現在「日野町公舎・たたらの楽校」として、たたら製鉄に関する展示を行っています。

町なかを流れる水路の清冽な流れと水音、山々から立ち上る雲や霧も、訪れる人々の心に深い印象を残します。

周辺の見どころ

旧山陰合同銀行根雨支店店舗を訪れる際には、ぜひ周辺の観光スポットも併せてお楽しみください。

オシドリ観察

日野町は「オシドリの町」として全国的に知られています。オシドリは鳥取県の県鳥であり、日野町の町鳥にも指定されています。毎年秋から春にかけて、1,000羽を超えるオシドリが日野川に飛来し、根雨のオシドリ観察小屋からは、これらの美しい鳥たちを間近で観察することができます。観察小屋には望遠鏡も用意されており、入場無料でオシドリの優美な姿を堪能できます。

金持神社

根雨から車で約5分の場所にある金持神社は、その縁起の良い名前から金運・開運祈願のパワースポットとして人気を集めています。「金持」という名を冠する神社は全国でここだけ。読み方は「かもち」神社ですが、その名にあやかろうと、宝くじ当選祈願などで多くの参拝者が訪れます。近くの「金持テラスひの」では、金持神社の分祠への参拝や、地元特産品の購入も楽しめます。

日野町歴史民俗資料館

近藤家が寄進した旧根雨公会堂を活用した資料館で、地域の歴史と文化を紹介しています。建物自体も昭和初期の洋風建築で、旧銀行と併せて訪れる価値があります。

滝山公園・瀧山神社

滝山公園内にある瀧山神社の境内には、高さ約50メートルの龍王滝があります。「二歳の幼児を連れて参ると首がなくなる」という伝説があり、この伝説をもとに小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『骨董』の中で「幽霊滝」として紹介しています。神秘的な雰囲気の中、自然と歴史を感じられるスポットです。

地元グルメ

根雨周辺には、飲食店が比較的多く集まっています。特に蕎麦の名店として知られる店があり、自家製粉で挽いた香り高い蕎麦は、2019年にミシュランにも登録されました。また、具だくさんで熱々のチャンポン麺も地元で愛される名物です。冬の寒い日には、温かい一杯で体を温めてから観光を続けるのもおすすめです。

アクセス・訪問のヒント

旧山陰合同銀行根雨支店店舗は、鳥取県の山間部に位置するため、事前に交通手段を確認しておくことをおすすめします。

電車をご利用の場合、JR伯備線の根雨駅が最寄り駅です。特急「やくも」の停車駅でもあるため、岡山方面からのアクセスが便利です。根雨駅から建物までは徒歩約10分。駅から出雲街道沿いに歩くと、歴史的な町並みを楽しみながら到着できます。

車をご利用の場合、米子自動車道・江府ICから約15分、中国自動車道・新見ICから約50分です。米子鬼太郎空港からは約60分のドライブとなります。

訪問のベストシーズンは、気候の穏やかな春から秋にかけてです。ただし、オシドリ観察を目的とされる場合は、12月から2月頃が最も多くのオシドリを見られる時期です。なお、この地域は豪雪地帯に指定されており、冬季は積雪の可能性があるため、車でお越しの際は道路状況をご確認ください。

Q&A

Q建物の内部を見学・撮影することはできますか?
Aはい、内部の撮影は事前申請により可能です。撮影を希望される場合は、訪問予定日の10日前までに日野町役場へ申請してください。銀行の備品類は撤去されていますが、オリジナルのカウンターや金庫が残っており、昭和初期の銀行建築の雰囲気を感じることができます。
Qこの建物はいつ文化財に指定されましたか?
A2025年3月13日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。それ以前の1996年には、鳥取県の「県民の建物100選」に選定されています。
Q現在も銀行として営業していますか?
Aいいえ、銀行としての営業は2018年に終了しました。山陰合同銀行根雨支店は近隣の複合施設「金持テラスひの」内に移転しており、旧店舗は日野町が所有する歴史的建造物として保存されています。
Q根雨へのアクセス方法を教えてください。
A電車の場合、JR伯備線・根雨駅で下車し、徒歩約10分です。一部の特急「やくも」も停車します。車の場合、米子自動車道・江府ICから約15分、中国自動車道・新見ICから約50分です。米子鬼太郎空港からは車で約60分となります。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A金運・開運祈願で有名な「金持神社」、冬季に1,000羽以上のオシドリが飛来する「オシドリ観察小屋」、出雲街道の宿場町の町並み、日野町歴史民俗資料館、たたら製鉄の遺跡などがあります。また、ミシュラン掲載の蕎麦店や名物のチャンポンなど、グルメも楽しめます。大山隠岐国立公園にも近く、自然豊かな環境です。

基本情報

名称 旧山陰合同銀行根雨支店店舗(きゅうさんいんごうどうぎんこうねうしてんてんぽ)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2025年(令和7年)3月13日
竣工 1927年(昭和2年)
構造 木造平屋建、寄棟造、鉄板葺
建築面積 約126㎡
建築様式 西洋ネオクラシカル様式(昭和初期)
所在地 鳥取県日野郡日野町根雨字屋敷466
所有者 日野町
電車でのアクセス JR伯備線・根雨駅から徒歩約10分
車でのアクセス 米子自動車道・江府ICから約15分/中国自動車道・新見ICから約50分
内部撮影 要事前申請(10日前まで)
お問い合わせ 日野町役場 産業振興課 TEL: 0859-72-2101

参考文献

旧山陰合同銀行根雨支店店舗 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/607726
山陰合同銀行根雨支店 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/山陰合同銀行根雨支店
旧山陰合同銀行根雨支店 - とっとり旅の生情報
https://www.tottori-guide.jp/fc/1623/1629/25990.html
日野町根雨エリア - たたらナビ
https://www.tatara-navi.com/奥日野の旅/日野町根雨エリア/
日野町 (鳥取県) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/日野町_(鳥取県)
宿場町の風情が残る街「根雨宿」 - 山陰インバウンド機構
https://www.sanin-tourism.com/articles/1115.html
観光ガイド - 日野町観光サイト
http://www.town.hino.tottori.jp/dd.aspx?moduleid=3010&pfromid=45
金持神社 - 日野町公式サイト
https://www.town.hino.tottori.jp/1281.htm

最終更新日: 2026.01.28

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