北海道常呂川河口遺跡墓坑出土品:オホーツク海沿岸に眠る古代の至宝

北海道の北東部、オホーツク海に注ぐ常呂川の河口付近に、日本考古学史上きわめて重要な発見の舞台となった遺跡があります。「北海道常呂川河口遺跡墓坑出土品」は、縄文時代晩期から続縄文時代にかけて営まれた集団墓地から出土した1,805点の副葬品で構成され、令和5年(2023年)6月27日に国の重要文化財に指定されました。琥珀玉の首飾り、ヒスイの勾玉、精巧な装飾土器、黒曜石の石器など、約2,900年前から1,600年前の人々が死者とともに埋葬した品々は、北海道東部における古代の精神世界と暮らしを鮮やかに物語っています。

この出土品は、現在北見市が所有する唯一の国指定重要文化財であり、北見市常呂町の「ところ遺跡の森」内にある「ところ遺跡の館」で公開されています。

常呂川河口遺跡とは

常呂川河口遺跡は、北海道のオホーツク海側で最大の河川である常呂川の河口付近、東岸の微高地上に位置しています。1988年度から2002年度にかけて、常呂川の蛇行箇所の直線化工事(河川改修)に先立つ発掘調査が行われ、多数の墓坑(ぼこう)が検出されました。それらの墓からは、大量かつ多彩な副葬品が出土し、その総量は東京大学による60年以上にわたる学術調査の出土品を遙かに超えるものでした。

重要文化財に指定された1,805点は、これらの膨大な出土品の中から選び抜かれた代表的な資料です。縄文時代晩期から続縄文時代中頃までの墓坑から発見されたもので、当時の葬送儀礼の実態と北海道東部の文化内容を伝える、きわめて貴重な考古学資料として高く評価されています。

なぜ重要文化財に指定されたのか

この出土品が重要文化財に指定された理由は、主に以下の点にあります。

第一に、副葬品の量と多様性が同時代の北海道の遺跡の中で際立っていることです。土器、石器、装身具を中心とする出土品は、当時の文化の豊かさを如実に示しています。土器は装飾性に富んだ奇抜な器形のものを含み、石器では大量の石鏃(せきぞく・矢じり)が注目されます。また、黒曜石の球状・棒状の原石も副葬されており、原材料そのものに価値が認められていたことがうかがえます。

第二に、装身具、特に琥珀玉の出土数がきわめて多いことです。琥珀はサハリン(樺太)産と推定されており、この地域がオホーツク海沿岸の交易ルートを掌握する有力な勢力の拠点であったことを物語っています。とりわけ470号土坑からは約2,500点もの琥珀玉が出土しており、同時代の北海道全体で見ても突出した数量です。

第三に、新潟県糸魚川産と考えられるヒスイ(翡翠)製の勾玉や玉が含まれている点です。南方の糸魚川と北方のサハリン、双方からの貴重品が一つの遺跡に集まっていることは、この地域の古代の人々が南北をまたぐ広域的な交易ネットワークを築いていたことを示す貴重な証拠です。

これらの出土品は、北海道東部における縄文時代から続縄文時代の文化内容を示すとともに、当時の葬送儀礼や社会構造を推定するうえで不可欠な学術資料として評価されました。

見どころ・出土品の魅力

琥珀玉の首飾り

サハリン産とされる琥珀を素材とした玉類は、この出土品の最大の見どころです。形状は、素材の自然な形を活かした不定形のものから、扁平な円筒形でその中央に精密な円孔を穿った定型的な臼玉状のものまで多彩です。中には2,000個以上もの琥珀玉を連ねた首飾りもあり、製作に費やされた膨大な労力と高い技術がうかがえます。

ヒスイの勾玉・玉類

縄文時代晩期の墓坑からは、新潟県糸魚川付近から運ばれたとされるヒスイ製の勾玉や円形の玉が出土しています。日本古来の装飾品として知られる勾玉が、遠く離れたオホーツク海沿岸まで運ばれていた事実は、古代の人々の交易範囲の広大さを示しています。

装飾性豊かな土器

墓に副葬された土器は、装飾性に富んだ独創的な器形のものが含まれています。東北地方の大洞C2式土器が在地の幣舞式土器と共伴して出土するなど、異なる地域の文化伝統が交差していた様子が読み取れます。

石器・黒曜石

多数の石鏃やナイフのほか、ヒト形の石偶(異形石器)という珍しい遺物も含まれています。さらに、黒曜石の球状・棒状の原石が副葬されていた点は、加工前の原材料にも副葬品としての象徴的・経済的価値が認められていたことを示唆しています。

漆塗りの櫛

縄文時代晩期の墓坑から出土した赤い漆塗りの木製櫛の断片は、細かい彫刻が施された精巧な工芸品です。有機質の遺物が残ること自体がきわめて稀であり、当時の工芸技術の高さを伝える貴重な資料です。

展示施設:ところ遺跡の森

重要文化財「常呂川河口遺跡墓坑出土品」は、北見市常呂町にある「ところ遺跡の森」内の中核展示施設「ところ遺跡の館」で公開されています。

ところ遺跡の森は、国指定史跡「常呂遺跡」の一部を整備・公開した史跡公園です。北海道最大規模の先史遺跡群の一角にあり、園内には縄文時代中期(約4,000年前)から擦文時代(約1,000年前)までの竪穴住居跡が138軒分残されています。そのうち9軒は当時の姿に復元され、「古代の村」として屋外展示されています。復元住居の中に実際に入ることもでき、古代の暮らしを体感することができます。

園内には「ところ遺跡の館」のほかにも、「ところ埋蔵文化財センター」(入館無料)と「東京大学資料陳列館」(入館無料)の2つの展示施設があり、60年以上にわたる学術調査の成果を無料で見学することができます。映像シアターでは、常呂の遺跡を紹介する約8分間の映像も上映されています。

周辺情報

常呂町周辺には、遺跡見学と合わせて楽しめる魅力的なスポットが点在しています。

ところ遺跡の森のすぐ近くには、北海道遺産に選定された「ワッカ原生花園」があります。オホーツク海とサロマ湖を隔てる砂州に約20kmにわたって広がる日本最大級の海岸草原で、300種以上の野花が自生しています。5月下旬から10月にかけてが見ごろで、ワッカネイチャーセンターではレンタサイクルを利用して花園を散策することができます。

サロマ湖は、日本で3番目に大きな湖であり、北海道では最大です。美しい夕日の名所として知られ、ホタテやカキの養殖でも有名です。湖畔にはサロマ湖鶴雅リゾートがあり、ところ遺跡の森の目の前に位置しています。

車で約45分の網走市には、オホーツク文化を専門的に紹介するモヨロ貝塚館や、北方民族博物館があります。冬季にはオホーツク海の流氷を観光砕氷船から間近に見ることもでき、四季を通じて魅力ある地域です。

なお、常呂町はカーリングの発祥の地としても知られ、オリンピック選手を輩出している町でもあります。北見市全体では、やきにく店の数が人口あたり日本一とされ、食の楽しみも豊富です。

Q&A

Q「常呂川河口遺跡墓坑出土品」とは何ですか?
A約2,900年前から1,600年前(縄文時代晩期~続縄文時代)の墓から出土した1,805点の副葬品です。琥珀玉の首飾り、ヒスイの勾玉、装飾土器、石鏃、黒曜石などが含まれ、令和5年(2023年)6月に国の重要文化財に指定されました。
Q外国語での案内はありますか?
Aはい。来館者のスマートフォンでアクセスできるセルフガイド(英語・簡体字中国語・繁体字中国語対応)が用意されています。団体でのご利用の場合は、事前予約により学芸員による解説を受けることも可能です。
Qアクセス方法を教えてください。
A北見市中心部から車で約1時間、網走市から約45分、女満別空港から約1時間です。道道サロマ湖公園線(442号線)沿いにあります。公共交通機関を利用する場合は、北見市営バスで栄浦バス停下車、徒歩約2分です。ただし、バスの本数は限られるため、レンタカーのご利用をおすすめします。
Q見学にはどのくらい時間がかかりますか?
Aところ遺跡の館のみであれば30分~1時間程度、園内の復元住居や他の展示施設も含めて見学する場合は2~3時間が目安です。近隣のワッカ原生花園まで足を延ばす場合は、半日以上の時間をとることをおすすめします。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A博物館は通年で開館しています(月曜・祝日翌日・年末年始を除く)。屋外の復元住居やワッカ原生花園と合わせて楽しむなら、6月~9月がベストシーズンです。ただし、夏場は蚊が多く発生することがあるため、虫よけスプレーや長袖の着用をおすすめします。冬のオホーツクの雪景色も格別の趣があります。

基本情報

名称 北海道常呂川河口遺跡墓坑出土品
指定区分 国指定重要文化財(考古資料)
指定年月日 令和5年(2023年)6月27日
点数 1,805点
時代 縄文時代晩期~続縄文時代中頃(約2,900~1,600年前)
所有者 北見市
展示場所 ところ遺跡の館(ところ遺跡の森内)
所在地 〒093-0216 北海道北見市常呂町字栄浦371
電話番号 0152-54-3393
開館時間 9:00~17:00
休館日 月曜日・祝日の翌日(土・日・祝日にあたる場合は開館)、年末年始(12月29日~1月5日)
観覧料 一般280円、高校生・大学生160円、中学生以下無料、70歳以上無料(令和7年9月30日まで。最新情報は公式サイトでご確認ください)
アクセス 北見市中心部から車で約1時間/網走から約45分/女満別空港から約1時間。北見市営バス栄浦バス停下車徒歩約2分。
公式サイト https://www.city.kitami.lg.jp/detail.php?content=8321

参考文献

国指定重要文化財「常呂川河口遺跡墓坑出土品」 | 北見市
https://www.city.kitami.lg.jp/administration/education/detail.php?content=11438
常呂の遺跡:常呂川河口遺跡 | 北見市
https://www.city.kitami.lg.jp/administration/town/detail.php?content=4898
北海道常呂川河口遺跡墓坑出土品 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/526617
続縄文時代の墓の副葬品(常呂川河口遺跡470号土坑)– 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/235878
常呂川下流域の考古資料コレクション | 東京大学常呂実習施設
https://www.l.u-tokyo.ac.jp/t_collection/jp/explanation1.html
ところ遺跡の館:ご利用案内 | 北見市
https://www.city.kitami.lg.jp/administration/education/detail.php?content=6506

最終更新日: 2026.03.03