玉川寺庭園:570年の時を超えて息づく日本庭園の至宝
山形県鶴岡市、霊峰・羽黒山の麓に静かに佇む玉川寺(ぎょくせんじ)。その境内に広がる庭園は、室町時代に作庭され、江戸時代の改修を経て今に伝わる国指定名勝です。自然の山から流れ落ちる滝と、大きな池を中心に展開する池泉回遊式蓬莱庭園は、東北地方屈指の名園として知られています。「花の寺」の愛称でも親しまれるこの古刹は、全国的にも珍しい九輪草の純群落をはじめ、四季折々の花々が彩る花の楽園でもあります。
玉川寺の歴史:鎌倉時代から続く禅の古刹
玉川寺は、今から約770年前の鎌倉時代、建長3年(1251年)に開山されました。開山の祖・了然法明禅師(りょうねんほうみょうぜんじ)は、朝鮮・高麗国に生まれ、中国の名刹・径山寺(きんざんじ)で修行を積んだ後に日本に渡来した高僧です。曹洞宗の開祖・道元禅師の高弟でもあった了然法明禅師は、羽黒山への参詣の帰途にこの地に留まり、禅の教えを広めるために寺院の基礎を築きました。
その後、約200年の間、寺の歴史は不明な部分もありますが、室町時代中期の享徳2年(1453年)、新潟県村上市の耕雲寺から南英謙宗禅師(なんえいけんそうぜんじ)を招き、庄内の領主・藤原氏の支援のもと玉川寺は再興されました。現在に至るまで、曹洞宗の禅寺として脈々と法灯を守り続けています。
国指定名勝に選ばれた理由
玉川寺庭園は、昭和62年(1987年)8月1日に国の文化財「名勝」に指定されました。この指定は、庭園が持つ歴史的・芸術的価値が国によって正式に認められたことを意味します。
指定の理由として、まず室町時代(1450年代)に作庭され、江戸時代(1650年代)の改修を経て現在に至るという長い歴史が挙げられます。約570年もの間、その本質的な景観を守り続けてきたこと自体が、極めて稀有な価値を持っています。また、自然の山から直接水を引き、滝として庭園に取り込むという大胆な設計は、地方の寺院庭園としては類を見ない独創性を示しています。さらに、鋭く力強い石組の構成は、室町時代の禅宗庭園の特徴をよく伝えており、「地方稀に見る名園」と評価されています。
庭園の見どころ:蓬莱庭園の妙
玉川寺庭園は、約500坪(約1,650平方メートル)の敷地に広がる池泉回遊式蓬莱庭園です。「蓬莱」とは、中国の神仙思想に登場する不老不死の仙人が住むという理想郷のこと。庭園全体が、この神秘的な楽園を象徴的に表現しています。
庭園の最大の特徴は、自然の山から直接流れ落ちる滝です。背後の山の斜面から水が集められ、庭園の中心となる大きな池へと注ぎ込みます。この滝は人工的に造られたものではなく、自然の地形を巧みに活かしたもので、庭園に生命力と躍動感を与えています。池の周囲には、力強く鋭い印象の石組が配されており、禅の精神を体現するかのような緊張感と静けさが同居しています。
この庭園の素晴らしさは、二つの異なる鑑賞方法が楽しめる点にあります。一つは、書院や本堂から眺める「額縁庭園」としての鑑賞。木造の柱や梁が自然の額縁となり、庭園を一幅の絵画のように切り取って見せてくれます。もう一つは、サンダルを借りて実際に庭園内を歩く「回遊式」の鑑賞。飛び石を辿りながら歩くと、一歩ごとに景色が変わり、新しい発見があります。
「花の寺」の由来:四季を彩る花々
玉川寺は「花の寺」という愛称でも広く知られています。その名の由来となっているのが、全国的にも珍しい九輪草(クリンソウ)の純群落です。九輪草は、サクラソウ科の多年草で、花が段になって咲く姿が五重塔の先端にある九輪に似ていることからその名が付きました。5月中旬から6月初旬にかけて、白、ピンク、濃いピンクの花が庭園のあちこちで咲き乱れる様子は、まさに圧巻です。
九輪草だけでなく、玉川寺では一年を通じてさまざまな花を楽しむことができます。春には枝垂桜が池の水面に映り、初夏にはツツジや花菖蒲が彩りを添えます。夏には蓮の花が池を飾り、秋には萩や秋明菊が咲き、紅葉したカエデが庭園を錦に染めます。冬もまた、雪をかぶった石組や苔の姿に、禅の美学が凝縮された静謐な美しさを見出すことができます。
抹茶とともに過ごす贅沢なひととき
玉川寺では、庭園を眺めながら抹茶と季節の和菓子をいただくことができます。書院の縁側に腰を下ろし、目の前に広がる名園を眺めながら一服する時間は、まさに至福のひとときです。日常の喧騒を忘れ、禅の空間に身を置く贅沢な体験ができます。
境内には「禅カフェ 水月庵」という隠れ家的なカフェも併設されています。コーヒーやスイーツを楽しむことができ、事前予約をすればランチをいただくこともできます。また、定期的に坐禅会も開催されており、より深く禅の世界に触れたい方にはおすすめです。
周辺の見どころ:出羽三山への玄関口
玉川寺は、日本有数の山岳信仰の聖地・出羽三山(羽黒山・月山・湯殿山)への玄関口に位置しています。特に羽黒山は、玉川寺からわずかな距離にあり、あわせて訪れるのに最適です。
羽黒山の見どころは数多くありますが、国宝に指定されている五重塔は必見です。樹齢300年以上の杉並木に囲まれた参道を歩き、2,446段の石段を登る体験は、まさに「生まれ変わりの旅」と呼ばれる出羽三山参りの醍醐味です。山頂には、羽黒山・月山・湯殿山の三神を合わせて祀る三神合祭殿があり、通年で参拝が可能です。
鶴岡市内にも見どころは豊富です。旧庄内藩主・酒井家ゆかりの致道博物館には、同じく国指定名勝の酒井氏庭園があります。また、松ヶ岡開墾場では明治維新後の旧藩士によるシルク産業の歴史に触れることができます。鶴岡市は2014年に日本初のユネスコ食文化創造都市に認定されており、地元の食材を活かした美食の街としても知られています。
おすすめの訪問時期
玉川寺庭園は四季折々の美しさがありますが、特におすすめの時期をご紹介します。4月下旬から5月上旬は桜の季節。池に映る枝垂桜の姿は格別です。5月中旬から6月初旬は、玉川寺を象徴する九輪草の開花期。この時期だけの特別な景色を求めて、多くの花好きが訪れます。10月下旬から11月中旬は紅葉の見頃。燃えるような赤や黄色に染まった庭園は、息をのむ美しさです。
静かに庭園を楽しみたい方には、平日の午前中がおすすめです。都会の有名庭園と違い、玉川寺は比較的訪問者が少なく、いつ訪れても落ち着いた雰囲気で鑑賞できますが、朝の光の中で池に霧が立ちのぼる様子は特に幻想的です。
基本情報
| 正式名称 | 国見山玉川寺(くにみさん ぎょくせんじ) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国指定名勝(昭和62年8月1日指定) |
| 宗派 | 曹洞宗 |
| 開山 | 建長3年(1251年)鎌倉時代 |
| 開山祖 | 了然法明禅師 |
| 庭園作庭 | 室町時代(1450年代)作庭、江戸時代(1650年代)改修 |
| 庭園様式 | 池泉回遊式蓬莱庭園 |
| 庭園面積 | 約500坪(約1,650㎡) |
| 拝観時間 | 9:00~17:00(4月~10月)/ 9:00~16:00(11月~3月) |
| 休館日 | 年中無休 |
| 拝観料 | 大人400円、小中学生200円(団体割引あり) |
| 所在地 | 〒997-0121 山形県鶴岡市羽黒町玉川35 |
| 電話番号 | 0235-62-2746 |
| アクセス(バス) | JR鶴岡駅前2番乗り場より庄内交通バス「羽黒山頂」「月山八合目」「随神門」行きで約30分、「大鳥居」バス停下車、徒歩約15分 |
| アクセス(車) | 山形自動車道 庄内あさひICより約15分、鶴岡駅より約20分、庄内空港より約30分 |
| 駐車場 | あり(無料) |
| 公式サイト | https://www.gyokusenji.or.jp/ |
Q&A
- 庭園の中を歩くことはできますか?
- はい、可能です。お寺でサンダルを貸していただけますので、飛び石を辿って庭園内を散策できます。書院や本堂から眺める「額縁庭園」としての鑑賞と、実際に歩いて回る「回遊式」の両方をお楽しみいただけます。
- 庭園を眺めながらお茶をいただけますか?
- はい、抹茶と季節の和菓子をいただきながら庭園を鑑賞できます。また、境内には「禅カフェ 水月庵」があり、コーヒーや軽食も楽しめます。ランチは事前予約制です。
- 九輪草(クリンソウ)の見頃はいつですか?
- 例年5月中旬から6月初旬が見頃です。気候により多少前後しますので、開花状況は直接お寺にお問い合わせいただくのがおすすめです。
- 羽黒山観光と組み合わせることはできますか?
- はい、玉川寺は羽黒山の麓に位置していますので、組み合わせての観光に最適です。午前中に羽黒山の五重塔や石段参道を巡り、午後に玉川寺で庭園鑑賞とお茶を楽しむコースが人気です。
- 冬でも拝観できますか?
- はい、年中無休で拝観いただけます。冬季(11月~3月)は拝観時間が9:00~16:00と短くなります。山形県は豪雪地帯ですので、冬季は積雪の状況や交通アクセスを事前にご確認ください。雪景色の庭園もまた格別の趣があります。
参考文献
- 国見山玉川寺 公式サイト - 庭園の紹介
- https://gyokusenji.or.jp/teien/
- 国見山玉川寺 公式サイト - 玉川寺の概要
- https://www.gyokusenji.or.jp/gaiyo/
- 文化遺産オンライン - 玉川寺庭園(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/201096
- 玉川寺 - つるおか観光ナビ(DEGAM鶴岡ツーリズムビューロー)
- https://www.tsuruokakanko.com/spot/833
- 玉川寺 - やまがたへの旅(山形県公式観光サイト)
- https://yamagatakanko.com/attractions/detail_1632.html
- 玉川寺庭園 - おにわさん(庭園情報メディア)
- https://oniwa.garden/gyokusenji-temple-garden-玉川寺庭園/
- 花の寺「玉川寺」 - もっけだの庄内(庄内観光情報)
- https://mokkedano.net/spot/30271
- 庭の美しい玉川寺で坐禅や写経を体験 - 庄内旅型録(庄内空港)
- https://trip-catalog.shonai-airport.co.jp/introduce/article27/