真福寺貝塚:縄文時代の息吹を今に伝える貴重な史跡
東京都心から約1時間、埼玉県さいたま市岩槻区に位置する真福寺貝塚(しんぷくじかいづか)は、約3,800年前から2,600年前にかけての縄文時代後期から晩期の人々の暮らしを今に伝える、国指定の史跡です。直径約150メートルにも及ぶ環状の貝塚と、隣接する泥炭層遺跡から成るこの遺跡は、国の重要文化財に指定された「みみずく土偶」をはじめ、数多くの貴重な遺物を出土させてきました。現在も発掘調査が続けられており、日本考古学の最前線を垣間見ることができる、歴史ファン必見のスポットです。
真福寺貝塚とは
真福寺貝塚は、大宮台地の岩槻支台、標高10メートルから13メートルに位置する縄文時代後期から晩期にかけての集落遺跡です。台地西側に入り込んだ綾瀬川の小支谷に沿って、直径約150メートルの環状(ドーナツ状)に貝殻が分布しています。
貝の種類はヤマトシジミが最も多く、ハマグリやマガキなども見られます。これらの貝殻の分布から、当時の人々が淡水域から汽水域、さらには海水域まで、広範囲の水域で食料を得ていたことがわかります。また、貝塚に隣接する低湿地の泥炭層からは、通常の遺跡では腐食してしまう植物質の遺物が良好な状態で保存されており、縄文時代の植生や食生活を知る上で極めて重要な資料を提供しています。
なぜ国指定史跡に指定されたのか
真福寺貝塚は昭和50年(1975年)7月19日に国の史跡に指定されました。その後、平成2年(1990年)、平成14年(2002年)、平成28年(2016年)に範囲が追加指定され、現在の指定面積は約24,800平方メートルに及びます。国指定史跡として保護される理由は、以下のような学術的・歴史的価値にあります。
第一に、土器編年研究への貢献です。昭和9年(1934年)、著名な考古学者・山内清男によって「真福寺泥炭層式」という土器型式が提唱され、関東地方における縄文時代晩期前半の標識的な土器として、日本考古学の基礎研究に大きく寄与してきました。
第二に、出土遺物の質と量の豊富さです。大正末年から始まった発掘調査により、竪穴建物跡をはじめ、土偶、土版、土製耳飾、勾玉、石剣など、いわゆる「珍品」と呼ばれる希少な遺物が多数発見されています。特に、ほぼ完全な形で出土した「みみずく土偶」は国の重要文化財に指定されており、縄文人の精神文化や造形感覚を知る上で第一級の資料です。
第三に、泥炭層遺跡の存在です。低湿地の泥炭層中からは、クリ、クルミ、ウリなどの植物種子が出土し、縄文時代の植物利用の実態を明らかにする貴重な資料となっています。また、近年の調査では籃胎漆器(らんたいしっき)と呼ばれる、竹や植物の蔓を編んだ籠に漆を施した製品も発見されており、縄文時代の高度な工芸技術を示す証拠として注目されています。
みみずく土偶:縄文芸術の傑作
真福寺貝塚から出土した遺物の中で最も有名なのが、国の重要文化財に指定されている「みみずく土偶」です。高さ20.5センチメートル、重量639グラムのこの土偶は、その独特な顔の表現がフクロウの一種であるみみずくに似ていることからこの名で呼ばれています。
目、耳、口は円盤状の粘土を貼り付けて表現され、耳には丸い耳飾りを付けています。頭部の突起は結った髪型、あるいは櫛をさしている状態を表していると考えられています。体は板状で自立はできませんが、張り出した両肩と短めの腕、胴体のくびれ、再び張り出す腰という特徴的な体型に、鋸歯文(きょしもん)や縄文で装飾が施されています。
赤色顔料の痕跡があることから、全身が赤く彩色されていたと推定されています。ほぼ完全な形で発見されたこの土偶は、縄文時代の髪型、服飾、装身具などを研究する上で極めて貴重な資料です。
なお、本物のみみずく土偶は現在、東京国立博物館に所蔵されています。岩槻駅前にはレプリカが設置されており、岩槻郷土資料館でもその魅力について学ぶことができます。
見どころと魅力
真福寺貝塚を訪れる際には、いくつかの楽しみ方があります。
まず、遺跡現地では史跡を示す石碑や案内板を見ることができます。貝殻自体は地中に埋まっていますが、環状貝塚が形成された台地の地形や、綾瀬川に向かって下る低湿地の様子を観察することで、縄文人がなぜこの地を選んで暮らしたのかを想像することができます。
さいたま市では毎年発掘調査を実施しており、11月頃には発掘現場の一般公開が行われています。プロの考古学者による解説を聞きながら、発掘作業の様子や出土したばかりの遺物を間近で見ることができる貴重な機会です。令和6年度の調査では、約2,700年前から2,900年前の土器や漆塗土器、籃胎漆器片などが発見されています。
令和7年(2025年)には、国史跡指定50周年を記念した特別展「真福寺貝塚-国指定史跡50年-」がさいたま市立博物館で開催されています(10月11日~11月24日)。令和2年に出土したみみずく土偶や、泥炭層の剥ぎ取り標本の初公開など、通常は見ることのできない貴重な資料が展示される特別な機会です。
周辺情報:人形のまち・岩槻を歩く
真福寺貝塚の訪問は、歴史と文化が息づく岩槻の街歩きと組み合わせるのがおすすめです。岩槻は日本有数の人形の産地として知られ、「人形のまち」の愛称で親しまれています。
さいたま市岩槻人形博物館は、令和2年(2020年)に開館した日本初の公立人形専門博物館です。雛人形をはじめとする伝統的な日本人形の数々を鑑賞できるほか、人形作りの工程を映像や実際の道具で紹介するコーナーも充実しています。岩槻の人形文化を深く知ることができる必見のスポットです。
久伊豆神社(ひさいずじんじゃ)は、約1,400年の歴史を誇る岩槻の総鎮守です。高い木々に覆われた長い参道は、まるで緑のトンネルのよう。境内では昭和13年に朝香宮殿下より奉納された孔雀の子孫たちが大切に飼育されており、運が良ければ美しい羽を広げる姿を見ることができます。「救邪苦(くじゃく)」のお守りも人気です。
岩槻郷土資料館は、昭和5年に建てられた旧岩槻警察署を活用した施設で、建物自体が国の登録有形文化財に指定されています。真福寺貝塚の出土品の展示もあり、遺跡見学の前後に訪れると理解が深まります。入館料はわずか100円です。
時の鐘は、寛文11年(1671年)に設置されて以来、350年以上にわたって岩槻の人々に時を告げてきた鐘楼です。現在も毎日午前6時、正午、午後6時の3回、澄んだ鐘の音が街に響きます。江戸時代の城下町にタイムスリップしたような気分を味わえるスポットです。
おすすめの訪問時期
春(3月~5月)は気候も穏やかで、近くの岩槻城址公園での花見と組み合わせるのもおすすめです。2月下旬から3月にかけての「まちかど雛めぐり」の時期には、岩槻の街全体が雛人形で彩られ、人形のまちならではの華やかな雰囲気を楽しめます。
秋(9月~11月)は気温も過ごしやすく、遺跡周辺の散策に最適です。毎年11月頃に開催される発掘調査現地見学会は、普段は見ることのできない発掘現場を間近で体験できる貴重な機会ですので、日程をチェックしてぜひ参加してみてください。
年間を通じて訪問可能ですが、さいたま市立博物館や岩槻人形博物館の特別展・企画展のスケジュールを事前に確認すると、より充実した体験ができるでしょう。
アクセス
電車でのアクセスは、JR上野東京ラインまたは湘南新宿ラインで大宮駅まで行き、東武アーバンパークライン(東武野田線)に乗り換えて岩槻駅下車となります。東京都心から約1時間の距離です。
岩槻駅から真福寺貝塚へは、バスまたは徒歩でアクセスできます。駅東口から東川口駅方面または浦和美園駅方面行きのバスに乗車し、「元浅間」または「真福寺」バス停で下車、徒歩約5分です。駅から徒歩の場合は約23分かかります。
岩槻人形博物館や岩槻郷土資料館は岩槻駅から徒歩約10分の距離にあり、真福寺貝塚と合わせて1日で周遊するプランが効率的です。岩槻散策マップ「柏崎地区 貝塚を歩く」(全行程約3.6キロメートル)を参考に、鶴姫神社、久伊豆神社、正蔵院なども巡る歴史散歩コースもおすすめです。
Q&A
- 本物のみみずく土偶はどこで見られますか?
- 本物のみみずく土偶は東京都台東区の東京国立博物館に所蔵されています。岩槻では、岩槻駅前にレプリカが設置されているほか、岩槻郷土資料館でみみずく土偶についての解説展示を見ることができます。また、令和7年のさいたま市立博物館の特別展では、近年出土した別のみみずく土偶片が展示されています。
- 真福寺貝塚の見学に入場料はかかりますか?
- 真福寺貝塚の遺跡自体は公開されている場所にあり、無料で見学できます。周辺の関連施設では、岩槻郷土資料館が100円、岩槻人形博物館が300円の入館料がかかります。さいたま市立博物館は常設展が無料です。
- 発掘調査の現地見学会はいつ開催されますか?
- 例年11月頃に開催されています。午前の部と午後の部に分かれており、整理券配布制で見学できます。詳細な日程はさいたま市のホームページや市報で発表されますので、事前にご確認ください。
- 見学にはどのくらいの時間が必要ですか?
- 真福寺貝塚の遺跡現地のみであれば30分~1時間程度で見学可能です。ただし、岩槻人形博物館、久伊豆神社、岩槻郷土資料館などの周辺スポットも合わせて巡る場合は、半日から1日程度の時間を確保されることをおすすめします。
- 駐車場はありますか?
- 真福寺貝塚の遺跡現地には専用駐車場がありません。岩槻駅周辺のコインパーキングを利用するか、公共交通機関でのアクセスをおすすめします。発掘調査現地見学会の際は臨時駐車場が設けられることもありますので、詳細は事前にご確認ください。
基本情報
| 名称 | 真福寺貝塚(しんぷくじかいづか) |
|---|---|
| 指定 | 国指定史跡(昭和50年7月19日指定) |
| 時代 | 縄文時代後期~晩期(約3,800年前~2,600年前) |
| 指定面積 | 約24,800平方メートル |
| 所在地 | 埼玉県さいたま市岩槻区城南3丁目 |
| アクセス | 東武アーバンパークライン岩槻駅より徒歩約23分、または「元浅間」「真福寺」バス停より徒歩約5分 |
| 入場料 | 無料(遺跡現地) |
| お問い合わせ | さいたま市文化財保護課:048-829-1723 |
| 管理団体 | さいたま市(昭和50年10月2日指定) |
参考文献
- 真福寺貝塚 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/138167
- 真福寺貝塚 - さいたま市公式サイト
- https://www.city.saitama.lg.jp/004/005/006/009/index.html
- 国指定史跡真福寺貝塚 調査最前線 2024 - さいたま市
- https://www.city.saitama.lg.jp/004/005/006/009/p114698.html
- みみずく土偶 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/480731
- みみずく土偶 - 縄文ドキドキ会
- https://jomondoki.com/jomon-picturebook/mimizukudogu/
- 真福寺貝塚 - 岩槻観光マップ
- https://tourist-map.mapion.co.jp/b/tm_iwatsuki/info/iwatsuki0042/
- 第49回特別展「真福寺貝塚-国指定史跡50年-」 - さいたま市
- https://www.city.saitama.lg.jp/006/014/008/003/014/006/p123998.html
- 日本の伝統美が息づく人形のまち・岩槻を歩く - VISIT SAITAMA CITY
- https://visitsaitamacity.jp/features/11
最終更新日: 2026.01.02
近隣の国宝・重要文化財
- 旧岩槻警察署附属掲示場
- 埼玉県さいたま市岩槻区本町二丁目2319-1
- 岩槻郷土資料館(旧岩槻警察署本庁舎・附属庁舎及び演武場)
- 埼玉県さいたま市岩槻区本町二丁目2322他
- 東玉大正館(旧中井銀行岩槻支店)
- 埼玉県さいたま市岩槻区本町3-2439-9
- 長谷川家住宅旧店蔵及び主屋
- 埼玉県さいたま市岩槻区本町三丁目2839-1他
- 長谷川家住宅文庫蔵
- 埼玉県さいたま市岩槻区本町三丁目2839-1他
- 加藤家住宅主屋
- 埼玉県さいたま市岩槻区大字古ヶ場字白水68
- 浜島家住宅土蔵
- 埼玉県春日部市粕壁2-6084-3
- 浦和くらしの博物館民家園展示棟(旧浦和市農業協同組合三室支所倉庫)
- 埼玉県さいたま市緑区大字下山口新田1179-1
- 黒浜貝塚
- 蓮田市
- 北武蔵の農具
- さいたま市大宮区高鼻町4-219