一括の考古資料 ― 1983年に国宝
武蔵埼玉稲荷山古墳出土品は、埼玉県立さきたま史跡の博物館(埼玉県行田市大字埼玉4834)にある古墳時代の考古資料で、1981年(昭和56年)6月9日に重要文化財となり、1983年(昭和58年)6月6日に国宝に指定された。所有は国(文化庁)である。
重要文化財から国宝まで2年しか経っていない。ここまで扱った物件では、43年、47年、52年、66年といった間隔が多かった。2年は短い。
分類は考古資料である。ここまで絵画、工芸品、書跡・典籍、歴史資料、その他を見てきたが、考古資料は初めてになる。所有が国(文化庁)である物件は、これで5件目である。
員数が「一括」である
武蔵埼玉稲荷山古墳出土品の員数の欄に、これまで見なかった書き方がある。
一括、とある。数が書かれていない。
ここまで員数は、巻、幅、面、双、口、枚、帖、冊、通、合と、形式に応じた単位で数えられてきた。鉄眼版一切経版木は48,275枚を1枚単位で数え、八坂神社文書は89巻40冊1帖1通と形ごとに分けていた。
本件は数えていない。古墳から出た品々をひとまとまりとして扱っている。
三藐院記の寸法欄には「法量等省略」とあった。書けるが書かない、という書き方である。一括も同じく、数えられるが数え上げないことを示している。
同じ金の象嵌銘でも、証拠としての立場が逆になる
武蔵埼玉稲荷山古墳出土品の中心は、金錯銘鉄剣である。金錯は金象嵌をいう。
直前に扱った刀〈金象嵌銘正宗本阿花押〉も金の象嵌銘をもっていた。ただし両者の性格は逆である。
中務正宗の銘は、茎を大摺上げして原銘が失われたあと、鑑定した人が後から入れたものだった。作者を判断した結果である。
本件は違う。文化庁は、百十五字からなる銘文は、五世紀のわが国の古代社会が大きく変容をとげている時期のきわめて数少ない同時代史料で、現存最古の日本の文章といえる、と記す。
同時代史料である。後から加えられたものではなく、その時代に書かれた。同じ技法による銘でも、後補か同時代かで、史料としての立場が正反対になる。
「現存最古」が記録に書かれている
評価の言葉についても、確かめておきたい。
現存最古の日本の文章といえる、とある。これは文化庁の記録にある評価である。
ここまで「最古」「唯一」といった記述が旧記事にあるとき、記録に見当たらないことが多かった。曜変天目茶碗の「世界に3碗」、冥報記の「日本にのみ現存」、金剛場陀羅尼経の「日本最古の写経」は、いずれも裏づけられず削っている。
本件は違う。喪乱帖の現存数と同じく、記録そのものに書かれている。
また、金錯銘鉄剣は、わが国古墳出土品中の白眉である、ともある。白眉は最も優れたものをいう。内容については、古代氏族の在り方を伝え、『古事記』、『日本書紀』に伝えられた日本古代国家の歴史を一層明らかにするもの、とされる。
一緒に出た品が、剣の銘によって基準になる
武蔵埼玉稲荷山古墳出土品が一括して指定されている理由も、記録から読み取れる。
同時に伴出品も鉄剣銘との関連において、古墳時代遺物の編年研究上貴重な資料であり、その学術的価値はきわめて高いものがある、とある。
伴出品は、一緒に出土した品をいう。それ自体は珍しくないものも含まれる。
ところが剣に年代の分かる銘があるため、同じ場所から出た品々の年代も定まる。編年は、遺物を年代順に並べる研究をいう。
剣が単独で価値をもつのではない。剣と伴出品が組み合わさることで、時代の物差しになる。だから一括で指定されている。
所在は埼玉県立さきたま史跡の博物館で、所有は国(文化庁)である。館が保管する資料であり、展示の予定は変わることがあるため、訪問前に館の案内で確認したい。
Q&A
- 武蔵埼玉稲荷山古墳出土品はいつ指定されましたか。
- 1981年(昭和56年)6月9日に重要文化財、1983年(昭和58年)6月6日に国宝へ指定されました。両者のあいだは2年で、所在は埼玉県立さきたま史跡の博物館、所有は国(文化庁)です。
- 員数の「一括」とは何ですか。
- 数を書かず、古墳から出た品々をひとまとまりとして扱う書き方です。三藐院記の寸法欄にある「法量等省略」と同じく、数えられるが数え上げないことを示しています。
- 鉄剣の銘文には何が書かれていますか。
- 文化庁は「百十五字からなる銘文は、五世紀のわが国の古代社会が大きく変容をとげている時期のきわめて数少ない同時代史料で、現存最古の日本の文章といえる」と記します。内容は古代氏族の在り方を伝えるとされます。
- なぜ一括で指定されているのですか。
- 文化庁は「伴出品も鉄剣銘との関連において、古墳時代遺物の編年研究上貴重な資料」と記します。剣に年代の分かる銘があるため、同じ場所から出た品々の年代も定まり、組み合わさることで時代の物差しになります。
- 「現存最古」は確かなのですか。
- 文化庁の記録に「現存最古の日本の文章といえる」とあります。曜変天目茶碗の「世界に3碗」や冥報記の「日本にのみ現存」は記録で裏づけられませんでしたが、本件は記録そのものに書かれています。
基本情報
| 名称 | 武蔵埼玉稲荷山古墳出土品(むさしさきたまいなりやまこふんしゅつどひん) |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県立さきたま史跡の博物館 埼玉県行田市大字埼玉4834 |
| 指定区分 | 国宝(考古資料) |
| 指定年 | 1981年(昭和56年)6月9日 重要文化財/1983年(昭和58年)6月6日 国宝 |
| 員数 | 一括(数を書かず、ひとまとまりとして扱う) |
| 寸法 | 文化庁は寸法を記していない。中心となる金錯銘鉄剣は115字からなる銘文をもち、5世紀の同時代史料とされる。時代は古墳 |
| 所有者 | 国(文化庁) |
| 公開状況 | 館が保管する資料で、展示の予定は変わることがある |
参考文献
- 文化遺産オンライン 武蔵埼玉稲荷山古墳出土品
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/159795
- 埼玉県立さきたま史跡の博物館
- https://sakitama-muse.spec.ed.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース
- https://kunishitei.bunka.go.jp/
- 文化庁 文化財の紹介 美術工芸品
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/bijutsu_kogei/
最終更新日: 2026.09.05