1幅の山水画 ― 1955年に国宝
絹本著色夏景山水図は、山梨県の久遠寺が所有する絵画で、1955年(昭和30年)6月22日に国宝に指定された。員数は1幅、分類は絵画、時代は南宋である。
文化庁データベースの重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されている。これまで扱った中で12件目にあたる。
旧来の記述に「12世紀中国北宋時代の名画」とするものが見られるが、文化庁は時代を南宋とする。北宋ではない。
解説が問いかけの形をとる
文化庁の解説は、これまで扱ったどの記録とも文体が異なる。
深山幽谷にひとり歩む高士の姿は、そのまま深遠で孤高な心境を表している。激しい風のなか、高士は松籟を聴いているのか、山の瀬音に耳を傾けるのか。
後半が問いの形になっている。松籟は松を渡る風の音、瀬音は川の流れる音である。どちらを聴いているのか、記録は決めていない。
ここまで扱った記録は、断定するか、推定を示すか、あるいは一文で終わるかのいずれかだった。問いを並べて読み手に委ねる書き方は、これが初めてである。
絵に描かれているのは姿だけであり、何を聴いているかは描かれていない。問いの形は、そのことに対応している。
三幅が二か所に分かれている
解説の後半には、他の作品への言及がある。
金地院所蔵の秋冬山水図二幅とともに、南宋・徽宗皇帝の作として、もと足利義満の所蔵であった名品である、とある。
金地院が所蔵する絹本著色秋景冬景山水図は2幅で、こちらも1955年6月22日に国宝に指定されている。指定の日が同じである。
夏景が1幅、秋景冬景が2幅。合わせて三幅が、久遠寺と金地院という二つの寺に分かれて所蔵されている。
もと一組であったものが、所蔵先を異にしたまま、同じ日に別々の物件として指定された。八坂神社の本殿と境内29棟、大仙院の書院庭園と四周のように、記録の上で分けられる例はあったが、この場合は所蔵先そのものが分かれている。
同じ日の指定で、記録の詳しさが違う
二つの記録を並べると、書きぶりの差が際立つ。
本件の解説は詩的で、描かれた場面の描写から伝来までを記す。一方、金地院の絹本著色秋景冬景山水図の解説は「南宋時代の作品。」の一文のみである。
同じ1955年6月22日の指定で、もと一組と記される作品でありながら、記録の詳しさが大きく異なる。
ここまで、指定の時期が新しいほど記録が詳しいという傾向を見てきた。この二件はその傾向では説明がつかない。同じ日でも、書かれる量は物件ごとに違う。
伝来についても、本件の解説だけが記す。もと足利義満の所蔵であったという由来は、秋景冬景の記録には現れない。
鑑賞
所有は久遠寺で、山梨県にある。寺が所蔵する絵画であり、常設で公開される性格のものではない。
絵は光に弱く、公開期間が限られるのが通例である。1幅であるから、出陳されれば全体を見ることができる。
金地院の秋景冬景山水図とは所蔵先が違うため、三幅が揃って展示される機会は限られる。
拝観の条件は変わることがあるため、訪問前に久遠寺の案内で確認したい。
Q&A
- 絹本著色夏景山水図はいつ国宝に指定されましたか。
- 1955年(昭和30年)6月22日です。員数は1幅、分類は絵画、時代は南宋、所有は久遠寺です。重要文化財指定年月日の欄は空欄で、重要文化財を経ずに国宝へ指定されています。
- 何が描かれていますか。
- 文化庁は「深山幽谷にひとり歩む高士の姿は、そのまま深遠で孤高な心境を表している。激しい風のなか、高士は松籟を聴いているのか、山の瀬音に耳を傾けるのか」と記します。後半は問いの形で、どちらを聴いているかは決められていません。
- 他の作品との関係はありますか。
- 文化庁は「金地院所蔵の秋冬山水図二幅とともに、南宋・徽宗皇帝の作として、もと足利義満の所蔵であった名品である」と記します。金地院の絹本著色秋景冬景山水図も同じ1955年6月22日に国宝へ指定されています。
- 三幅は一緒に見られますか。
- 夏景1幅は山梨県の久遠寺、秋景冬景2幅は金地院と、所蔵先が分かれています。三幅が揃って展示される機会は限られます。
- 北宋の作品ですか。
- 文化庁は時代を南宋とします。旧来の記述に北宋とするものが見られますが、記録は南宋です。金地院の秋景冬景山水図も南宋とされています。
基本情報
| 名称 | 絹本著色夏景山水図(けんぽんちゃくしょくかけいさんすいず) |
|---|---|
| 所在地 | 山梨県。所有者は久遠寺 |
| 指定区分 | 国宝(絵画)/重要文化財を経ずに国宝へ指定/金地院の秋景冬景山水図2幅は別の物件 |
| 指定年 | 1955年(昭和30年)6月22日 国宝 |
| 員数 | 1幅 |
| 寸法 | 文化庁は寸法を記していない。深山幽谷にひとり歩む高士を描き、激しい風のなかで松籟か瀬音かに耳を傾ける姿とする。金地院所蔵の秋冬山水図2幅とともに、もと足利義満の所蔵であったと記される。時代は南宋 |
| 所有者 | 久遠寺 |
| 公開状況 | 寺が所蔵する絵画で、常設の公開ではない。絵は光に弱く公開期間が限られる |
参考文献
- 文化遺産オンライン 絹本著色夏景山水図
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/197170
- 文化遺産オンライン 絹本著色秋景冬景山水図(金地院)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/177752
- 身延山久遠寺 公式サイト
- https://www.kuonji.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.05