火箱岩洞窟:1万年の時を超えて語りかける先人たちの暮らし

山形県高畠町の山腹に、日本の先史時代を物語る貴重な遺跡が眠っています。「火箱岩洞窟(ひばこいわどうくつ)」は、1983年(昭和58年)に国指定史跡に登録された洞窟遺跡です。その名は、洞窟の形が日本の伝統的な暖房器具「火箱」に似ていることに由来します。この洞窟は、縄文時代草創期から古墳時代まで、実に1万年以上もの間、人々の住まいとして使われてきました。

火箱岩洞窟の歴史的価値

火箱岩洞窟は、高畠町北部の時沢集落から北へ約700メートル、大師森山(だいしもりやま)の東斜面中腹、標高約360メートルの地点に位置しています。地元では五指山と呼ばれる山系の一つの尾根にあり、近くには白竜湖(大谷地低湿地)が広がっています。

洞窟は凝灰岩からなり、上下2か所の空間で構成されています。上洞は洞窟というよりも岩陰に近い形状で、下洞は入口幅約4メートル、奥行き約6メートルの規模を持ちます。この下洞が主な居住空間として利用されていました。

なぜ国指定史跡に選ばれたのか

火箱岩洞窟が1983年(昭和58年)4月26日に国指定史跡となった理由は、その考古学的価値の高さにあります。

昭和36年(1961年)から3回にわたって実施された発掘調査により、この洞窟が縄文時代草創期から古墳時代まで、相当長期間にわたって住居として利用されていたことが確認されました。特に重要なのは、縄文草創期に属する古式土器が層位的に確認されたことです。

出土した土器には、隆起線文土器(りゅうきせんもんどき)、爪形文土器(つめがたもんどき)、押奈縄文土器(おしなじょうもんどき)などが含まれています。これらの土器は、縄文時代草創期の土器編年を確立する上で極めて重要な資料となりました。

また、火箱岩洞窟は日向洞窟や一の沢洞窟などの地域と共に「草創期文化圏」を形成する重要な史跡として評価されています。この地域が縄文文化の始まりにおける中核地帯の一つであったことを示す貴重な証拠なのです。

発掘調査で明らかになったこと

火箱岩洞窟の発掘調査は、1960年(昭和35年)の発見後、1961年から1963年にかけて行われました。下洞からは複数の文化層が確認され、各層から異なる時代の遺物が出土しています。

最も深い層からは、日本最古級の土器である縄文草創期の土器が見つかりました。隆起線文土器は、粘土紐を器面に貼り付けて線状の文様を作る技法が特徴です。時代が下るにつれて、この線は細隆起線文、微隆起線文と徐々に細くなっていきます。

爪形文土器は、柔らかい粘土に爪を押し付けて模様をつけたもので、当時の人々の装飾への美意識を垣間見ることができます。これらの土器は、約1万〜1万4千年前の人々が作り出したものであり、世界的に見ても最も古い時代の土器の一つに数えられます。

土器以外にも、石器類が出土しており、当時の人々が狩猟採集を主な生業としていたことがうかがえます。洞窟は季節的な住居、あるいは半定住の拠点として利用されていたと考えられています。

日本最大の洞窟遺跡密集地帯

高畠町の特筆すべき点は、洞窟遺跡の密集度が日本一であることです。この地域には、国指定史跡の洞窟遺跡が4か所存在します。日向洞窟、一の沢洞窟、大立洞窟、そして火箱岩洞窟です。

さらに、尼子洞窟群、観音岩洞窟群など、約14地点にもおよぶ洞窟遺跡群が確認されています。これほど多くの洞窟遺跡が同じ地域に集中している例は、全国的にも稀です。

なぜこの地域に洞窟遺跡が集中しているのでしょうか。第三紀の凝灰岩からなる山体が風化・浸食されて自然洞窟や岩陰が多く形成されたこと、そして近くに大谷地(白竜湖)の低湿地が広がり、食料資源が豊富だったことが理由として挙げられます。南向きに開口する洞窟は日当たりが良く、北風を防げる好条件の住居となりました。

これらの遺跡群は、先史時代の人々がこの地域で1万年以上にわたって暮らしを営んでいたことを物語っています。考古学者たちは、人々が季節ごとに異なる洞窟間を移動しながら生活していたのではないかと推測しています。

火箱岩洞窟の見どころと訪問方法

現在、火箱岩洞窟は文化財保護の観点から一般公開されていません。しかし、この地域の素晴らしい考古学的遺産を体験する方法は他にもあります。

山形県立うきたむ風土記の丘考古資料館は、高畠の洞窟遺跡群を巡る旅の出発点として最適です。「うきたむ」とは、日本書紀に登場する置賜の古地名です。この資料館では、火箱岩洞窟をはじめとする高畠の洞窟遺跡から出土した土器や石器が展示されています。

館内では、縄文時代の竪穴住居に住む親子の生活がジオラマで再現されており、当時の暮らしぶりを視覚的に理解することができます。また、近くの押出遺跡から出土した約5,000年前の「彩文土器」(国重要文化財)は必見です。

資料館の周辺一帯は「まほろば古の里歴史公園」として整備されており、復元された竪穴住居や古墳などを見学することができます。また、比較的アクセスしやすい日向洞窟を訪れれば、実際の洞窟遺跡の雰囲気を体感することも可能です。

周辺の観光スポット

高畠町には考古学遺跡以外にも魅力的な観光スポットが数多くあります。火箱岩洞窟への訪問と合わせて、ぜひ立ち寄っていただきたい場所をご紹介します。

  • 山形県立うきたむ風土記の丘考古資料館:国指定史跡4か所の出土品を展示。縄文時代の生活を再現したジオラマや国重要文化財の彩漆土器は見応えがあります。
  • 安久津八幡神社:貞観2年(860年)創建の歴史ある神社。茅葺きの舞楽殿と美しい三重塔が見どころです。
  • 高畠ワイナリー:高畠町は市町村単位でデラウェアの出荷量日本一。地元産ブドウにこだわったワインの試飲や工場見学が楽しめます。
  • 道の駅たかはた まほろばステーション:高畠の新鮮な農産物や特産品が揃う道の駅。果物の季節には旬のフルーツもおすすめです。
  • 太陽館(高畠駅温泉):JR高畠駅に直結した温泉施設。旅の疲れを癒すのに最適です。
  • 浜田広介記念館:「泣いた赤おに」などで知られる童話作家・浜田広介は高畠町出身。「日本のアンデルセン」と呼ばれた彼の作品世界を体験できます。
  • 亀岡文殊:日本三文殊の一つに数えられる学問の神様。合格祈願に多くの参拝者が訪れます。

おすすめの訪問時期

高畠町は四季を通じて訪れることができますが、季節ごとに異なる魅力があります。

春(4月〜5月)は新緑が美しく、山歩きに最適な季節です。夏(6月〜8月)は緑豊かな森林と、さくらんぼや桃などの果物狩りが楽しめます。秋(9月〜11月)は紅葉とブドウの収穫期。高畠ワイナリーでの試飲もこの時期ならではの楽しみです。冬(12月〜3月)は雪景色に包まれた静謐な雰囲気を味わえますが、山間部へのアクセスが制限される場合があります。

考古資料館は年間を通じて開館しています(月曜・祝日休館)ので、天候に左右されず見学が可能です。

アクセス情報

高畠町へは山形新幹線が便利です。東京駅から山形新幹線「つばさ」で高畠駅まで約2時間10分。高畠駅からは、うきたむ風土記の丘考古資料館まで車で約20分、火箱岩洞窟までは車で約30分です。

お車の場合は、東北中央自動車道の米沢北ICが最寄りのインターチェンジです。洞窟遺跡群は山間部に点在しているため、レンタカーでの移動をおすすめします。

高畠駅には温泉施設「太陽館」が併設されており、新幹線を降りてすぐに温泉を楽しむことができる珍しい駅です。また、駅に隣接するホテルフォルクローロ高畠では、2022年に引退した「とれいゆ つばさ」のコンセプトルームも人気です。

Q&A

Q火箱岩洞窟の中に入ることはできますか?
A現在、火箱岩洞窟は文化財保護のため一般公開されていません。洞窟から出土した遺物は、山形県立うきたむ風土記の丘考古資料館で見学できます。実際の洞窟を見たい方は、比較的アクセスしやすい日向洞窟の見学をおすすめします。
Q火箱岩洞窟の出土品はどのくらい古いものですか?
A最も古い出土品は縄文時代草創期のもので、約1万〜1万4千年前に遡ります。洞窟内には複数の文化層があり、縄文時代草創期から古墳時代(約1,500年前)まで、1万年以上にわたる人々の暮らしの痕跡が残されています。
Q「火箱岩」という名前の由来は何ですか?
A「火箱(ひばこ)」とは、日本の伝統的な暖房器具で、炭火を入れて暖を取るための箱のことです。洞窟の形がこの火箱に似ていることから、地元でそう呼ばれるようになりました。
Q高畠町の洞窟遺跡群の特徴は何ですか?
A高畠町には国指定史跡の洞窟遺跡が4か所(日向洞窟、一の沢洞窟、大立洞窟、火箱岩洞窟)あり、さらに約14地点の洞窟遺跡群が確認されています。これほど洞窟遺跡が密集している地域は全国的にも珍しく、日本最大級の洞窟遺跡密集地帯といえます。ここで出土した土器は、縄文時代草創期の土器編年を確立する上で重要な役割を果たしました。
Q公共交通機関だけで訪問できますか?
A山形新幹線で高畠駅まではアクセスできますが、火箱岩洞窟や考古資料館へは駅から離れているため、タクシーまたはレンタカーの利用をおすすめします。考古資料館は高畠駅から車で約20分です。洞窟遺跡群を効率よく巡るには、レンタカーがあると便利です。

基本情報

名称 火箱岩洞窟(ひばこいわどうくつ)
指定区分 国指定史跡(昭和58年4月26日指定)
時代 縄文時代草創期〜古墳時代(約1万4千年前〜6世紀頃)
所在地 山形県東置賜郡高畠町大字時沢字大師森1867-1
標高 約360メートル
洞窟規模 下洞:入口幅約4m、奥行き約6m
地質 凝灰岩(第三紀)
公開状況 非公開
お問い合わせ 高畠町教育委員会 社会教育課文化係
電話:0238-52-4472
関連施設 山形県立うきたむ風土記の丘考古資料館
〒992-0302 山形県東置賜郡高畠町大字安久津2117
電話:0238-52-2585
資料館開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
資料館休館日 月曜日、祝日(5月5日・11月3日を除く)、年末年始
資料館入館料 大人:200円 / 大学生:100円 / 高校生以下:無料
アクセス JR山形新幹線 高畠駅から車で約30分
東北中央自動車道 米沢北ICから車で約25分

参考文献

火箱岩洞窟|やまがたへの旅 - 山形県の公式観光・旅行情報サイト
https://yamagatakanko.com/attractions/detail_841.html
山形の宝 検索navi – 火箱岩洞窟
https://www.pref.yamagata.jp/cgi-bin/yamagata-takara/?m=detail&id=1130
山形県立うきたむ風土記の丘考古資料館 常設展示
https://ukitamu.pupu.jp/
日向洞窟|文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/204773
高畠町公式ホームページ – 考古資料館
https://www.town.takahata.yamagata.jp/soshikiichiran/shakaikyoikuka/oshirase/6/499.html
日向洞窟 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E5%90%91%E6%B4%9E%E7%AA%9F
縄文土器 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%84%E6%96%87%E5%9C%9F%E5%99%A8
まほろばの里たかはた《高畠町観光協会》公式ホームページ
https://takahata.info/

最終更新日: 2026.01.27

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