善覚稲荷神社本殿|岡山県真庭市に佇む江川三郎八設計の登録有形文化財

岡山県真庭市、緑豊かな山々に抱かれた木山神社の境内に、ひっそりと佇む善覚稲荷神社本殿。この美しい社殿は、明治から大正にかけて活躍した名建築家・江川三郎八の設計によるもので、2017年に国の登録有形文化財に指定されました。有名観光地とは一線を画す、日本の建築文化の奥深さを体感できる隠れた名所をご紹介いたします。

「江川式建築」を代表する建築家・江川三郎八

善覚稲荷神社本殿は、大正8年(1919年)に江川三郎八(えがわ さぶろうはち、1860-1939年)の設計により建設されました。江川三郎八は福島県会津若松の出身で、会津藩士の家に生まれました。宮大工の修行を経て建築技師となり、福島県で15年間勤務した後、明治35年(1902年)に岡山県の建築技師として着任しました。

江川は「江川式建築」と呼ばれる独自の建築様式を確立し、日本の伝統的な木造技術と西洋の構造技術を見事に融合させた建築を数多く手がけました。真庭市にある旧遷喬尋常小学校校舎(現在は国の重要文化財)をはじめ、岡山県内には江川が設計した建築物が数多く現存しており、その功績は高く評価されています。

登録有形文化財に指定された理由

善覚稲荷神社本殿は、平成29年(2017年)10月27日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。この指定は、江川三郎八の設計思想を体現する複数の建築的特徴が評価されたことによります。

本殿の規模は桁行4.0メートル、梁間3.2メートルで、切妻造銅板葺、平入の形式を採用しています。建物の四周には縁(えん)が廻らされ、参拝者を迎え入れる開放的な空間を創出しています。

特筆すべきは、壁を二重に張り、柱は外側を円柱、内側を角柱とする高度な構造技法です。天井には格天井(ごうてんじょう)が設けられ、荘厳な雰囲気を醸し出しています。

そして、江川建築の最も特徴的な要素である「吹寄垂木(ふきよせだるき)」が軒下に施されています。これは垂木を等間隔ではなく、いくつかのグループにまとめて配置する技法で、境内にある他の江川設計の建物とも共通する意匠要素となっています。この統一感のある設計により、神社全体が一つの調和した空間として完成されています。

見どころ・魅力

善覚稲荷神社は、京都の伏見稲荷大社から稲荷神を勧請したもので、修験者・小山善覚坊によって創設されたと伝えられています。神社名はこの善覚坊に由来しています。稲荷神は商売繁盛、五穀豊穣、開運招福のご利益があるとされ、多くの参拝者が訪れています。

境内全体に広がる江川建築の世界

善覚稲荷神社本殿の魅力を深く味わうためには、木山神社境内にある他の江川三郎八設計の建築物と合わせて見学されることをお勧めします。善覚稲荷神社拝殿は、同じく登録有形文化財に指定されており、吹寄垂木、独特のトラス架構、格天井など江川の特徴がよく表れています。さらに、正面側の基礎石には洋風の意匠が取り入れられるなど、和洋折衷の創意工夫を随所に見ることができます。

木山神社の拝殿と渡廊下も江川の設計で、いずれも登録有形文化財です。渡廊下は美しい弧を描いて拝殿へと導き、その優美な姿は訪れる人々の心を捉えます。

山上から里宮への遷宮

善覚稲荷神社本殿は、大正8年に木山山頂の奥宮で建設されました。その後、昭和37年(1962年)に里宮造営事業の一環として、現在の山麓の地に移築されました。この丁寧な保存活動により、より多くの方々がこの貴重な建築遺産を間近で鑑賞できるようになりました。

看板猫「テンちゃん」のお出迎え

現代の木山神社を訪れる方々を出迎えてくれるのが、看板猫の「テンちゃん」です。授与所のカウンターで参拝者を接客するテンちゃんは、神社の公式SNSでも人気の存在。猫をモチーフにしたオリジナル御朱印帳やお守り、おみくじも授与されており、歴史ある神社に現代的な愛らしさを添えています。

周辺情報

善覚稲荷神社は、創建から1200年以上の歴史を持つ木山神社の境内に位置しています。木山神社の主祭神は須佐之男命(すさのおのみこと)で、古くから牛馬の守護神、五穀豊穣、商売繁盛の神様として信仰を集めてきました。境内には天満宮もあり、学問の神様・菅原道真公が祀られています。

木山寺

神社から約660メートルの距離にある木山寺は、神仏習合の名残を色濃く残す珍しいお寺です。本堂の前に鳥居が立つという、日本でも珍しい光景を見ることができます。中国観音霊場第4番札所にも指定されており、地元の方々からも深く敬われています。

蒜山高原

車でアクセス可能な蒜山高原は、西日本を代表する高原リゾートです。ジャージー牛の放牧風景、新鮮な乳製品のグルメ、サイクリングロードなど、四季を通じて楽しめるアクティビティが豊富です。B級グルメの殿堂「ひるぜん焼そば」もぜひお試しください。

湯原温泉

「全国露天風呂番付」で西の横綱に選ばれた名湯・湯原温泉。湯原ダムの下流、旭川の川底から自然に湧き出す「砂湯」は、24時間無料で入浴できる天然の露天風呂です。美人の湯、長寿の湯、子宝の湯と3つの湯船があり、開放感あふれる入浴体験を楽しめます。

Q&A

Q善覚稲荷神社本殿の建築的な見どころは何ですか?
A江川三郎八の設計による本殿は、二重壁構造、外側が円柱・内側が角柱という独特の柱配置、格天井、そして「吹寄垂木」と呼ばれる特徴的な軒下の意匠が見どころです。これらは「江川式建築」を代表する要素で、和洋の技術を融合させた高度な建築技法を間近で観察できます。
Q参拝に最適な時期はいつですか?
A一年を通じて参拝いただけます。春には参道の桜が美しく、秋には紅葉が境内を彩ります。平日の午前中は特に静かで、ゆっくりと建築を鑑賞できます。ご祈祷は午前9:00〜11:30、午後13:30〜15:30に受付しており、御朱印は15:30まで授与されています。
Q写真撮影は可能ですか?
A建物の外観撮影は一般的に可能です。建物内部の撮影や、商業目的・プロによる撮影については、事前に社務所へお問い合わせいただくことをお勧めします。
Qアクセス方法を教えてください。
A公共交通機関をご利用の場合、JR姫新線美作落合駅からタクシーで約7分です。お車の場合は、中国縦貫自動車道落合ICから約5分でアクセスできます。境内には3か所の駐車場が完備されています。
Q周辺で他の江川三郎八建築を見学できますか?
Aはい、木山神社境内の拝殿、渡廊下、善覚稲荷神社拝殿はいずれも江川三郎八の設計で登録有形文化財です。また、真庭市内にある旧遷喬尋常小学校校舎は国の重要文化財に指定されており、江川建築の代表作として見学できます。

基本情報

名称 善覚稲荷神社本殿(ぜんかくいなりじんじゃほんでん)
所在地 〒719-3142 岡山県真庭市木山1265-1(木山神社境内)
設計者 江川三郎八(えがわ さぶろうはち)
建設年 大正8年(1919年)建設、昭和37年(1962年)現在地に移築
建築様式 切妻造銅板葺、平入
規模 桁行4.0m、梁間3.2m
文化財指定 国登録有形文化財(平成29年10月27日登録)
アクセス JR姫新線美作落合駅からタクシーで約7分/中国縦貫自動車道落合ICから車で約5分
駐車場 あり(境内に3か所)
ご祈祷受付時間 午前9:00〜11:30/午後13:30〜15:30
御朱印 15:30まで授与
お問い合わせ 木山神社 TEL: 0867-52-0701

参考文献

善覚稲荷神社本殿 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/275292
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012032
岡山県 登録有形文化財解説資料(PDF)
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/attachment/261028.pdf
木山神社 公式サイト
https://kiyamajinjya.or.jp/
江川三郎八 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/江川三郎八
善覚稲荷神社拝殿 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/289893
真庭観光WEB - 木山神社
https://www.maniwa.or.jp/web/?c=spot-2&pk=3062
岡山の江川三郎八建築を巡る|たてものきろく
https://t8mono.net/report/3
リアルまねき猫に会える真庭市の「木山神社」 - おか旅
https://www.okayama-kanko.jp/okatabi/1374/page

最終更新日: 2025.12.05

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