1巻の水墨画 ― 1951年に国宝

紙本墨画淡彩四季山水図〈雪舟筆〉は、山口県にある絵巻で、1951年(昭和26年)6月9日に国宝に指定された。所有は公益財団法人毛利報公会である。

紙本墨画淡彩は、紙に墨で描き、淡い彩色を加えたものをいう。名称の山括弧に雪舟筆とあり、作者が記録されている。

文化庁データベースの重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されている。これまで扱った中で11件目にあたる。

他の作品が、この巻を基準に自分を説明する

この作品については、別の物件の記録に興味深い記述がある。

京都国立博物館が所蔵する四季山水図巻という重要文化財があり、伝雪舟等楊、室町時代の15世紀から16世紀、縦21.5センチメートル、横1151.5センチメートル、1巻とされる。

その解説に、次の一文がある。毛利博物館に伝わる「山水長巻」に対し、俗に「山水小巻」と呼ばれる。

京博の巻は、自らを説明するのに本件を持ち出している。山水小巻という通称そのものが、山水長巻との対比で成り立っている。

五重塔初重壁画の記録が平等院鳳凰堂の壁画を引き合いに出したように、記録どうしが参照し合うことはある。ただしこの例は、通称の由来が対比にあるという点で異なる。

比較は筆づかいにも及ぶ

京博の巻の解説は、比較をさらに進める。

その筆法には、明らかに中国南宋の画人夏珪からの影響がうかがわれ、堅固な構成と謹直な筆致を特色とする、とある。

続けて、山水長巻に比して筆使いにいくぶんの穏やかさが認められ、雪舟晩年の作とする見方もある、と記される。

本件と比べて穏やかだ、という判断である。制作時期の推定までが、本件との比較から導かれている。

ただしこれは京博の巻についての記述であり、本件の記録にあるものではない。本件がどう評価されているかは、この記録からは分からない。

同じ画家の名で複数の記録がある

雪舟の名を含む物件は、文化遺産オンラインに複数ある。

紙本墨画淡彩四季山水図〈伝雪舟筆〉が京都国立博物館にあり、1957年(昭和32年)2月19日に重要文化財となっている。ほかに紙本墨画山水図〈雪舟筆〉、紙本墨画黄初平図〈雪舟筆〉、紙本淡彩牧牛図〈雪舟筆〉、絹本淡彩四季山水図〈伝雪舟筆〉などが並ぶ。

名称の山括弧に注意したい。雪舟筆と伝雪舟筆は書き分けられている。伝が付くものは、雪舟の作と伝えられるという意味になる。

本件は〈雪舟筆〉であり、伝が付かない。前件までに見た紙本金地著色松に草花図〈/二曲屏風〉の空欄、紙本著色西行法師行状絵詞のト書と同じく、作者の扱いは名称の書き方に現れる。

同じ「四季山水図」という題も複数あり、屏風・巻・図と形式も分かれる。所有者と指定年月日で区別する必要がある。

鑑賞

所有は公益財団法人毛利報公会である。財団が所蔵する絵巻であり、常設で公開される性格のものではない。

絵巻は光に弱く、公開期間が限られるのが通例である。長い巻であるため、一度に全体を広げて展示することは難しい。

展示の機会は限られるため、公開の告知を確かめて訪ねたい。

比較対象となる京都国立博物館の四季山水図巻も、同じく常設ではない。二つが同時に見られるとは限らない。

Q&A

Qこの絵巻はいつ国宝に指定されましたか。
A1951年(昭和26年)6月9日です。所有は公益財団法人毛利報公会で、所在は山口県です。重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されています。
Q山水長巻と呼ばれるのはなぜですか。
A京都国立博物館の四季山水図巻の記録に「毛利博物館に伝わる『山水長巻』に対し、俗に『山水小巻』と呼ばれる」とあります。京博の巻の通称が、本件との対比で成り立っています。
Q京博の巻とはどう違うのですか。
A京博の巻の記録は、その筆法に中国南宋の画人夏珪からの影響がうかがわれるとし、「山水長巻に比して筆使いにいくぶんの穏やかさが認められ、雪舟晩年の作とする見方もある」と記します。制作時期の推定まで本件との比較から導かれています。
Q雪舟筆と伝雪舟筆は違うのですか。
A違います。名称の山括弧で書き分けられており、伝が付くものは雪舟の作と伝えられるという意味になります。本件は〈雪舟筆〉で、伝は付きません。
Q鑑賞できますか。
A財団が所蔵する絵巻であり、常設で公開される性格のものではありません。絵巻は光に弱く公開期間が限られるうえ、長い巻であるため一度に全体を広げて展示することは難しく、展示の機会は限られます。

基本情報

名称紙本墨画淡彩四季山水図〈雪舟筆〉(しほんぼくがたんさいしきさんすいず)
所在地山口県。所有者は公益財団法人毛利報公会
指定区分国宝(絵画)/重要文化財を経ずに国宝へ指定
指定年1951年(昭和26年)6月9日 国宝
員数1巻
寸法紙に墨で描き淡い彩色を加えた絵巻。名称の山括弧に雪舟筆とあり、伝は付かない。京都国立博物館の四季山水図巻の記録は、この巻を「山水長巻」と呼び、自らを「山水小巻」と位置づける
所有者公益財団法人毛利報公会
公開状況常設の公開ではない。絵巻は光に弱く、長い巻のため全体を広げての展示は難しい

参考文献

文化遺産オンライン 四季山水図巻(京都国立博物館)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/511457
文化遺産オンライン 紙本墨画淡彩四季山水図〈伝雪舟筆〉
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/190566
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/
文化庁 文化財の紹介 美術工芸品
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/bijutsu_kogei/

最終更新日: 2026.09.05