八丈島歴史民俗資料館(旧八丈支庁庁舎)― 亜熱帯の島に佇む昭和初期の洋風木造庁舎

東京の中心部から南へ約287キロメートル、黒潮が洗う太平洋上に浮かぶ八丈島。二つの火山がそびえ、亜熱帯の植物が生い茂るこの島の大賀郷地区に、昭和の面影を色濃く残す洋風木造建築が静かに佇んでいます。それが、八丈島歴史民俗資料館(旧八丈支庁庁舎)です。

1939年(昭和14年)、前年の台風で大破した庁舎に代わって建設されたこの建物は、東京府八丈支庁の庁舎として島の行政を担い続けました。1975年(昭和50年)に歴史民俗資料館として生まれ変わり、島の歴史や文化を伝える1,500点を超える資料を収蔵・展示してきました。1999年(平成11年)には本館が、2021年(令和3年)には新館がそれぞれ国登録有形文化財に登録され、建物そのものが貴重な文化遺産として認められています。2025年(令和7年)10月1日、大規模な耐震改修工事と展示リニューアルを経て、装いも新たに再開館しました。

なぜ国登録有形文化財に登録されたのか

本館は1999年(平成11年)7月8日に、新館は2021年(令和3年)2月4日に、それぞれ国登録有形文化財(建造物)として登録されました。

本館は、ほぼ左右対称のH字形平面を持つ特徴的な建物です。中央棟の北端側に廊下を一直線に通し、中央棟は片廊下、左右の棟は中廊下という計画的な配置がなされています。木造平屋建、鉄板葺で、建築面積は約423平方メートル。外壁には下見板張りの洋風意匠が施され、昭和初期の官公庁建築の特徴をよく伝えています。

新館は本館と接続してL字形の平面を構成し、本館と同じく下見板張りの洋風意匠を採用しています。平屋建切妻造シングル葺で、片廊下に沿って大小三室を配した間取りとなっています。

八丈島で有数の規模を誇るこれらの建物は、島の近代化を支えた戦前に遡る木造庁舎として、近代史上重要な役割を果たした建造物と評価されています。離島という厳しい環境条件の中で建設され、80年以上にわたって使用され続けてきたことも、その文化財としての価値を高めています。

流人の島 ― 館内に息づく流刑の歴史

八丈島の歴史を語る上で欠かせないのが、江戸時代における流刑地としての歴史です。慶長11年(1606年)から明治4年(1871年)までの約265年間に、1,800人を超える流人がこの島に送られました。

その最初の流人が、豊臣政権下で五大老の一人を務めた戦国武将・宇喜多秀家です。備前岡山57万石余を治めた秀家は、慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いで西軍の副将格として1万6千余の大軍を率いましたが、小早川秀秋の寝返りにより西軍は総崩れとなりました。薩摩の島津家に逃れた秀家でしたが、やがて徳川家康に引き渡され、33歳の若さで八丈島へ配流。以後、明暦元年(1655年)に83歳で没するまでの約50年間を島で過ごしました。

資料館には流人に関する充実した展示室が設けられており、秀家にまつわる資料や、流人たちが島の産業・文化の発展に大きく貢献した歴史を学ぶことができます。

魅力・見どころ

2025年10月のリニューアルにより、展示内容は大幅に刷新されました。本館にはA室からF室までの展示室が、新館にはH室が設けられています。

本館の展示

A室には、ScreenX(3面マルチプロジェクション)技術を用いたガイダンスシアターが設置され、八丈島の自然と文化を臨場感あふれる映像で体感できます。B室は黄八丈の専門展示室で、800年以上の歴史を持つこの島特有の絹織物について、実際の織機とともに紹介しています。植物由来の天然染料で染め上げられた黄金色の美しい布地は、かつて将軍家への献上品としても珍重されました。C室はコミュニケーションロビーとして受付・情報発信・地域交流の場となっています。D室では縄文時代の八丈島に焦点を当て、島内遺跡から出土した土器などの考古資料を展示。E室は古代・中世の八丈島の歴史を、F室は江戸時代の航路と流人の歴史を紹介しています。

新館と屋外展示

新館のH室では八丈島の歴史と文化を総合的に紹介しています。屋外には大きなガジュマルやビロウヤシが茂る庭園があり、正面玄関近くには町指定文化財の「石製くりぬき水槽」が展示されています。また、島内各地から移築された歴史的建造物を間近に見学することもできます。

建物そのものの魅力

建物自体が展示物であることを忘れてはなりません。一直線に伸びる長い廊下、左右対称の木造構造、下見板張りの外壁は、昭和初期の洋風官公庁建築の雰囲気をそのまま今に伝えています。リニューアルでは、歴史的な外観を保ちながら現代の設備が導入されました。新設されたトイレ棟には、杉板型枠による「浮造り(うづくり)木目調仕上げ」という珍しい工法が用いられ、コンクリートの壁面に自然の木目模様が美しく浮かび上がっています。

周辺情報

資料館は、八丈島の文化的な見どころを巡る拠点として最適な場所に位置しています。

大賀郷地区には、宇喜多秀家の墓所と住居跡が残されています。玉石垣に囲まれた五輪塔形の墓石は、天保12年(1841年)に子孫が建立したもので、その傍らには当初の簡素な位牌形の墓石も置かれています。島の西岸にある南原千畳岩海岸には、平成9年(1997年)に岡山城築城400年を記念して建立された宇喜多秀家と豪姫の像があり、二人は仲良く並んで遥か岡山の方角を見つめています。

自然愛好家には、100種以上の植物が育つ八丈植物公園がおすすめです。八丈富士(標高854メートル)は伊豆諸島の最高峰で、山頂からは太平洋の大パノラマが広がります。三原山(標高701メートル)には落差約36メートルの唐滝や、エメラルドグリーンの硫黄沼があります。島内に点在する天然温泉も魅力的で、太平洋を一望できる「みはらしの湯」は特に人気です。

「新東京百景」に選ばれた登龍峠(のぼりゅうとうげ)からは、八丈富士・八丈小島・底土港などを一望する絶景が楽しめます。

Q&A

Q英語での案内はありますか?
A展示の基本言語は日本語ですが、受付で各展示室の内容や主要な展示品を解説した英語パンフレットを無料で配布しています。リニューアル後は映像展示やビジュアル要素が充実し、言語を問わず楽しめる内容となっています。
Q八丈島へのアクセス方法は?
A東京・羽田空港からANAの飛行機で約50分(1日3便)、または竹芝桟橋から東海汽船のフェリーで約10時間です。資料館へは、八丈島空港から車で約6分、町営バス末吉行き「歴史民俗資料館」バス停から徒歩約1分です。
Q黄八丈とは何ですか?
A黄八丈は八丈島で800年以上の歴史を持つ伝統的な手織り絹織物です。コブナグサなどの植物から抽出した天然染料で染め上げた温かみのある黄金色が特徴で、江戸時代には将軍家への献上品としても用いられました。リニューアル後のB室では、黄八丈に1室丸ごと使った展示をご覧いただけます。
Q子ども連れでも楽しめますか?
Aはい、リニューアルではScreenXシアター(A室)など体験型の展示が導入され、お子さまにも楽しんでいただけます。縄文土器や伝統的な道具類の展示は学びの機会にもなります。屋外の亜熱帯植物が茂る庭園も、ご家族でゆったりと過ごせる空間です。
Q八丈島観光のベストシーズンはいつですか?
A八丈島は年間を通じて温暖な亜熱帯性気候です。春(3月〜5月)と秋(10月〜11月)は気温が快適で、観光に最適です。夏は海水浴やダイビングに最適ですが、台風の影響を受けることがあります。冬は東京本土に比べて温暖で、人混みを避けたい方にはおすすめのシーズンです。

基本情報

名称 八丈島歴史民俗資料館(旧八丈支庁庁舎)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)(本館:1999年7月8日登録、新館:2021年2月4日登録)
建築年 1939年(昭和14年)
構造 木造平屋建、鉄板葺、建築面積約423㎡
所在地 〒100-1401 東京都八丈島八丈町大賀郷1186
電話番号 04996-9-5250
アクセス 八丈島空港から車で約6分/町営バス末吉行き「歴史民俗資料館」バス停より徒歩約1分
リニューアルオープン 2025年(令和7年)10月1日
所有者 東京都八丈島八丈町(建物は東京都所有、八丈町へ無償貸与)
駐車場 あり(無料)

参考文献

八丈島歴史民俗資料館(旧八丈支庁庁舎) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/147795
八丈島歴史民俗資料館(旧八丈支庁庁舎) — 八丈島の文化財
https://www.town.hachijo.tokyo.jp/culture/
八丈島歴史民俗資料館 — 八丈町公式サイト
https://www.town.hachijo.tokyo.jp/kakuka/kyouiku/rekimin.html
八丈島歴史民俗資料館の歴史 — 八丈町からのお知らせ
https://hachijo.info/info/?page_id=21394
歴史民俗資料館大規模改修工事の進捗状況 — 八丈町からのお知らせ
https://hachijo.info/info/?page_id=22002
八丈島歴史民俗資料館 — 八丈島観光協会
https://www.hachijo.gr.jp/facility/history-and-folklore-museum/
宇喜多秀家ゆかりの地 八丈島 — 岡山県ホームページ
https://www.pref.okayama.jp/page/detail-29247.html

最終更新日: 2026.03.09

近隣の国宝・重要文化財