大正6年の神父館 ― 登録有形文化財

津和野カトリック教会神父館は、島根県鹿足郡津和野町後田にある木造2階建の建物で、平成22年(2010年)9月10日に国の登録有形文化財に登録された。登録番号は32-0156、員数は1棟。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。所有はカトリック広島司教区。

ここで用語を確かめておきたい。登録有形文化財は指定ではなく登録である。重要文化財の指定が現状変更に許可を要する強い規制を伴うのに対し、登録は届出制で、所有者が活用しながら維持することを前提とする。築50年以上の建造物を幅広く対象とする制度で、この神父館もその枠にある。

建築年について、文化庁の記録には内部の相違がある。西暦欄は1917年とする一方、年代欄は昭和6年と記す。昭和6年は1931年にあたり、西暦欄と一致しない。1917年は大正6年である。隣接する教会堂の再建は昭和4年(1929年)なので、昭和6年がどの建物の年を指すかは記録からは分からない。本稿は西暦欄の1917年を採り、相違があることを併記する立場をとった。

構造 ― 階で異なる外壁の仕上げ

文化庁の構造及び形式等の記載は「木造2階建、スレート葺、建築面積69平方メートル」の一行である。規模は桁行13メートル、梁間5.4メートルと伝えられる。

屋根はスレート葺。大正期の地方建築としては新しい材で、瓦でも板でもない選択がなされている。

外壁の仕上げは階によって異なる。2階は下見板張、1階は腰板張として上部を板壁のペンキ塗装とする。同じ建物で上下の仕上げを変えるのは、雨がかりの多い足元を厚く扱うためでもあり、正面から見たときの見え方を調整するためでもある。

内部は1階に事務室・応接室・食堂、2階に3室の居室を置く。常駐する神父の執務と居住を1棟でまかなう構成で、教会堂とは機能が分かれている。建物は西を向き、和風庭園に面して建つ。

なぜこの町に教会があるのか

津和野は山陰の内陸にある城下町で、カトリック教会が建つ土地としては目立つ。背景には浦上四番崩れがある。

慶応3年(1867年)から明治初年にかけて、長崎の浦上地区の潜伏キリシタンが各地へ配流された。津和野へ送られたのは153名で、近くの乙女峠に幽閉された。改宗を迫る拷問が行われ、37名が死亡している。

明治6年(1873年)にキリシタン禁制の高札が撤去されると、この地は殉教の記憶をとどめる場となった。教会と神父館は、その記憶の上に建てられている。神父館の登録基準が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であることは、建築の質だけでなく、この土地に教会施設が建っていること自体が景観の一部だという判断を含んでいる。

教会堂との関係

神父館は津和野カトリック教会の教会堂に隣接する。教会堂も登録有形文化財で、昭和4年(1929年)にドイツ人のシェーファー神父によって再建された。

教会堂はゴシック様式をとりながら、内部は畳敷きである。椅子ではなく畳に座って礼拝する構成で、様式と使われ方が食い違っている。神父館が和風庭園に面して建つことと合わせて、この一画では西洋の建築が日本の生活の作法に合わせて調整されている。

2棟は建てられた年が12年離れており、様式も用途も違う。ただし登録基準は同じで、いずれも津和野の歴史的景観への寄与が評価されている。神父館だけを見て帰るのではなく、教会堂と並べて見るほうが、この評価の意味が分かりやすい。

見学

神父館は現役の教会施設で、内部は一般公開されていない。外観は教会敷地内から見学でき、敷地の開放時間はおよそ午前8時から午後5時までである。

教会堂は礼拝のための建物なので、見学の際は静粛にしたい。ミサや行事の時間帯は避けるのが無難である。撮影の可否は教会(0856-72-0251)へ確認してほしい。

神父館は殿町通りに面する。JR津和野駅から徒歩約10分。同じ通りに武家屋敷の白壁と掘割が続くため、町並みのなかで洋風建築がどう見えるかを確かめられる。登録基準の「歴史的景観に寄与」が具体的に何を指すかは、通りを歩くのが最も早い。

Q&A

Q津和野カトリック教会神父館はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A文化庁の記録は西暦欄に1917年(大正6年)を記します。登録は平成22年(2010年)9月10日、登録番号32-0156、員数1棟です。なお同じ記録の年代欄は昭和6年(1931年)とあり、西暦欄と一致しません。隣接する教会堂の再建は昭和4年なので、昭和6年が何を指すかは記録からは分かりません。
Q登録有形文化財と重要文化財はどう違いますか。
A登録は指定ではありません。重要文化財の指定が現状変更に許可を要する強い規制を伴うのに対し、登録は届出制で、所有者が活用しながら維持することを前提とします。築50年以上の建造物を幅広く対象とする制度です。
Q津和野カトリック教会神父館の構造は。
A木造2階建、スレート葺、建築面積69平方メートルです。規模は桁行13メートル、梁間5.4メートルと伝えられます。外壁は階によって仕上げが異なり、2階は下見板張、1階は腰板張として上部を板壁のペンキ塗装とします。
Qなぜ津和野にカトリック教会があるのですか。
A浦上四番崩れによって、慶応3年(1867年)から明治初年にかけて長崎の潜伏キリシタンが各地へ配流されました。津和野へ送られた153名は乙女峠に幽閉され、改宗を迫る拷問の末に37名が死亡しています。教会と神父館は、その記憶の上に建てられました。
Q津和野カトリック教会神父館は見学できますか。
A現役の教会施設で内部は一般公開されていません。外観は教会敷地内から見学でき、敷地の開放時間はおよそ午前8時から午後5時までです。撮影の可否は教会(0856-72-0251)へ確認してください。JR津和野駅から徒歩約10分です。

基本情報

名称津和野カトリック教会神父館(つわのかとりっくきょうかいしんぷかん)
所在地島根県鹿足郡津和野町後田字殿町ロ66-7
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号32-0156/登録基準 国土の歴史的景観に寄与しているもの
指定年2010年(平成22年)9月10日 登録
員数1棟
寸法木造2階建、スレート葺、建築面積69平方メートル。桁行13メートル、梁間5.4メートル。2階は下見板張、1階は腰板張に板壁のペンキ塗装。1917年
所有者カトリック広島司教区
公開状況内部は非公開。外観は教会敷地内から見学可。敷地の開放はおよそ午前8時から午後5時。撮影の可否は教会へ確認

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 津和野カトリック教会神父館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008364
文化遺産オンライン 津和野カトリック教会神父館
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/209236
しまね観光ナビ 津和野カトリック教会
https://www.kankou-shimane.com/destination/20244
文化庁 日本遺産ポータルサイト
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story013/spot/

最終更新日: 2026.09.02