1合の小唐櫃 ― 1951年に国宝

澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃は、和歌山県の金剛峯寺が所有する平安時代の工芸品で、1897年(明治30年)12月28日に重要文化財となり、1951年(昭和26年)6月9日に国宝に指定された。員数は1合である。

1897年12月28日の重要文化財は、観心寺金堂と同じ日で、ここまで扱った物件のなかで最も早い。国宝となった1951年6月9日は、籬菊螺鈿蒔絵硯箱、古今和歌集巻第廿(高野切本)と同じ日である。

寸法は縦30.5センチメートル、横39.9センチメートル、高さ30.0センチメートルとされる。文化庁データベースの所在地の欄は空で、これで5件目になる。

置口が二つあり、材が違い、片方は後補である

澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃には、同じ役割の部品が二か所にある。

文化庁は、銅製置口(後補)をつけ、と記す。本体の縁に付けられた置口は銅製で、後から補われたものである。

一方、中子については、中子は錫置口があり、とされる。こちらは錫である。

置口は器の口縁を覆う金属の帯をいう。同じ部品でありながら、本体は銅、中子は錫で材が違う。

菊造腰刀では、目貫の菊だけが後補だった。宝相華蒔絵経箱では、内貼りの金襴が両方とも後補だった。

本件は、二つある同じ部品のうち一方だけに後補の注記が付いている。もう一方には付いていない。

金のなかで、色が分けられている

澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃では、蒔絵に使う金属の記述が細かい。

解説は、金と青金の研出蒔絵を主体に一分の螺鈿で表された千鳥には毛彫りが施され、と記す。

金と青金の二つが挙げられている。青金は金に銀を混ぜたもので、色味が違う。

宝相華蒔絵経箱では、華と円輪は金蒔、葉と蔓は銀蒔と、金と銀が部位で分けられていた。金属そのものが違う例である。

本件は金のなかで色が分けられている。同じ金属の色の違いを使い分けていることになる。

他にも技法が並ぶ。土坡や岩などを蒔暈し、空間を平塵の地にするなど、巧に技法を駆使して色彩感を出し、情緒豊かな叙景表現である、とある。

内と外で、趣が変えられている

澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃は、装飾が場所ごとに変わることが記される。

蓋表と身の外側は全て黒漆地に水草生い茂る澤の流れに千鳥の群がり遊ぶ様を、蒔絵を主として、水草や千鳥に螺鈿を交えて表す、とある。

蓋裏は地に野草や蝶鳥を蒔絵する、と続く。外は澤と千鳥、内は野草と蝶鳥で図が違う。

中子の内底については、黒漆地に宝相華文の透彫鍍金金具を嵌込んで、その間には螺鈿の花文を配す、とされる。

そして評価は、地の黒に金具の金色と螺鈿の色調が互いに映える意匠は、蓋表の主文とは別の趣を出している、と結ぶ。

別の趣、と書かれている。籬菊螺鈿蒔絵硯箱では、見えない底にも同じ文様が及んでいた。本件は逆で、見えにくい場所ほど図と趣が変えられている。

鑑賞

所有は金剛峯寺である。寺が保管する唐櫃であり、常設で公開される性格のものではない。

形も記される。四脚の上下に銀地鍍金の精妙な唐草文のある金具をかぶせた姿態の美しい小唐櫃である、とある。

四本の脚があり、その上下に金具がかぶせてある。脚のある箱ということになる。

同じ金剛峯寺には金剛峯寺不動堂があり、こちらは建造物の国宝である。所有者が同じで分野が違う。

関連作品には、片輪車螺鈿蒔絵手箱、秋野蒔絵手箱、扇面鳥兜螺鈿蒔絵料紙箱といった名が並ぶ。展示の予定は変わることがあるため、訪問前に確認したい。

Q&A

Q澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃はいつ指定されましたか。
A1897年(明治30年)12月28日に重要文化財、1951年(昭和26年)6月9日に国宝へ指定されました。重要文化財の日はここまで扱った物件のなかで最も早いものです。
Q後から補われた部分はありますか。
Aあります。文化庁は本体の置口について「銅製置口(後補)」と記します。一方、中子の置口は錫とされ、後補の注記はありません。同じ部品でありながら材が違います。
Qどのように装飾されていますか。
A文化庁は「金と青金の研出蒔絵を主体に一分の螺鈿で表された千鳥には毛彫りが施され」と記します。青金は金に銀を混ぜたもので、金のなかで色が分けられています。
Q内側と外側で図は同じですか。
A違います。外は澤の流れと千鳥、蓋裏は野草や蝶鳥です。中子の内底の意匠については「蓋表の主文とは別の趣を出している」と記されます。
Qどのような形ですか。
A文化庁は「四脚の上下に銀地鍍金の精妙な唐草文のある金具をかぶせた姿態の美しい小唐櫃である」と記します。四本の脚があり、その上下に金具がかぶせてあります。

基本情報

名称澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃(さわちどりらでんまきえしょうからびつ)
所在地文化庁データベースの所在地の欄は空。所有者は金剛峯寺とされる
指定区分国宝(工芸品)/同じ金剛峯寺の不動堂は建造物の国宝
指定年1897年(明治30年)12月28日 重要文化財/1951年(昭和26年)6月9日 国宝
員数1合
寸法縦30.5センチメートル、横39.9センチメートル、高さ30.0センチメートル。銅製の置口は後補で、中子の置口は錫。4脚の上下に銀地鍍金の唐草文の金具をかぶせる。蓋表と身の外側は黒漆地に澤と千鳥、蓋裏は野草や蝶鳥を表す。時代は平安
所有者金剛峯寺
公開状況寺が保管する唐櫃で、常設の公開ではない

参考文献

文化遺産オンライン 澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/148408
高野山霊宝館 収蔵品 工芸
https://www.reihokan.or.jp/syuzohin/kogei.html
高野山霊宝館 公式サイト
https://www.reihokan.or.jp/
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/

最終更新日: 2026.09.06