日本最古の国宝「北海道白滝遺跡群出土品」への旅

2023年6月27日、北海道遠軽町の白滝遺跡群から出土した石器群が国宝に指定されました。旧石器時代の資料としては日本初、北海道では函館市の中空土偶に次ぐ2例目となる快挙です。石器1,514点と接合資料451組から成るこのコレクションは、約3万年前の人類の営みを今に伝える、世界的にも類を見ない貴重な文化財です。

日本最大級の黒曜石原産地・赤石山の麓に位置する白滝遺跡群からは、これまでに約700万点、総重量13トンもの遺物が発掘されています。その圧倒的な質と量、そして石器製作技術の変遷を示す学術的価値が認められ、この度の国宝指定に至りました。

世界に誇る黒曜石の大地

白滝ジオパークの中心となる赤石山には、推定60億トンもの黒曜石が埋蔵されており、世界最大級の産地として知られています。約220万年前の火山活動によって生まれた黒曜石は、まるで天然のガラスのような美しい光沢を持ち、割れ口は現代の手術用メスよりも鋭利です。

この優れた性質により、黒曜石は旧石器時代から縄文時代にかけて、狩猟具やナイフなど生活に欠かせない道具の材料として重宝されました。白滝産の黒曜石は品質が特に優れており、その分布は北海道全域はもとより、サハリンや本州、さらには大陸にまで及んでいます。

考古学的調査により、人々が数百キロメートルもの距離を移動して白滝の黒曜石を求めていたことが明らかになっています。この事実は、3万年前にすでに広域的な交易ネットワークが存在していたことを示す重要な証拠となっています。

なぜ国宝に指定されたのか

白滝遺跡群出土品が国宝に指定された理由は、その歴史的・学術的価値の高さにあります。後期旧石器時代(約3万~1万年前)における石器製作技術の全容を示す資料として、日本の旧石器時代研究において極めて重要な位置を占めています。

特に注目すべきは、「湧別技法」と呼ばれる細石刃製作技術の存在です。この技法により作られた細石刃は、まるでカミソリのような切れ味を持ち、北東アジア全域に広まりました。また、全長36.3センチメートルに及ぶ超大型の尖頭器は、当時の技術力の高さを物語る傑作です。

さらに、多数の「接合資料」の存在も重要です。これらは割られた石片を立体パズルのように組み合わせることで、石器製作の工程を完全に復元できる資料です。これにより、3万年前の人々の思考過程や技術体系を詳細に解明することが可能となり、人類の認知能力の発達を研究する上でも貴重な手がかりとなっています。

国宝を体感する展示施設

遠軽町埋蔵文化財センターは、白滝総合支所の2階にあり、国宝指定された出土品のうち約1,900点を常設展示しています。展示室では、床面に黒曜石を配置した斬新なデザインにより、まるで歴史の上を歩いているような感覚を味わえます。

展示は時代順に配置され、単純な剥片石器から精巧な細石刃まで、石器技術の進化を分かりやすく理解できる構成となっています。また、実際にマンモスの牙に触れることができるコーナーもあり、旧石器時代の世界を五感で体験することができます。

1階の白滝ジオパーク交流センターでは、黒曜石誕生の物語をダイナミックな映像で紹介するジオシアターが設置されています。220万年前の火山活動から現在に至るまでの大地の歴史を学ぶことで、国宝の石器群がなぜこの地で生まれたのかを深く理解することができます。

太古の技を体験する

埋蔵文化財センターでは、実際に黒曜石を使った石器作り体験ができます。エゾシカの角をハンマー代わりに使い、本物の黒曜石から世界に一つだけのナイフを作る体験は、他では味わえない貴重な経験です。

体験学習メニューは石器作りだけでなく、滑石を削って作る勾玉作りや、黒曜石ペンダント作りなど多彩です。いずれも予約不要で、専門スタッフが丁寧に指導してくれるため、子供から大人まで安全に楽しむことができます。

特に人気なのは、黒曜石の石器作り体験です。実際に3万年前の人々と同じ技法で石器を作ることで、当時の人々の知恵と技術の高さを実感できます。完成した作品は持ち帰ることができ、旅の特別な思い出となることでしょう。

白滝ジオパークの魅力

2010年に日本ジオパークに認定された白滝地域では、博物館展示だけでなく、実際の黒曜石露頭を見学するジオツアーが開催されています。「八号沢露頭」では黒曜石溶岩の断面を観察でき、「黒曜石銀河ロード」では地面に散らばる黒曜石がまるで星空のように輝く光景を目にすることができます。

これらのジオツアーは5月から10月まで開催され、専門ガイドが地質学的な解説だけでなく、古代の人々がどのようにこの地を利用していたかも詳しく説明してくれます。国有林内への立ち入りとなるため事前予約が必要ですが、その価値は十分にあります。

また、ジオパークの概念は地質遺産と人々の暮らしを結びつけるものです。黒曜石を生み出した火山活動による土壌は、現在では日本一甘いと評される「白滝じゃが」を育んでいます。大地の恵みは形を変えて、今も人々の生活を支えているのです。

国際的な評価と学術研究

2023年7月には、アジアで初めてとなる国際黒曜石会議が遠軽町で開催されました。世界中から考古学者、地質学者、分析科学者が集まり、黒曜石研究の最新成果が発表されました。これにより、白滝遺跡群の国際的な重要性がさらに認識されることとなりました。

現在も最新の科学技術を用いた研究が続けられており、蛍光X線分析により個々の石器の原産地を特定し、古代の交易ルートや人類の移動パターンを解明する研究が進んでいます。これらの研究成果は、最終氷期における現生人類のアジア拡散を理解する上で重要な手がかりとなっています。

白滝遺跡群の研究は、単なる地域史の解明にとどまらず、人類の認知能力の進化、技術革新のメカニズム、社会組織の発達など、人類史の根本的な問題に光を当てる重要な役割を果たしています。

周辺の観光スポット

国宝見学と併せて楽しめる周辺観光も充実しています。丸瀬布地区にある山彦の滝は落差28メートルの壮大な滝で、滝の裏側に回り込める「裏見の滝」としても有名です。冬季には滝全体が凍結し、巨大な氷柱となる神秘的な光景を見ることができます。

8月中旬から9月下旬にかけては、太陽の丘えんがる公園のコスモス園で1,000万本のコスモスが咲き誇ります。10ヘクタールの広大な敷地を埋め尽くす花の海は、日本最大級の規模を誇り、多くの観光客を魅了しています。

道の駅しらたきは、旭川紋別自動車道の白滝パーキングエリア内にあり、観光の拠点として最適です。地元特産の白滝じゃがを使った料理や、エゾシカやヒグマなどのジビエ料理も楽しめます。現代においても、この地域は大地の恵みとともに生きているのです。

訪問計画のポイント

遠軽町埋蔵文化財センターは通年開館していますが、冬期(11月~4月)は土日祝日が休館となります。入館料は大人320円、高校生以下160円と、国宝を見学できる施設としては非常にリーズナブルです。バリアフリー対応で、車椅子でも安心して見学できます。

JR白滝駅から徒歩約15分、車では旭川紋別自動車道の白滝ICから約5分でアクセスできます。北海道の雄大な自然の中をドライブしながら、3万年前の世界へタイムスリップする旅は格別です。旭川や北見からの都市間バスも運行されています。

じっくり見学と体験を楽しむなら半日は確保したいところです。午前中に博物館を見学し、午後は周辺の自然スポットを巡るプランがおすすめです。世界に誇る考古学的遺産と北海道の大自然を同時に満喫できる、贅沢な時間を過ごすことができるでしょう。

よくある質問

Qなぜ「日本最古の国宝」と呼ばれるのですか?
A約3万年前の旧石器時代の遺物で、日本の国宝の中で最も古い時代のものだからです。これまで旧石器時代の資料が国宝に指定されたことはなく、人類が日本列島に到達した最初期の貴重な証拠となっています。
Q実際に国宝の石器に触ることはできますか?
A国宝指定品は展示ケース内で保護されていますが、レプリカや実際の黒曜石を使った体験学習が充実しています。石器作り体験では、本物の黒曜石を使って古代と同じ技法で石器を作ることができます。
Q子供連れでも楽しめますか?
Aはい、大変おすすめです。マンモスの牙に触れたり、石器作りや勾玉作りなどの体験学習は子供たちに大人気です。専門スタッフが安全に配慮しながら指導してくれるので、家族みんなで楽しめます。
Q訪問に最適な季節はいつですか?
A夏季(7月~9月)がベストシーズンです。ジオツアーが開催され、全施設が毎日開館しています。この時期はコスモスの開花時期とも重なります。ただし、室内展示は通年楽しめ、冬は凍結した滝など独特の魅力があります。
Q見学にはどのくらい時間が必要ですか?
A展示見学と体験学習で2~3時間は必要です。ジオツアーに参加したり、周辺観光も含めると丸1日楽しめます。遠軽町の様々な魅力を堪能するなら、1泊2日の滞在がおすすめです。

基本情報

正式名称 国宝「北海道白滝遺跡群出土品」
指定年月日 2023年(令和5年)6月27日
点数 1,965点(石器1,514点、接合資料451組)
時代 後期旧石器時代(約3万~1万年前)
所在地 〒099-0111 北海道紋別郡遠軽町白滝138-1 白滝総合支所内
開館時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日 5月~10月:無休、11月~4月:土日祝日・年末年始
入館料 大人320円、高校生以下160円
アクセス JR白滝駅から徒歩15分、旭川紋別自動車道白滝ICから車で5分
問い合わせ TEL: 0158-48-2213(遠軽町教育委員会白滝教育センター)

参考文献

白滝ジオパーク公式サイト
http://geopark.engaru.jp/
文化遺産オンライン - 国宝データベース
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/578832
遠軽町観光協会
https://www.engaru-kankou.jp/
遠軽町公式ホームページ
https://engaru.jp/
日本ジオパークネットワーク
https://geopark.jp/geopark/shirataki/

最終更新日: 2025.11.06

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