1700万年前の化石の森へ:姉帯小鳥谷根反の珪化木地帯

岩手県北部、二戸郡一戸町の山間部に、日本でも類を見ない地質学的宝庫が眠っています。「姉帯小鳥谷根反の珪化木地帯(あねたいこずやねそりのけいかぼくちたい)」は、約1700万年前の新生代中新世に繁茂していた巨大な森林が、火山活動によって埋没し、長い年月をかけて石化した珪化木が広範囲に分布する、国内最大規模の珪化木包含地帯です。

1941年(昭和16年)に国の天然記念物に指定されたこの地域では、博物館のガラスケースの中ではなく、馬淵川とその支流の河川敷という自然のままの環境で、太古の森の姿を今に伝える石の木々と出会うことができます。アメリカ・カリフォルニアの現生するレッドウッド(セコイア)の森を彷彿とさせる巨大な針葉樹たちが、悠久の時を超えて私たちを迎えてくれます。

珪化木とは

珪化木(けいかぼく)とは、地中に埋没した樹木の幹や根などに、珪酸分を多く含む地下水が長期間にわたって浸透し、木の組織が二酸化ケイ素(シリカ)に置き換わることで石化した、一種の化石です。完全に珪化が進むと、年輪や細胞構造など、植物の組織がそのまま石の中に保存されます。

一戸町一帯の珪化木は、約1700万年前に発生した大規模な火山活動に伴う火山灰や火山泥流によって森林が埋没したことで形成されました。当時この地域は海に近い温暖な気候で、レッドウッド(セコイア)をはじめ、ブナ、ナラ、ニレ、クルミなどの樹木が生い茂る豊かな森林が広がっていたと考えられています。

天然記念物に指定された理由

1940年(昭和15年)、東京大学理学部植物学教室の亘理俊次博士が一戸町を訪れ、この地域の珪化木について本格的な学術調査を実施しました。この調査は日本における珪化木研究の本格的な始まりとして知られ、亘理博士は9種類の樹種を同定し、そのうち7種を新種として記載するという画期的な成果を挙げました。

この研究成果を受けて、調査からわずか半年後の1941年(昭和16年)2月21日、「姉帯小鳥谷根反の珪化木地帯」として国の天然記念物に指定されました。指定範囲は、馬淵川本流と平糠川の合流点から馬淵川上流5,000メートル、平糠川上流3,000メートル、そして根反川と馬淵川の合流点から根反川上流5,500メートル以内の河川敷と定められています。

この地帯が特に価値を認められている理由は、多くの珪化木が直立した状態で根株とともに残っている点にあります。これは「原地堆積性」と呼ばれ、珪化木が水流によって別の場所から運ばれてきたものではなく、元々その場所に生育していた樹木がそのまま石化したことを示しています。まさに「化石の森」「化石林」と呼ぶにふさわしい、太古の森林の姿がそのまま保存されているのです。

見どころ・魅力

根反の大珪化木(特別天然記念物)

この地域の最大の見どころは、日本最大の直立珪化木として知られる「根反の大珪化木(ねそりのだいけいかぼく)」です。高さ6.4メートル、直径2メートル、目通り幹周囲約7メートルという圧倒的なスケールを誇り、大人4人が手を広げてようやく囲めるほどの巨木です。

1936年(昭和11年)に天然記念物に指定され、1952年(昭和27年)には特別天然記念物に格上げされました。日本で天然記念物に指定されている珪化木6件のうち、特別天然記念物はこの根反の大珪化木のみです。根反川左岸の崖面に半身を露出させて直立するその姿は、1700万年前の巨大森林の威容を今に伝え、訪れる者を圧倒します。

河川敷の珪化木群

指定地域の河川敷では、流水による浸食で地層から露出したさまざまな珪化木を観察することができます。横たわった状態のもの、直立した状態のもの、根株が残るものなど、形態も大きさもさまざまです。河川の水位が低い時期には、より多くの珪化木を目にすることができるでしょう。ただし、洪水などにより流失することもあれば、新たに発見されることもあり、川は常に変化し続けています。

地域に根付いた珪化木文化

地元では古くから珪化木を大切にしてきました。旧根反小学校の校門には珪化木の門柱が設置され、根反地区の二社大明神にも珪化木の門柱が残されています。地域の人々が珪化木を敬い、日常の中に取り入れてきた歴史を感じることができます。

周辺情報

御所野遺跡(世界遺産)

珪化木地帯からほど近い場所に、2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産として世界文化遺産に登録された御所野遺跡があります。約5,000年前の縄文時代中期後半の大集落跡で、全国で初めて竪穴建物が土屋根であったことを証明した貴重な遺跡です。御所野縄文博物館では出土品の展示や縄文体験プログラムを楽しむことができます。

興味深いことに、御所野遺跡周辺の縄文遺跡からは、珪化木を素材とした矢尻が多数出土しています。蒔前遺跡からは1,597点の石鏃のうち3分の1以上が珪化木製であったことが判明しており、1700万年前の地質遺産と5,000年前の人類の営みが、この一戸の地で繋がっていることを示しています。

一戸町のその他の文化財

一戸町には、珪化木地帯以外にも多くの貴重な文化財があります。浅海時代の堆積構造を示す「浪打峠の交叉層」(天然記念物)、日本北限のイヌブナ自然林である「平糠のイヌブナ自然林」(天然記念物)、樹齢数百年を誇る「藤島のフジ」(天然記念物)、岩手県下最大規模の茅葺き古民家「旧朴舘家住宅」(重要文化財)など、見どころが豊富です。

訪問のベストシーズン

珪化木地帯は通年で訪問可能ですが、季節によって異なる魅力があります。河川敷の探索には、晩春から秋(5月〜10月)が最も快適です。夏から初秋にかけては水位が低くなる傾向があり、より多くの珪化木を観察できる可能性があります。冬は雪景色の中で荘厳な雰囲気を味わえますが、積雪によりアクセスが制限される場合があります。

御所野遺跡の桜(春)、馬淵川渓谷の紅葉(秋)など、周辺の季節の見どころとあわせて訪問プランを立てることをおすすめします。

訪問時の注意事項

天然記念物指定区域内(馬淵川、平糠川、根反川の河川敷)での珪化木の採取は法律で禁止されています。かけがえのない地質遺産を次世代に引き継ぐため、観察・撮影のみでお楽しみください。

河川敷は濡れると滑りやすくなります。防水性のある滑りにくい靴を着用し、崖面や流れの速い水辺には近づきすぎないようご注意ください。増水時や大雨の後は立ち入りをお控えください。

Q&A

Q姉帯小鳥谷根反の珪化木地帯へのアクセス方法は?
A東京から東北新幹線で二戸駅まで約2時間30分〜3時間。二戸駅からIGRいわて銀河鉄道で一戸駅まで約5分。一戸駅から根反の大珪化木までは車で約15分です。珪化木地帯を広く巡るにはレンタカーのご利用をおすすめします。また、一戸ICから国道4号線を南下し、約5分で御所野縄文公園にアクセスできます。
Q珪化木の見学に入場料はかかりますか?
A珪化木は公共の河川敷に位置しているため、見学は無料です。近隣の御所野縄文博物館は大人300円、大学生200円、高校生以下無料となっています。
Qガイド付きツアーはありますか?
A岩手県立博物館が教育普及事業の一環として、珪化木地帯を歩く観察会を不定期で開催しています。詳細は一戸町教育委員会 世界遺産課 文化財係(電話:0195-32-2652)までお問い合わせください。
Q御所野遺跡と一緒に見学できますか?
Aはい、御所野遺跡は珪化木地帯から約2〜3キロメートルの距離にあり、1日で両方を見学することができます。1700万年前の地質遺産と5,000年前の人類の遺産を同時に体験できる、時空を超えた旅をお楽しみいただけます。
Q珪化木はどのような状態で見られますか?
A河川の水流によって地層から露出した珪化木を河川敷で観察できます。横たわった状態のものや、直立して根株が残るものなど、さまざまな形態の珪化木があります。水位や季節によって見える範囲が変わるため、訪問ごとに異なる発見があるかもしれません。

基本情報

名称 姉帯小鳥谷根反の珪化木地帯(あねたいこずやねそりのけいかぼくちたい)
指定区分 国指定天然記念物(昭和16年2月21日指定、平成27年3月10日追加指定)
所在地 岩手県二戸郡一戸町 姉帯・小鳥谷・根反
地質年代 約1700万年前(新生代第三紀中新世)
指定範囲 馬淵川本流(5,000m)、平糠川(3,000m)、根反川(5,500m)の河川敷
主な樹種 セコイアメスギ(レッドウッド)、ブナ、ナラ、ニレ、カエデなど
関連文化財 根反の大珪化木(国指定特別天然記念物、昭和27年指定)
最寄りの新幹線駅 JR二戸駅(東北新幹線)
最寄りの在来線駅 一戸駅(IGRいわて銀河鉄道)
車でのアクセス 八戸自動車道 一戸ICから約15分
お問い合わせ 一戸町教育委員会 世界遺産課 文化財係
電話:0195-32-2652
メール:isan@town.ichinohe.iwate.jp
座標 北緯40度11分25.66秒 東経141度19分35.4秒

参考文献

姉帯小鳥谷根反の珪化木地帯 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/姉帯小鳥谷根反の珪化木地帯
姉帯・小鳥谷・根反の珪化木地帯|一戸町
https://www.town.ichinohe.iwate.jp/soshikikarasagasu/sekaiisanka/bunkazaikakari/1/01/958.html
国指定特別天然記念物「根反の大珪化木」- 一戸町観光協会
https://www.ichinohekankou.jp/sightseeing/history-2/keikaboku-2/
根反の大珪化木 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/根反の大珪化木
御所野遺跡 – 世界遺産 北海道・北東北の縄文遺跡群
https://jomon-japan.jp/learn/jomon-sites/goshono
町内に所在する指定文化財一覧|一戸町
https://www.town.ichinohe.iwate.jp/soshikikarasagasu/sekaiisanka/bunkazaikakari/1/935.html

最終更新日: 2026.01.26

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