【国宝】瑞巌寺本堂(元方丈)— 伊達政宗が松島に築いた桃山建築の至宝
日本三景のひとつに数えられる宮城県・松島。穏やかな湾に260余りの島々が浮かぶ絶景の地に、東北を代表する名刹・瑞巌寺が佇んでいます。その本堂(元方丈)は、仙台藩初代藩主・伊達政宗公が心血を注いで再興した桃山建築の最高傑作であり、国宝に指定されています。金碧の障壁画、精緻な欄間彫刻、壮大な建築空間——。本堂だけでなく、同じく国宝の庫裏・廊下、重要文化財の御成門・中門・五大堂まで含めた伽藍全体が、400年以上の時を超えて今なお訪れる人々を魅了し続けています。
千年にわたる歴史の歩み
瑞巌寺の正式名称は「松島青龍山瑞巌円福禅寺」。現在は臨済宗妙心寺派に属する禅宗寺院です。その歴史は天長5年(828年)、慈覚大師円仁が天台宗延福寺を開創したことに始まります。円仁は山寺・立石寺や平泉・中尊寺の開祖としても知られる高僧で、松島の地もまた、平安の昔から「浄土の地」と仰がれてきました。
鎌倉時代中頃には、執権・北条時頼のもとで法身性西禅師が開山となり、臨済宗建長寺派への改宗が行われ、寺名も円福寺と改められます。しかし、戦国時代の動乱を経て寺は次第に衰退していきました。
転機が訪れたのは関ヶ原の戦い後。仙台に治府を定めた伊達政宗公は、仙台城の築城と併せ、領民の精神的な拠り所として寺社仏閣の造営に力を注ぎました。とりわけ円福寺の復興には格別の意気込みで臨み、自ら縄張り(設計・配置の計画)を行い、紀州熊野から良材を取り寄せ、畿内から130名もの名工を招き寄せたと伝えられています。慶長9年(1604年)に着工し、5年の歳月をかけて慶長14年(1609年)に完成。以後、江戸時代を通じて伊達家の菩提寺として領内随一の規模と格式を誇りました。
国宝・本堂(元方丈)の建築と美術
瑞巌寺本堂は、慶長14年(1609年)3月に上棟した大規模な方丈建築です。桁行十三間、梁間八間、一重、入母屋造、本瓦葺で、御成玄関が附属しています。昭和28年(1953年)3月31日に国宝に指定されました。
堂内は複数の部屋に分かれ、それぞれ異なる障壁画と天井意匠で飾られています。もっとも華やかなのが本尊を安置する「室中」(孔雀の間)です。本尊の聖観世音菩薩像——伊達政宗公の念持仏と伝わる——を中心に、三面の襖には金地の上に爛漫と咲き誇る桜図が描かれ、黄金の世界が浄土を表現しています。天井は折上小組格天井という格式高い造りです。
「文王の間」は伊達家一門の控えの間として藩主との対面の場でした。襖絵は桃山絵画の大家・長谷川等伯の高弟、長谷川等胤による「文王呂尚図」。理想の治世を象徴する周王朝の建国物語が描かれています。
本堂を彩る欄間彫刻は、「天下無双の匠人」と称された鶴刑部左衛門国次の手によるものです。紀州根来から招かれた国次は、室中・文王の間・鷹の間・松の間の廊下上に鳳凰・孔雀・鶴・吐綬鶏・金鶏・山鵲・菊・牡丹など、瑞祥的な意匠を彫り上げました。その精緻さと躍動感は、桃山美術の粋を今に伝えています。
国宝に指定された理由
瑞巌寺本堂が国宝に指定された背景には、複数の重要な価値が認められています。第一に、大規模な方丈建築として、細部の絵様・欄間・扉の彫刻など桃山建築の特色を極めてよく表していること。第二に、国宝・大崎八幡神社とともに、東北における伊達文化の遺産を示す建造物として、文化史的に極めて意義が深いこと。禅宗寺院建築の粋と、桃山時代の華麗な装飾文化が見事に融合した本堂は、日本建築史上においても稀有な存在です。
平成30年(2018年)には10年に及んだ「平成の大修理」が完了し、政宗公が心を込めて造り上げた創建当時の姿がよみがえりました。
国宝・庫裏及び廊下
本堂と同時期の慶長14年(1609年)頃に完成した庫裏と廊下は、昭和34年(1959年)6月27日に国宝に指定されました。
庫裏は正面13.8メートル、奥行23.6メートルの切妻造・本瓦葺で、大屋根の上に入母屋造の煙出しを載せています。禅宗寺院の台所として使われる庫裏は、通常は実用本位の簡素な造りが多いのですが、瑞巌寺のものは正面の妻飾りに桃山風の唐草装飾が施され、内部の梁組も豪快かつ優美。「日本三大庫裏」の一つに数えられることもあります。庫裏が国宝に指定されているのは、京都・妙法院と瑞巌寺の全国わずか2例のみです。
庫裏から本堂へと続く廊下は、化粧垂木による構成美が特に優れています。廊下が国宝に指定されているのは全国でも瑞巌寺ただ1件。建築としての美しさはもちろん、庫裏と本堂を有機的につなぐ空間構成の完成度が高く評価されています。
重要文化財・御成門と中門
瑞巌寺の境内には、江戸時代の厳格な身分秩序を体現する二つの門があります。いずれも昭和31年(1956年)に国の重要文化財に指定されました。
御成門は、本柱の後方に控柱を立てた薬医門の形式で、入母屋造・本瓦葺。軒の出が深く重厚な門構えは、藩主や皇族など最上位の来客のみが通ることを許された格式の高さを物語っています。
中門は本堂の正面に位置する四脚門で、切妻造・杮(こけら)葺。瑞巌寺の建築物は本瓦葺が主流ですが、中門のみ杮葺とされている点が特徴的です。壁を持たず骨組みが露出した簡素ながら力強い意匠は、絵様肘木や虹梁木鼻の奇抜で独創的な造形と相まって、枯淡な美しさを醸し出しています。藩主の家臣たちはこの中門から入場しました。
両門に附属する太鼓塀は、中空に石を詰めた構造で、叩くと太鼓のような低い音が響く珍しい塀です。白壁の美しさとともに、境内の風格を高めています。
重要文化財・五大堂 — 松島のシンボル
瑞巌寺の南東側、松島湾の海岸近くの小島に建つ五大堂は、松島を象徴する景観として広く親しまれている仏堂です。国の重要文化財に指定されています。
その歴史は、大同2年(807年)に坂上田村麻呂が毘沙門堂を建立したことに始まると伝えられ、その後、慈覚大師円仁が五大明王像を安置したことから「五大堂」の名がつきました。現在の建物は慶長9年(1604年)に伊達政宗公が瑞巌寺再興に先立って再建したもので、東北地方現存最古の桃山建築とされています。
宝形造・本瓦葺の堂で、軒まわりの蟇股(かえるまた)には方位に従って十二支の彫刻が施されています。堂内に安置された五大明王像は秘仏で、33年に一度だけ御開帳されます。次回の開帳は2039年の予定です。
五大堂へ渡る「すかし橋」は、橋桁の隙間から海が見える独特の構造。参拝の前に足元を見て心を引き締めるために造られたと言われています。
季節の魅力と見どころ
瑞巌寺の魅力は建造物だけにとどまりません。総門から本堂へ至る参道は、高くそびえる杉並木に包まれ、足を踏み入れた瞬間から静謐な世界が広がります。参道沿いの崖面には、かつて修行僧たちが瞑想に用いた洞窟群(洞窟遺跡群)が残り、内部には石仏や供養塔が安置されています。
境内には伊達政宗公お手植えと伝わる紅白の「臥龍梅」があり、3月下旬から4月上旬にかけて八重咲きの美しい花を咲かせます。春の桜、初夏の杉の木に咲く石斛(せっこく)、秋の紅葉、冬の雪景色と、四季折々の風情が訪れる人の心を癒してくれます。
宝物館「青龍殿」では、本堂障壁画の原画(期間限定公開)、伊達政宗公や愛姫・五郎八姫の木造、雲版などの重要文化財を間近に鑑賞できます。
秋には、光のアートと融合した夜間特別参拝イベントも開催され、ライトアップされた国宝建築と庭園が幻想的な空間を創り出します。
周辺情報
瑞巌寺は日本三景・松島の中心に位置しており、周辺には見どころが豊富です。松島湾を巡る遊覧船では、松尾芭蕉が『おくのほそ道』で讃えた島々の絶景を海上から堪能できます。
瑞巌寺に隣接する円通院は、伊達政宗の孫・伊達光宗の霊廟で、苔庭や枯山水の庭園、厨子に隠されたキリシタンの紋様など、独自の見どころがあります。海岸沿いの観瀾亭は藩主の御仮屋として使われた建物で、抹茶をいただきながら松島湾の眺望を楽しめます。
塩竈方面へ足を延ばせば、鹽竈神社や塩釜水産物仲卸市場(マグロの水揚げ日本有数)で食文化も満喫できます。仙台からJR仙石線で約40分とアクセスも良好で、松島・塩竈を組み合わせた半日〜一日の観光コースが人気です。
Q&A
- 本堂内部での写真撮影はできますか?
- 本堂および庫裏の内部は撮影禁止です。国宝建造物と文化財の保護のためご理解ください。境内の屋外、庭園、五大堂などでは撮影が可能です。なお、三脚・自撮り棒・ドローンの使用は境内全域で禁止されています。
- 外国語の案内はありますか?
- 英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語・タイ語のパンフレットが用意されています。観光庁の多言語化整備事業による英語の詳細解説文も整備されており、海外からのお客様にもお楽しみいただけます。
- 五大堂の次の御開帳はいつですか?
- 五大堂に安置されている五大明王像は33年に一度の御開帳で、次回は2039年の予定です。五大堂自体は年中無休・拝観無料で、外部の十二支彫刻はいつでもご覧いただけます。
- 仙台からのアクセス方法を教えてください。
- JR仙台駅からJR仙石線で松島海岸駅まで約41分。下車後、徒歩約5〜10分です。JR東北本線で松島駅まで約24分、そこから徒歩約20分でもアクセスできます。車の場合は三陸自動車道・松島海岸インターチェンジから約10分です。
- 見学にはどのくらい時間がかかりますか?
- 本堂・庫裏・宝物館を含めた瑞巌寺の拝観で60〜90分程度が目安です。五大堂や松島湾の遊覧船なども合わせて楽しむ場合は、半日以上のお時間を見ておくとゆっくり満喫できます。
基本情報
| 正式名称 | 松島青龍山瑞巌円福禅寺(まつしませいりゅうざんずいがんえんぷくぜんじ) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国宝:本堂(元方丈)(1953年指定)、庫裏及び廊下(1959年指定)/重要文化財:御成門及び中門(1956年指定)、五大堂(1952年指定) |
| 宗派 | 臨済宗妙心寺派 |
| 開創 | 天長5年(828年)慈覚大師円仁により開創。伊達政宗公により慶長14年(1609年)に再建 |
| 本堂の構造 | 桁行十三間、梁間八間、一重、入母屋造、本瓦葺、玄関附属/棟札2枚(附指定) |
| 所在地 | 〒981-0213 宮城県宮城郡松島町松島字町内91 |
| 拝観料 | 大人 700円 / 小人(中学生以下)400円 / 五大堂は無料 |
| 拝観時間 | 4月〜9月 8:30〜17:00 / 3月・10月 8:30〜16:30 / 2月・11月 8:30〜16:00 / 1月・12月 8:30〜15:30(最終受付は閉門30分前) |
| アクセス | JR仙石線 松島海岸駅より徒歩約5〜10分 / JR東北本線 松島駅より徒歩約20分 |
| 公式サイト | https://www.zuiganji.or.jp/ |
参考文献
- 瑞巖寺本堂(元方丈) — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/173372
- 指定文化財〈国宝〉瑞巴寺本堂 — 宮城県公式ウェブサイト
- https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bunkazai/04zuiganji.html
- 指定文化財〈国宝〉瑞巌寺庫裏及び廊下 — 宮城県公式ウェブサイト
- https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bunkazai/05zuiganji.html
- 指定文化財〈重要文化財〉瑞巌寺御成門及び中門 — 宮城県公式ウェブサイト
- https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bunkazai/0607zuiganji.html
- 境内のご案内 — 国宝 瑞巌寺 公式サイト
- https://zuiganji.or.jp/guide/keidai_01.php
- 拝観案内 — 国宝 瑞巌寺 公式サイト
- https://www.zuiganji.or.jp/guide/
- 瑞巌寺 — 日本三景松島WEBサイト
- https://www.matsushima-kanko.com/miru/detail.php?id=140
- 五大堂 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/五大堂
- 国宝-建築|瑞巖寺 本堂(元方丈) — WANDER 国宝
- https://wanderkokuho.com/102-00132/
- 国宝-建築|瑞巖寺(瑞巌寺)庫裏・廊下 — WANDER 国宝
- https://wanderkokuho.com/102-00136/
- 瑞巌寺 御成門・中門・太鼓塀 — 地域観光資源の多言語解説文データベース(国土交通省)
- https://www.mlit.go.jp/tagengo-db/H30-00209.html
最終更新日: 2026.02.08