岐阜県元屋敷陶器窯跡出土陶器 — 桃山茶陶の黄金時代を伝える至宝

岐阜県土岐市の丘陵地帯に、日本陶磁史の輝かしい一章が眠っています。元屋敷陶器窯跡(もとやしきとうきかまあと)から出土した陶器群は、重要文化財に指定された貴重なコレクションです。16世紀後半から17世紀初頭にかけて制作されたこれらの陶器は、茶の湯文化が最も華やかに花開いた時代の美濃窯の最高傑作を含んでいます。大胆な造形の織部から柔らかな白の志野まで、日本陶芸の革新的な時代を物語る名品の数々をご紹介します。

元屋敷陶器窯跡とは — 桃山陶の生産拠点

元屋敷陶器窯跡は、土岐市泉町久尻(くじり)の谷川に面した急な南斜面に位置する古窯跡群です。大窯(おおがま)3基(元屋敷東1号・2号・3号窯)と連房式登窯(れんぼうしきのぼりがま)1基(元屋敷窯)の計4基で構成されています。昭和42年(1967年)に国の史跡に指定され、平成25年(2013年)に出土品が重要文化財に指定されました。

連房式登窯は美濃地方最古のもので、全長約24メートル、平均幅2.2メートルの規模を誇ります。焼成室が地上に築かれ、14の部屋が斜面を階段状に連なる構造で、各部屋の間には6〜7個のサマ穴(火の通り道)が設けられています。この窯は慶長年間(1596〜1615年)に、美濃陶祖と仰がれる加藤景延が九州の唐津で学んだ技術をもとに築いたと伝えられています。

なぜ重要文化財に指定されたのか

元屋敷陶器窯跡の出土品は、学術的にも芸術的にも極めて高い価値を持つことから重要文化財に指定されました。指定されたコレクションは2つに分かれています。昭和6年(1931年)に岐阜県立多治見工業高等学校(当時は多治見工業学校)が発掘調査を行い保管してきた390点と、昭和24年(1949年)の美濃陶祖奉賛会による発掘品および平成5年〜13年(1993〜2001年)に土岐市教育委員会が実施した発掘調査の出土品2,041点です。

これらのコレクションは、日本の窯業史上で大きな転換期とされる安土桃山時代から江戸時代にかけての美濃窯における陶器生産の全容を示す良好な資料です。焼成不良品(いわゆる「窯ぎず」のもの)を主体とし、匣鉢(さや)・円錐ピン・焼台などの窯道具や窯材も含まれており、当時の生産技術を解明する上で欠かせない資料となっています。現在、陶芸史上で高く評価されている伝世品の中にも、この窯で生産された優品が数多く確認されています。

美濃桃山陶の多彩な世界

元屋敷の窯々では、時代の嗜好と技術革新を反映して、驚くほど多様な陶器が生み出されました。16世紀後半の操業開始当初は、天目茶碗・灰釉皿・擂鉢といった従来型の製品が中心でした。しかし茶の湯文化の発展とともに、窯の製品は革新的な変化を遂げていきます。

16世紀末には、温かみのある黄緑色の灰釉が特徴の黄瀬戸(きせと)や、急冷技法による漆黒の鉄釉が見事な瀬戸黒(せとぐろ)が登場しました。続いて志野(しの)の生産が始まり、厚い長石釉による柔らかな白色の表面と繊細な絵付けで、日本初の本格的な国産白色陶器が誕生しました。

連房式登窯の導入後、17世紀初頭には織部(おりべ)の本格的な量産が開始されます。茶人・古田織部の名を冠するこの陶器は、織部黒・黒織部・青織部・赤織部・鳴海織部・志野織部・総織部・美濃伊賀・美濃唐津と、実に多彩な種類に分類されます。銅緑釉の大胆な使用、意図的な歪み、動的な絵付けを特徴とする織部は、それまでの日本陶磁の抑制された美意識からの劇的な転換を示すものでした。

茶の湯と美濃陶 — 窯から都へ

元屋敷で生産された陶器は、単なる地方の産物ではありませんでした。日本で最も目の肥えた茶人たちの要求に応える高級品として作られた、洗練された芸術品です。考古学的調査により、この窯の志野や織部は、京都・大坂・堺といった畿内の都市遺跡をはじめ、全国各地の城館跡や城下町からも出土していることが確認されています。

この広範な流通網は、安土桃山時代に有力な武将たちの庇護のもとで花開いた茶の湯文化において、美濃陶が中心的な役割を果たしていたことを物語っています。意図的な不完全さ、非対称の造形、大胆な装飾意匠は、侘び寂びの美学と、この時代の自由で創造的な精神を体現しています。

元屋敷陶器窯跡を訪ねる — 織部の里公園

元屋敷陶器窯跡は「織部の里公園」内に保存されており、実際の遺跡の中を歩いて見学することができます。連房式登窯は覆屋の下で発掘当時の姿のまま露出展示されており、焼成室の構造を間近に観察できます。3基の大窯も見学可能で、東1号窯は完全復元、東2号窯は内部構造がわかる形で復元、東3号窯は発掘された姿を型取りして展示されています。

公園内には、美濃桃山陶の制作を体験できる作陶施設「創陶園」や、名古屋の松坂屋創業家である伊藤家の別荘「揚輝荘」から移築された由緒ある茶室「暮雪庵」もあります。また、窯跡からの出土品を展示する展示室も設けられています。

なお、重要文化財コレクションの主要展示施設であった土岐市美濃陶磁歴史館は、建替えのため2024年4月より休館中です。新しい博物館は隣接する旧文化会館跡地に建設され、2028年の開館が予定されています。休館中も岐阜県美術館などで出張展示が行われることがありますので、最新の展示情報をご確認ください。

周辺情報

土岐市をはじめとする東濃地域は、現在も日本最大の美濃焼の産地として知られています。周辺には数多くの陶磁器ショップ、ギャラリー、卸売市場があり、現代の美濃焼を手に取って楽しむことができます。土岐プレミアム・アウトレットや美濃焼のショッピングスポットも充実しています。

近隣の多治見市には陶磁器関連の博物館やギャラリーがあり、車で足を伸ばせば中山道の宿場町・馬籠宿や景勝地の恵那峡も訪れることができます。日本の陶磁器に興味のある方は、元屋敷窯跡の見学と周辺の窯跡巡りを組み合わせることで、日本陶芸の中心地を深く体感する旅を楽しめるでしょう。

Q&A

Q元屋敷陶器窯跡からはどのような陶器が出土していますか?
A黄瀬戸・瀬戸黒・志野のほか、織部黒・黒織部・青織部・赤織部・鳴海織部・志野織部・総織部・美濃伊賀・美濃唐津など多彩な織部が出土しています。茶碗・向付・鉢・皿・水指・花入・徳利・香炉・香合など、茶の湯に関わる多種多様な器が含まれています。
Q重要文化財の出土品を見ることはできますか?
A主要な展示施設であった土岐市美濃陶磁歴史館は建替えのため2024年4月から休館中で、新博物館は2028年開館予定です。ただし、織部の里公園内の展示室で一部の遺物を見ることができるほか、岐阜県美術館などでの出張展示が行われることがあります。最新の展示スケジュールは観光情報をご確認ください。
Q織部の里公園へのアクセス方法を教えてください。
AJR中央本線の土岐市駅から徒歩約15分です。お車の場合は、中央自動車道の土岐インターチェンジから約15分、東海環状自動車道の五斗蒔スマートICから約5分です。無料駐車場(普通車約15台)が利用できます。
Q陶芸体験はできますか?
Aはい、織部の里公園内にある作陶施設「創陶園」で、美濃桃山陶スタイルの陶芸体験ができます。ぐい呑の作陶体験は800円からとなっています。詳しくは公園(TEL: 0572-54-2710)までお問い合わせください。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A公園は四季を通じて楽しめますが、特に6月には約6種6,500株の花しょうぶが園内に咲き誇り、花しょうぶ祭りも開催されます。春や秋は気候も良く、屋外の窯跡見学に最適です。夏場は公園内に日陰が少ないため、午前中の訪問をおすすめします。

基本情報

名称 岐阜県元屋敷陶器窯跡出土陶器
指定区分 重要文化財(平成25年〈2013年〉指定)
種別 考古資料 — 陶器
時代 安土桃山時代〜江戸時代初期(16世紀後半〜17世紀初頭)
点数 岐阜県立多治見工業高等学校所蔵分 390点 / 土岐市所蔵分 2,041点(別々に指定)
窯跡の指定 国指定史跡(昭和42年〈1967年〉指定)
窯跡所在地 織部の里公園内(岐阜県土岐市泉町久尻1246-1)
所蔵先 岐阜県土岐市土岐津町土岐口2121-1(土岐市文化プラザ内)/ 岐阜県関市小屋名1989(岐阜県博物館)
所有者 岐阜県 / 土岐市
公園開園時間 午前9時〜午後5時
休園日 月曜日(祝日の場合は火・水曜休)、祝日の翌日、12月29日〜1月5日
入園料 無料(作陶体験は800円〜)
アクセス JR中央本線 土岐市駅より徒歩約15分 / 中央自動車道 土岐ICより車で約15分 / 東海環状自動車道 五斗蒔スマートICより車で約5分
お問い合わせ 織部の里公園 TEL: 0572-54-2710

参考文献

岐阜県元屋敷陶器窯跡出土陶器 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/214677
岐阜県元屋敷陶器窯跡出土品 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/237368
国指定史跡「元屋敷陶器窯跡」 — 土岐市公式ウェブサイト
https://www.city.toki.lg.jp/kanko/bunkazai/1004852/1004853/1006503/1003297.html
元屋敷陶器窯跡 — 岐阜県公式ホームページ
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/366229.html
史跡 元屋敷陶器窯跡 — 土岐市文化振興事業団
http://www.toki-bunka.or.jp/oribe/point/motoyasiki
織部の里公園 — 岐阜の旅ガイド(岐阜県観光公式サイト)
https://www.kankou-gifu.jp/spot/detail_3059.html
織部の里公園 施設案内 — 土岐市公式ウェブサイト
https://www.city.toki.lg.jp/kanko/kanko/1004841/1006471/1006510/1003274.html
元屋敷陶器窯跡 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%83%E5%B1%8B%E6%95%B7%E9%99%B6%E5%99%A8%E7%AA%AF%E8%B7%A1
重要文化財公開「元屋敷陶器窯跡出土品展」 — 土岐市文化振興事業団バーチャルミュージアム
http://www.toki-bunka.or.jp/archives/virtualm/virtualm-9549

最終更新日: 2026.03.06

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