1帖の写本 ― 1991年に重要文化財
撃蒙抄は、奈良県天理市杣之内町1050の天理大学附属天理図書館が保管する南北朝時代の資料で、1991年(平成3年)6月21日に重要文化財に指定された。国宝ではなく、重要文化財としての指定である。所有は学校法人天理大学である。
員数は1帖である。文化庁は、撃蒙抄は延文三年(1358年)七月上旬、二条良基が後光厳天皇の勅諚により起草した連歌論書である、と記す。
帖末には貞治五年十一月廿日書写之訖の奥書があり、1366年の書写であることが分かる。成立から8年後、著者の存命中に写されたものである。
分野の欄に三つが並び、最後に「その他」が付く
どの分野に属するかが、一つに定まっていない。
種別の欄は、歴史資料/書跡・典籍/古文書 その他とされる。
歴史資料、書跡・典籍、古文書の三つが斜線で並び、そのあとにその他が置かれる。
那須国造碑では、栃木県が石碑を古文書に区分していた。あちらは一つの分野に収められている。
延喜式や一字一仏法華経序品は書跡・典籍である。六祖恵能伝も同じである。
本件は三つにまたがり、しかもその他が添えられる。連歌の作り方を説いた書物という性格が、既存の区分に収まりきらないことになる。
もう一本と比べて、こちらだけが完全とされる
同じ書物の別の写本が引き合いに出される。
撃蒙抄は僻連抄とともに二条良基の初期の連歌論書として知られているが、その伝本は少ない、とされる。
続けて、他に故山田孝雄氏蔵本が紹介されているが、同本には錯簡、欠脱があり、この天理大学本が唯一の善本として知られている、とある。
錯簡は順序の乱れ、欠脱は抜け落ちである。もう一本にはそれがあり、本件にはない。
海獣葡萄鏡では、正倉院に同じ型の鏡があり、二面が別々に伝わったとされた。あちらは対等な二面である。
本件は二本を比べたうえで、一方の欠けを述べ、他方を唯一の善本としている。完全であることが価値の理由になっている。
紙を剥がして直した跡と、書き足した跡が見える
後の手が加わったことが、そのまま記される。
本文は半葉七から八行に、まま六・九行を交え、暢達した書風で一筆に書写された上製本である、とされる。
ただし、と続く。現状は近世に本紙を相剥修理した際に、一部文字の薄れた箇所に加えられた補筆の跡がみえている、とある。
相剥は紙を薄く剥がす作業をいう。修理のときに紙を剥がし、薄くなった文字を書き足している。その跡が今も見えている。
小桜韋威鎧では、二度の修理が威毛の裏の墨書に記されていた。あちらは修理したことの記録である。
本件は、直した手そのものが本文の上に残っている。なお暢達には【ちようたつ】とルビが本文に混じっており、金銅錫杖頭に続く2例目になる。
鑑賞
保管は天理大学附属天理図書館、所有は学校法人天理大学である。鉄宝塔では所在が奈良国立博物館、所有が西大寺と分かれていた。本件は大学と図書館の関係になる。
体裁も細かい。綴葉装で、紺紙花兎入花菱文金襴の後補表紙に外題簽を付し、見返には銀泥波形金泥紅葉散蝶蜻蛉模様を描いている、とされる。
料紙は薄黄、薄茶、白茶の各色替り染紙に白紙を交えた楮紙である。色の違う紙が交ぜられている。
引用句の総数は一七〇句で、そのうちの発句六句、付句四一句は菟玖波集にも収められている、とも記される。170句のうち47句が別の集と重なる。
伝来については、享保四年(1729年)八月に堺の開口神社に寄進されたと記される。図書館が保管する資料であり、常設で公開される性格のものではない。訪問前に確認したい。
Q&A
- 撃蒙抄はいつ指定されましたか。
- 1991年(平成3年)6月21日に重要文化財へ指定されました。国宝ではなく重要文化財で、員数は1帖、所有は学校法人天理大学です。
- どのような書物ですか。
- 文化庁は「延文三年(1358年)七月上旬、二条良基が後光厳天皇の勅諚により起草した連歌論書」と記します。分野の欄は歴史資料、書跡・典籍、古文書の三つにまたがります。
- いつ書写されたのですか。
- 帖末に「貞治五年十一月廿日書写之訖」の奥書があり、1366年です。成立から8年後、著者の存命中に写されたものとされます。
- 他に写本はありますか。
- あります。文化庁は「故山田孝雄氏蔵本が紹介されているが、同本には錯簡、欠脱があり、この天理大学本が唯一の善本として知られている」と記します。
- 手を加えられた跡はありますか。
- あります。文化庁は「近世に本紙を相剥修理した際に、一部文字の薄れた箇所に加えられた補筆の跡がみえている」と記します。
基本情報
| 名称 | 撃蒙抄(げきもうしょう)/種別の欄は歴史資料/書跡・典籍/古文書 その他 |
|---|---|
| 所在地 | 天理大学附属天理図書館(奈良県天理市杣之内町1050) |
| 指定区分 | 重要文化財(美術品)/国宝ではない |
| 指定年 | 1991年(平成3年)6月21日 重要文化財 |
| 員数 | 1帖 |
| 寸法 | 綴葉装で、紺紙花兎入花菱文金襴の後補表紙に外題簽を付す。料紙は薄黄・薄茶・白茶の各色替り染紙に白紙を交えた楮紙。本文は半葉7から8行、まま6行・9行を交える。近世の相剥修理の際の補筆の跡がみえる。引用句は170句。時代は南北朝 |
| 所有者 | 学校法人天理大学 |
| 公開状況 | 図書館が保管する資料で、常設の公開ではない |
参考文献
- 文化遺産オンライン 撃蒙抄
- https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/201113
- 天理図書館 名品紹介 撃蒙抄
- https://www.tcl.gr.jp/col/col-3477/
- 天理大学附属天理図書館
- https://www.tcl.gr.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
最終更新日: 2026.09.06