今尾家住宅中門及び塀 ― 中山道・新加納の歴史を伝える登録有形文化財

岐阜県各務原市那加新加納町の閑静な街並みの中に、今尾家住宅中門及び塀(いまおけじゅうたくちゅうもんおよびへい)は静かに佇んでいます。平成19年(2007年)5月15日に国の登録有形文化財として登録されたこの中門と塀は、かつて中山道の間の宿として賑わった新加納の歴史と、地域の有力な旧家の暮らしぶりを今に伝える貴重な建造物です。

歴史的背景 ― 中山道・新加納宿

今尾家住宅が所在する那加新加納町は、江戸時代に中山道の「間の宿(あいのしゅく)」として発展した新加納宿の一角にあたります。中山道は江戸と京都を結ぶ五街道の一つであり、新加納は正式な宿場である鵜沼宿と加納宿の間に位置していました。両宿場間の距離が約17キロメートル(4里10町)と他の区間に比べて長かったため、旅人の休憩所として新加納が自然と発展したのです。

慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いで功績を挙げた坪内利定は、美濃国各務郡の大身旗本として新加納陣屋を築きました。この陣屋を中心として周辺が間の宿として整備され、入口に枡形が設けられるなど、小規模ながらも宿場としての体裁を備えた町並みが形成されました。今尾家住宅は、こうした歴史的な街道文化の中で栄えた地域の有力な旧家の屋敷です。

今尾家住宅の全容

今尾家は新加納地域で代々続いた有力な家柄であり、その屋敷構えは美濃地方の裕福な農家・商家の格式を今に伝えています。注目すべきは、屋敷内の6棟もの建造物がすべて国の登録有形文化財に登録されている点です。登録はすべて平成19年(2007年)5月15日に行われました。

  • 主屋(しゅおく) ― 登録番号 21-0115
  • 離れ(はなれ) ― 登録番号 21-0116
  • 米蔵(こめぐら) ― 登録番号 21-0117
  • 表門及び塀(おもてもんおよびへい) ― 登録番号 21-0118
  • 中門及び塀(ちゅうもんおよびへい) ― 登録番号 21-0119
  • 薬師堂(やくしどう) ― 登録番号 21-0120

屋敷内に薬師堂(薬師如来を祀るお堂)を持つことは特筆に値します。個人の邸宅内にこうした仏堂を構えることは、相当の経済力と地域における信望がなければ実現し得ないものであり、今尾家が長年にわたりこの地域で重要な役割を果たしてきたことを物語っています。

中門及び塀の建築的特徴と価値

中門(ちゅうもん)は、今尾家屋敷の内部に設けられた第二の門です。より格式の高い表門をくぐった後、さらに奥の居住空間へ進む際に通過する門であり、日本の伝統的な住居建築における空間の階層性 ― 公的空間から半私的空間、そして私的空間へと段階的に移行する構成 ― を体現する重要な要素です。

門は木造で、伝統的な瓦屋根を載せた構造となっています。美濃地方の裕福な家屋に見られる建築様式を反映しており、門に接続する塀(へい)は屋敷の内郭を画定し、居住者の暮らしに静謐さと風格をもたらしています。

木材の仕口・継手の技法、瓦の葺き方、そして全体のプロポーションには、地元の職人たちの高い技量が表れています。主屋だけでなく付属的な建造物にまでこうした丁寧な仕事が施されていることが、今尾家住宅の文化財としての評価を高めている理由の一つです。

登録有形文化財に登録された理由

登録有形文化財制度は、平成8年(1996年)に創設された制度で、急速な都市化や生活様式の変化によって失われつつある歴史的建造物を幅広く保護することを目的としています。指定文化財のような厳格な規制ではなく、届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護措置が特徴で、建物を引き続き使用しながら保存できる柔軟な仕組みとなっています。

今尾家住宅中門及び塀は、「建築後50年を経過していること」「地域のシンボルとなっている、または優れたデザインや技術が使われていること」という登録基準を満たし、文化財として登録されました。中山道の間の宿・新加納に残る旧家の屋敷構えとして、地域の歴史的景観に重要な役割を果たしており、伝統的な建築技法を今に伝える貴重な存在です。

6棟もの建造物が一体的に登録されていることで、かつてのこの地域における有力な家の屋敷がどのような構成であったかを総合的に理解できる、全国的にも希少な事例となっています。

見どころ

今尾家住宅を訪れる際は、いくつかの見どころに注目していただきたいポイントがあります。中門の木造の骨組みには、釘を使わずに木材同士を組み合わせる伝統的な仕口・継手の技法を見ることができます。門の高さ、屋根の勾配、開口部の幅といった寸法は、実用性と美的調和を両立させる日本建築の伝統に基づいて計算されています。

門に連なる塀は、木材・土壁・瓦を組み合わせて構築されており、日本の建築家たちが耐久性と美しさを兼ね備えた囲いをどのように作り上げたかを示す好例です。経年変化による壁の風合いと、木部の落ち着いた色合いが織りなす景観は、季節や光の加減によってさまざまな表情を見せます。

屋敷全体を俯瞰すると、表門・中門・主屋・離れ・米蔵・薬師堂がどのように配置され、互いにどのような空間的関係を結んでいるかが見えてきます。こうした建物群のアンサンブル効果 ― 個々の建造物が一体となって一つの生活空間を作り上げている姿 ― は、日本の伝統的な住居建築群を訪れる際の大きな魅力です。

なお、今尾家住宅は個人のお住まいですので、内部への立ち入りは原則としてできません。見学の際は、公道からの外観鑑賞にとどめ、住民の方々のご迷惑にならないようご配慮をお願いいたします。

周辺情報

新加納地区周辺には、歴史散策を楽しめるスポットが点在しています。新加納陣屋公園は、かつての坪内氏の陣屋跡を整備した静かな公園で、この地域の武家の歴史を偲ぶことができます。旧中山道の道筋は現在も一部たどることができ、近代的な建物の間に伝統的な家屋が残る街並みを楽しむことができます。

各務原市内には58件もの登録有形文化財があり、建造物の宝庫ともいえる地域です。東の鵜沼地区には中山道鵜沼宿の歴史的な町並みが残り、貞照寺(7件の登録有形文化財)や加佐美神社(本殿・幣殿・拝殿の3件が登録)など、見応えのある文化財が数多くあります。各務地区の村国座は、地芝居の伝統を今に伝える歴史的な芝居小屋です。

自然を楽しみたい方には、「日本さくら名所100選」に選ばれた新境川堤の桜並木がおすすめです。春には見事な桜のトンネルが出現し、多くの花見客で賑わいます。また、市の南部を流れる木曽川では、夏季に伝統的な「木曽川うかい」を楽しむことができます。岐阜かかみがはら航空宇宙博物館では、各務原の近代産業の歴史に触れることも可能です。

Q&A

Q今尾家住宅の敷地内に入ることはできますか?
A今尾家住宅は個人のお住まいですので、通常は敷地内への立ち入りや内部の見学はできません。門や塀の一部は公道から外観を鑑賞することができます。各務原市教育委員会文化財課が特別な見学会や公開イベントを実施する場合は、各務原市の公式ウェブサイト等でお知らせされます。
Q今尾家住宅へのアクセス方法を教えてください。
A最寄り駅は名鉄各務原線の新加納駅です。名鉄岐阜駅から約10分で到着します。名古屋方面からは、名鉄名古屋駅から名鉄岐阜駅まで乗車し、各務原線に乗り換えてください。新加納駅から今尾家住宅までは徒歩約10分です。JR高山本線の那加駅からも徒歩圏内です。
Q近くに他の文化財はありますか?
A各務原市内には58件の登録有形文化財があります。近隣では、鵜沼地区の中山道鵜沼宿の町並み、貞照寺(7件の登録有形文化財)、加佐美神社(本殿・幣殿・拝殿が登録)、各務地区の村国座などが見学できます。また、新加納陣屋公園や中山道の旧道跡もあわせて散策するとより充実した体験になります。
Q登録有形文化財と指定文化財の違いは何ですか?
A登録有形文化財は平成8年(1996年)に創設された制度で、届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護の枠組みです。建物を引き続き使用でき、外観を大きく変えなければ改修も可能です。一方、指定文化財(重要文化財・国宝など)は現状変更に厳しい規制がかかりますが、修理等に手厚い補助があります。登録制度は指定制度を補完し、より幅広い歴史的建造物を保護するために設けられました。

基本情報

名称 今尾家住宅中門及び塀(いまおけじゅうたくちゅうもんおよびへい)
登録番号 21-0119
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成19年(2007年)5月15日
所在地 岐阜県各務原市那加新加納町2126
最寄り駅 名鉄各務原線 新加納駅
アクセス 新加納駅から徒歩約10分
公開状況 個人住宅のため非公開(外観は公道から鑑賞可能)
関連文化財 今尾家住宅主屋、離れ、米蔵、表門及び塀、薬師堂(すべて登録有形文化財)
お問い合わせ 各務原市教育委員会 文化財課 TEL: 058-383-1475

参考文献

登録有形文化財|各務原市公式ウェブサイト
https://www.city.kakamigahara.lg.jp/kankobunka/bunkazai/1005182.html
登録有形文化財(建造物) - 岐阜県公式ホームページ
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/12417.html
新加納宿 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%8A%A0%E7%B4%8D%E5%AE%BF
歴史・寺社 | 各務原市観光協会
https://kakamigahara-kankou.jp/tourism_cat/history
有形文化財(建造物) | 文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/

最終更新日: 2026.03.06

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