明治5年開業の官営製糸場 ― 国宝3棟と重要文化財6棟
旧富岡製糸場は、群馬県富岡市富岡1番地にある明治5年(1872年)開業の官営器械製糸工場で、平成18年(2006年)7月5日に9棟が重要文化財に指定され、平成26年(2014年)12月10日にそのうち繰糸所・東置繭所・西置繭所の3棟が国宝に指定された。所有は富岡市である。
9棟の内訳は、繰糸所、東置繭所、西置繭所、首長館、女工館、検査人館、蒸気釜所、鉄水溜、下水竇及び外竇である。このうち国宝が3棟、重要文化財のみが6棟という二段構えになっている。敷地は国の史跡で、平成26年6月には世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産として登録された。
文化庁の解説は経緯を明確に記す。明治政府の殖産興業政策に基づいて設立された官営の模範器械製糸工場で、明治4年(1871年)3月に起工し、翌5年7月に繰糸所と東西の置繭所が落成、同年10月4日に開業した。フランス人の生糸検査人ブリュナの企画指導のもと、横須賀造船所の技師バスティアンが図面を作成し、施工は日本人があたった。
木骨煉瓦造 ― 日本の軸組に西洋の壁
国宝3棟に共通する構造がある。木骨煉瓦造である。文化庁の解説は「木造の軸組に壁を煉瓦積とした」と定義する。
西洋の煉瓦造は壁そのものが上部の荷重を支える。富岡ではそうしなかった。荷重は日本の伝統的な柱と梁の軸組が受け、煉瓦は柱の間を埋める壁として積まれた。フランスの技術者が図面を引き、日本の大工が建てた結果として、両者の構法が一つの建物に同居している。煉瓦は日本で焼かれ、目地には漆喰が使われた。
文化庁が「我が国最初期の西洋式建築の構造技術や建築技法を伝えており、学術的に高い価値がある」と評するのは、この折衷の構法についてである。
3棟の規模 ― 桁行140メートルと104メートル
繰糸所は敷地の中心に位置し、繰糸を行う建物である。桁行が140メートルと長大で、キングポストトラスの小屋組、高い天井、鉄製ガラス窓によって明るい大空間を実現している。トラスとは三角形を組み合わせて屋根を支える構造で、柱を立てずに広い室内を確保できる。繰糸機を長く並べるための空間が、この構造によって生まれた。
東西の置繭所は繰糸所と直交する方向に建つ桁行104メートル、二階建のほぼ同形の建物で、建築面積はそれぞれ1,486.60平方メートル。繭を乾燥・貯蔵する建物で、乾燥のために多数の窓を備える。東置繭所は入口正面の建物で、アーチの要石に「明治五年」の銘を刻む。
文化庁は、繰糸所と東西の置繭所が我が国の製糸工場建築の模範となったと結ぶ。この3棟を建てた技術と平面が、その後の各地の製糸場に引き継がれた。
9棟で一件である理由 ― 二段の指定
繰糸所だけを見れば140メートルの工場である。首長館だけを見れば一人の技術者の住まいである。9棟を並べて初めて、官営製糸場が一つの組織としてどう動いていたかが読み取れる。
繰糸所で糸を取り、東西の置繭所で繭を乾燥・貯蔵し、蒸気釜所で動力と湯を作り、鉄水溜に水を蓄え、下水竇で排水する。首長館にはブリュナが住み、女工館にはフランス人の女性教師が住み、検査人館には生糸の検査人が住んだ。生産・動力・給排水・居住という機能の全体が、開業時に近い姿でほぼ完存している。文化庁が「主要生産施設がほぼ完存しており、高い歴史的価値がある」と評するのは、この全体についてである。
そのうえで、生産の核心である3棟だけが国宝へ移された。国宝の理由は、極東地域において西洋、特にフランスの技術を導入し、日本固有の技術と融合させることで産業革命を成し遂げ、世界の絹文化の発展に大きく貢献した拠点施設であること、とされる。重要文化財の指定が施設の完全性を、国宝の指定が3棟の建築と歴史的意義を評価しているという二段構えになっている。
見学
開場は午前9時から午後5時まで、最終入場は午後4時30分。休場は12月29日から31日まで。見学料は大人1,000円、高校生と大学生250円、小中学生150円で、時期により変わることがあるため訪問前に確認したい。
繰糸所の内部に入ると、140メートルの空間にキングポストトラスが連続して並ぶのが見える。窓は鉄製で、両側から光が入る。東置繭所は入口正面にあり、要石の「明治五年」を見上げてから入る。西置繭所は保存整備工事を経て、講演会やコンサートなどの会場としても使われている。
解説員によるガイドツアーが定時に行われ、音声ガイドもある。撮影は屋外と一部の建物内部で可能だが、指定された箇所では禁止されているので現地の案内に従いたい。
交通は上信電鉄の上州富岡駅から徒歩約15分。上信越自動車道の富岡インターチェンジから車で約10分で、市営の駐車場がある。
Q&A
- 旧富岡製糸場はいつ建てられ、どのように指定されていますか。
- 明治4年(1871年)3月に起工し、明治5年(1872年)10月4日に開業しました。平成18年(2006年)7月5日に9棟が重要文化財に指定され、平成26年(2014年)12月10日に繰糸所・東置繭所・西置繭所の3棟が国宝に指定されています。同年、世界遺産の構成資産にもなりました。
- 旧富岡製糸場の木骨煉瓦造とは何ですか。
- 木造の軸組に壁を煉瓦積とした構造です。西洋の煉瓦造は壁が荷重を支えますが、富岡では日本の柱と梁の軸組が荷重を受け、煉瓦は柱の間を埋める壁として積まれました。フランスの技術者が図面を引き、日本の大工が建てた結果、両者の構法が一つの建物に同居しています。
- 国宝の3棟はどのような建物ですか。
- 繰糸所は桁行140メートルの平屋で、キングポストトラスの小屋組と鉄製ガラス窓により明るい大空間を実現しています。東西の置繭所は桁行104メートル、二階建のほぼ同形の繭の乾燥・貯蔵庫で、建築面積は各1,486.60平方メートル。東置繭所のアーチ要石には「明治五年」の銘があります。
- なぜ9棟のうち3棟だけが国宝なのですか。
- 重要文化財の指定は生産・動力・給排水・居住という施設全体がほぼ完存していることを評価し、国宝の指定は生産の核心である3棟の建築と歴史的意義を評価しています。文化庁は3棟を、フランスの技術を日本固有の技術と融合させて産業革命を成し遂げた拠点施設と位置づけています。
- 旧富岡製糸場の見学料と時間は。
- 午前9時から午後5時まで、最終入場は午後4時30分。休場は12月29日から31日です。見学料は大人1,000円、高校生と大学生250円、小中学生150円。上信電鉄の上州富岡駅から徒歩約15分です。ガイドツアーと音声ガイドがあります。
基本情報
| 名称 | 旧富岡製糸場(きゅうとみおかせいしじょう) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県富岡市富岡1番地 |
| 指定区分 | 国宝(繰糸所・東置繭所・西置繭所の3棟)、重要文化財(首長館・女工館・検査人館・蒸気釜所・鉄水溜・下水竇及び外竇の6棟)/敷地は史跡/世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」構成資産 |
| 指定年 | 2006年(平成18年)7月5日 9棟を重要文化財に指定/2014年(平成26年)12月10日 3棟を国宝に指定 |
| 員数 | 9棟 |
| 寸法 | 木骨煉瓦造。繰糸所 桁行140メートル、平屋、キングポストトラス/東置繭所・西置繭所 桁行104メートル、2階建、建築面積各1,486.60平方メートル、桟瓦葺。1872年 |
| 所有者 | 富岡市 |
| 公開状況 | 午前9時から午後5時、最終入場午後4時30分。休場は年末の3日間。見学料は大人1,000円、高校生と大学生250円、小中学生150円 |
参考文献
- 文化遺産オンライン 旧富岡製糸場 繰糸所
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/124804
- 文化遺産オンライン 旧富岡製糸場 東置繭所
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/158535
- 文化遺産オンライン 旧富岡製糸場 首長館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/196660
- 群馬県 旧富岡製糸場の国宝指定について
- https://www.pref.gunma.jp/page/5167.html
- 富岡市 富岡製糸場(3棟)国宝指定について
- https://www.city.tomioka.lg.jp/www/contents/1418028474454/index.html
- 富岡製糸場 公式サイト
- https://www.tomioka-silk.jp/_tomioka-silk-mill/
最終更新日: 2026.09.02
同エリアの文化財
いずれも同じエリアの徒歩圏内にあるので、あわせての見学がおすすめです。
- 旧富岡製糸場 繰糸所 0.00 km
- 旧富岡製糸場 蒸気釜所 0.03 km
- 旧富岡製糸場 鉄水溜 0.05 km
- 旧富岡製糸場 下水竇及び外竇 0.06 km
- 旧富岡製糸場 首長館 0.09 km
- 旧富岡製糸場 東置繭所 0.09 km
- 旧富岡製糸場 女工館 0.09 km
- 旧富岡製糸場 西置繭所 0.10 km
- 旧富岡製糸場 検査人館 0.11 km