飛鳥池工房遺跡:日本最古の貨幣が生まれた古代ハイテク工房

奈良県明日香村の静かな田園風景の下に、日本史を塗り替える大発見が眠っていました。飛鳥池工房遺跡は、7世紀後半に操業した国家レベルの総合工房跡です。ここでは日本最古の鋳造貨幣「富本銭」が製造され、「天皇」という言葉が記された最古の木簡が出土しました。古代日本の高度な技術力と国家形成の歴史を体感できる、知る人ぞ知る文化遺産をご紹介いたします。

飛鳥池工房遺跡とは

飛鳥池工房遺跡は、奈良県高市郡明日香村大字飛鳥に所在する7世紀後半の官営工房跡です。飛鳥寺の寺域の東南の谷あいに位置し、江戸時代に築かれた溜池「飛鳥池」の下にあったことからこの名称がつきました。

1991年に飛鳥池の埋立工事に伴う事前調査で遺跡の存在が確認され、1997年から本格的な発掘調査が開始されました。調査の結果、遺跡は谷筋に沿って南北230m以上にわたることが判明。南側には工房群、北側には関連する官衙(役所)とみられる施設の遺構が発見されました。

工房からは300基以上の炉跡が見つかり、金・銀・銅・鉄などの金属加工、ガラス・水晶・琥珀などの玉類加工、さらに漆器や瓦・鼈甲細工など、業種別に配置された大規模な生産施設であったことが明らかになりました。

史跡指定の理由と文化的価値

飛鳥池工房遺跡は2001年に国の史跡に指定されました。そして2025年3月、出土品が重要文化財への指定を答申されています。この遺跡が特別な価値を持つ理由は、日本史を書き換えるほどの重要な発見がなされたためです。

最も注目される発見は「富本銭」です。工房跡からは富本銭の未成品560点に加え、鋳型や鋳棹など製造関連の遺物が出土しました。これにより、従来日本最古の鋳造貨幣とされてきた和同開珎(708年)より前に、すでに貨幣が製造されていたことが証明されました。『日本書紀』には天武天皇12年(683年)に「今後は必ず銅銭を用いよ」という詔があったことが記されており、この銅銭こそが富本銭であると考えられています。

もう一つの画期的発見は「天皇号木簡」です。「天皇聚露弘■■」と書かれた木簡は、現在確認されている中で「天皇」と記された最古の史料です。同じ地層からは「丁丑年(677年に相当)」と書かれた木簡も出土しており、天武天皇の時代には確実に「天皇」という称号が使用されていたことが判明しました。

見どころと魅力

飛鳥池工房遺跡は、現在その上に建設された奈良県立万葉文化館を通じて見学することができます。

万葉文化館の地下1階にある特別展示室では、富本銭をはじめとする出土品のレプリカや、工房跡の発掘成果が詳しく紹介されています。2024年秋には実物の富本銭が製造地である万葉文化館に里帰りし、特別展が開催されました。

館外では、復原された炉跡群を見学することができます。当時の工房の規模と配置を実感できる貴重な展示です。

この遺跡の魅力は、古代日本の高度な技術力を目の当たりにできることです。金属加工からガラス製造、玉類の加工まで、多岐にわたる専門技術が一か所に集約されていました。日本における本格的なガラス製造は、この飛鳥池工房から始まったとされています。朝鮮半島から渡来した技術者たちの知識と技術が、ここで花開いたのです。

体験と見学のご案内

万葉文化館では、一般展示室と特別展示室を無料で見学できます。観覧料が必要なのは日本画展示室のみです。

海外からの観光客の皆様には嬉しい特典があります。パスポートを提示すると、日本画展示室を含むすべての展示室を無料で観覧できます。

また、館では定期的に「富本銭づくり」のワークショップが開催されています。古代の鋳造技術を体験できる貴重な機会ですので、イベントスケジュールをご確認ください。

万葉文化館では万葉衣装の試着体験も行われており、古代の装束を身にまとって万葉庭園で記念撮影を楽しむこともできます。

周辺観光情報

飛鳥池工房遺跡がある明日香村は「日本のはじまりの地」とも呼ばれ、古代史ゆかりの史跡が点在しています。徒歩やレンタサイクルで巡ることができる周辺スポットをご紹介します。

飛鳥寺は工房遺跡のすぐ北西に位置し、日本最古の本格的な伽藍配置を持つ寺院として知られています。飛鳥大仏(銅造釈迦如来坐像)は609年に造立された日本最古の仏像です。

石舞台古墳は、蘇我馬子の墓とも伝えられる日本最大級の方墳です。約2,300トンの巨石で構成された石室内部に入ることができ、古代の土木技術の粋を体感できます。春には桜、秋には彼岸花が周囲を彩ります。

高松塚古墳とキトラ古墳は、極彩色の壁画が発見されたことで有名です。キトラ古墳壁画体験館「四神の館」では、青龍・白虎・朱雀・玄武の四神像や世界最古の天文図の精密なレプリカを見学できます。

甘樫丘(あまかしのおか)は、大和三山や明日香村の風景を一望できる展望スポットです。蘇我蝦夷・入鹿父子が邸宅を構えていたとされる歴史的な場所でもあります。

Q&A

Q富本銭とは何ですか?なぜ重要なのですか?
A富本銭は、飛鳥池工房遺跡で683年頃に製造された日本最古の鋳造貨幣です。この発見により、従来日本最古とされていた和同開珎(708年)より前に貨幣が製造されていたことが証明され、日本の貨幣史が書き換えられました。天武天皇の国家統一政策の一環として製造されたと考えられています。
Q工房跡の遺構を実際に見ることはできますか?
Aはい、万葉文化館の敷地内で復原された炉跡群を見学できます。また、地下1階の特別展示室では発掘調査の詳しい解説や出土品のレプリカが展示されています。一般展示室と特別展示室は無料で見学可能です。
Q海外からの観光客向けの特典はありますか?
Aはい!外国人観光客の方はパスポートを提示すると、日本画展示室を含むすべての展示室を無料で観覧できます。これは奈良県の減免取り扱い要領に基づく措置で、とてもお得に文化体験ができます。
Q飛鳥池工房遺跡へのアクセス方法を教えてください
A近鉄吉野線「飛鳥駅」から明日香周遊バスで約15分、またはレンタサイクルで約10分です。お車の場合は万葉文化館に無料駐車場があります。大阪・天王寺からは近鉄特急で約40分、急行で約45分で飛鳥駅に到着します。
Qこの古代工房では何が製造されていたのですか?
A飛鳥池工房は総合的な生産施設で、富本銭をはじめ、金・銀・銅・鉄の金属加工品、ガラス製の玉類や装飾品、水晶・琥珀の装身具、鼈甲細工、漆器、瓦などが製造されていました。主に天武天皇から持統天皇の時代(7世紀後半)に操業していたと考えられています。

基本情報

名称 飛鳥池工房遺跡(あすかいけこうぼういせき)
文化財指定 国史跡(2001年指定)、出土品は重要文化財への指定答申(2025年)
操業年代 7世紀後半〜8世紀初頭(天武天皇・持統天皇の時代)
所在地 奈良県高市郡明日香村大字飛鳥(万葉文化館敷地内)
遺跡規模 南北230m以上、300基以上の炉跡を確認
発見の経緯 1991年事前調査で確認、1997年より本格発掘開始
主な出土品 富本銭と鋳型、「天皇」と記された最古の木簡
開館時間 10:00〜17:30(入館は17:00まで)
休館日 毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始
観覧料 特別展示室・一般展示室は無料(外国人観光客はパスポート提示で全館無料)
住所 〒634-0103 奈良県高市郡明日香村飛鳥10
電話 奈良県立万葉文化館:0744-54-1850
座標 北緯34度28分41.2秒、東経135度49分20.1秒

参考文献

飛鳥池工房遺跡 | 明日香村観光ポータルサイト
https://asukamura.com/sightseeing/515/
飛鳥池工房遺跡 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/飛鳥池工房遺跡
奈良県立万葉文化館 公式サイト
https://www.manyo.jp/
飛鳥池遺跡出土品が重要文化財に指定されます|奈良県立万葉文化館
https://www.manyo.jp/news/2025/03/post-194.html
飛鳥池工房遺跡|最古の鋳造貨幣と天皇号木簡が出土した飛鳥時代の官営工房 - 史跡ナビ
https://shisekinavi.com/asukaikekoboiseki/
国営飛鳥歴史公園 公式サイト
https://www.asuka-park.jp/

最終更新日: 2026.01.29

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