9冊の写本 ― 1996年に国宝

今昔物語集は、京都府京都市左京区吉田本町にある写本で、1996年(平成8年)6月27日に国宝に指定された。員数は9冊、所有は国立大学法人京都大学である。

所有者が国立大学法人である物件は、これが初めてである。ここまでの所有者は寺社、宗教法人、個人、公益財団法人、国(文化庁)、独立行政法人、株式会社、大学共同利用機関法人だった。

1996年という指定年は、ここまで扱った物件のなかでも新しい部類にあたる。記録も詳しい。

書名が、この一本によってのみ確定できる

文化庁の解説に、次の一文がある。

各冊首に「今昔物語集巻第『幾』」と首題を掲げ、一字下げに部立を記し、ついで各標目を一行に書すが、この「今昔物語集」の書名は本書によってのみ確定できるものである。

作品そのものの題名が、この写本一つに懸かっている。ほかの写本では書名が確定できないという意味である。

ここまで、名称が銘文の転記であったり(太刀)、欠損を書き込んでいたり(五部心観)する例を見てきた。いずれも物件の名称の話だった。

本件は違う。物件の名称ではなく、作品そのものの名が、この一本に依存している。

奥書がないのに時代が推定されている

書写の時期についても記述がある。

書写奥書はないが、その大判の体裁や料紙、書風等よりみて、鎌倉時代中期の書写本と認められる、とある。

奥書がない。それでも体裁、料紙、書風という三つの手がかりから、時代が推定されている。

金剛場陀羅尼経では、ト書に写された奥書の「歳次丙戌年」から686年が確定していた。奥書があれば年が定まり、なければ物から推定するほかない。

成立の時期も記される。『今昔物語集』はわが国最大の説話集で、その成立は十二世紀前半と考えられている、とある。

成立が12世紀前半、書写が鎌倉時代中期。文化庁の時代欄は「平安」とする。作品が成立した時代と、この写本が書かれた時代が違っている。

寸法が二つ、紙数が巻ごとに記される

寸法の欄も具体的である。

現寸法として縦32.4センチメートル、横28.1センチメートル。本紙寸法として、巻第二の縦29.6センチメートル、横24.2センチメートルが記される。

二つの寸法がある。近年の修理で新補の表紙を付しているため、現在の大きさと本文用紙の大きさが違う。

紙数も巻ごとに数えられる。巻第二81丁、巻第五61丁、巻第七58丁、巻第九61丁、巻第十55丁、巻第十二63丁、巻第十七61丁、巻第二十七50丁、巻第二十九62丁である。

存する巻は九つで、番号はとびとびである。二、五、七、九、十、十二、十七、二十七、二十九。連続していない。

本文の形式も記される。半葉11行、行およそ28字前後、「今昔」で始まり「トナム語リ伝ヘタルトヤ」の形で統一された片仮名交り文とされる。

他の文献との一致から伝来が推定される

伝来についても、方法が示されている。

本朝部諸本の一部には、後筆で「総六丸」の披見識語があり、うち巻第廿七には「一見畢、南井房内総六丸、此比春日大社開門尤以目出タシ」云々とみえている、とある。

その識語が『大乗院日記目録』文安三年(1446年)七月条の記事に一致するという。さらに『経覚私要鈔』宝徳三年(1451年)七月四日条にみる今昔の貸借記事と相まって、本書の南都での伝来を考えるうえに注目される、とされる。

写本に書き込まれた文言と、別の記録の日付入りの記事が一致する。それによって、この本がどこにあったかが推定されている。

玳玻天目茶碗の伝来は「と言われる」で結ばれていた。本件は照合できる文献が示されている。

所有は国立大学法人京都大学で、大学の図書館が所蔵する。常設で公開される性格のものではなく、閲覧や調査は大学の定める手続きによる。

Q&A

Q今昔物語集はいつ国宝に指定されましたか。
A1996年(平成8年)6月27日です。員数は9冊、所在は京都府京都市左京区吉田本町、所有は国立大学法人京都大学です。
Qなぜこの写本が重要なのですか。
A文化庁は「この『今昔物語集』の書名は本書によってのみ確定できるものである」と記します。作品そのものの題名が、この写本一つに懸かっています。現存諸写本の祖本ともされます。
Qいつ書き写されたものですか。
A文化庁は「書写奥書はないが、その大判の体裁や料紙、書風等よりみて、鎌倉時代中期の書写本と認められる」と記します。奥書がないため、体裁・料紙・書風から推定されています。
Q何巻が残っているのですか。
A巻第二・五・七・九・十・十二・十七・二十七・二十九の九巻分です。番号はとびとびで連続していません。紙数も巻ごとに、巻第二81丁から巻第二十七50丁まで記録されています。
Q伝来はどう分かるのですか。
A後筆の「総六丸」の披見識語が『大乗院日記目録』文安三年(1446年)七月条の記事に一致し、『経覚私要鈔』宝徳三年(1451年)の貸借記事と相まって、南都での伝来を考えるうえに注目されるとされます。

基本情報

名称今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)
所在地京都府京都市左京区吉田本町
指定区分国宝(その他)/重要文化財を経ずに国宝へ指定
指定年1996年(平成8年)6月27日 国宝
員数9冊
寸法現寸法は縦32.4センチメートル、横28.1センチメートル。本紙寸法は巻第二で縦29.6センチメートル、横24.2センチメートル。大判の袋綴冊子本で、近年の修理による新補の表紙を付す。時代は平安、書写は鎌倉時代中期と認められる
所有者国立大学法人京都大学
公開状況大学の図書館が所蔵し、常設の公開ではない。閲覧は大学の定める手続きによる

参考文献

文化遺産オンライン 今昔物語集
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/205950
京都大学貴重資料デジタルアーカイブ 今昔物語集
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00000125
京都大学貴重資料デジタルアーカイブ 国宝一覧
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/classification/pickup-nt
文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/

最終更新日: 2026.09.05