古勢起屋本館:時が降り積もる宿
山形県の秘境、銀山温泉。その中心を流れる銀山川の北岸に佇む古勢起屋本館は、大正から昭和初期にかけての日本建築の変遷を今に伝える貴重な文化財です。大正3年(1914年)に創業し、昭和7年(1932年)に増築されたこの木造三階建ての温泉旅館は、長い年月を経て令和4年(2022年)7月、国の登録有形文化財として新たな命を吹き込まれました。
この建物は、1920〜30年代にフランスで発祥しアメリカで栄えたアールデコ様式を、日本の職人たちが和の感性で再構築した「ジャパンデコ」の傑作です。西洋の幾何学的なデザインと日本の伝統的な建築技術が見事に融合し、大正モダンの息吹を今に伝える建築遺産となっています。
日本の文化遺産としての価値
古勢起屋本館が登録有形文化財に指定された理由は、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準を満たしているためです。入母屋造銅板葺で各階に庇を巡らす構造は、銀山温泉の旅館建築の典型を示しており、一階表通り側に浴室を設ける配置は当地旅館の特徴的な様式を今に伝えています。
客室は元来、床構え付和室を並べる伝統的な配置を保ち、玄関及び塔屋状の構えと、銀山川を望む二・三階の縁は、歴史的温泉街の風情を形成する重要な要素となっています。これらの建築的特徴により、伝統産業施設のカテゴリーで文化財として認められました。
特筆すべきは、改修における伝統工法へのこだわりです。できる限り古材を再利用し、日本の伝統工法である「木組み」の技を用いて、釘を使わない組み方で当時そのままの佇まいを再現。新材を使用した部分も、時が育てる味わいを尊重し、着彩等を行わず色の違いをあえてそのまま残すという、建物の真正性を重視した修復が行われました。
建築の特徴と現代の快適性
全14室の客室は、川側と山側に面して配置され、ツインベッドのあるモダンな和洋室と、歴代の職人の技とこだわりをできるだけそのままに残した純和室の2タイプを用意。川側の客室からは、昔ながらの歪みガラスの格子窓越しに温泉街を眺めることができ、夏場には縁側欄干として開放することで、より一層の開放感を楽しめます。
館内の中心となるロビーラウンジは、土間と囲炉裏をレイアウトした特徴的な空間です。栗の大きな一枚板のテーブルが置かれた囲炉裏の奥には、温泉池のある中庭の景色が広がり、伝統的な組子細工や昔ガラスを用いたステンドグラスなど、随所に昔ながらの意匠が残るレトロモダンな空間となっています。
黒と白、二つの物語を持つ温泉
古勢起屋本館の浴場は、宿と銀山温泉の歴史をテーマにした2つのユニークなお風呂が特徴です。「硯風呂」は、書家でもあった先代の書室跡に造られたお風呂で、湯船には高級感あふれる硯石を使用。深い黒を基調とした格調高い和の佇まいで、壁には先代の作品を配し、アートな雰囲気を演出しています。
「大正風呂」は、かつて銀山温泉の源泉が銀山川の川底から湧出していた頃の様式を再現。湯船を源泉に近い階段を降りた低い場所に設け、銀山温泉に降る雪を模した量感あふれるレトロな白いタイル貼りで、昔ながらの佇まいを再現した風雅なお風呂となっています。
オールインクルーシブで楽しむ温泉街グルメ
古勢起屋本館は、銀山温泉で初めてオールインクルーシブシステムを導入しました。ご滞在中の飲食すべてがご宿泊料金に含まれており、夕食は温泉街の「野川亭」で山形黒毛和牛のローストを中心としたコース料理を、または「湯けむり食堂しろがね」で地元食材を活かした料理をお楽しみいただけます。チェックアウト後も正午までカフェ利用が可能で、予算を気にすることなく、古き良き湯治場時代の「銀ぶら」を現代風に楽しむことができます。
大正ロマン薫る温泉街散策
古勢起屋本館を一歩出れば、そこは日本屈指のフォトジェニックな温泉街。車の乗り入れが規制された石畳の通りには、三層四層の木造旅館が立ち並び、夕暮れ時にはガス灯の温かな光が街を包みます。NHK連続テレビ小説「おしん」の舞台となり、ジブリ映画「千と千尋の神隠し」を彷彿とさせる景観は、国内外から多くの観光客を魅了しています。
温泉街入口付近の足湯「和楽足湯(わらしゆ)」、共同浴場「しろがね湯」、各旅館の外壁を彩る鏝絵(こてえ)、レトロなカフェや土産物店など、見どころは尽きません。特に建物の外壁に施された鏝絵は、左官職人が漆喰を伸ばすコテで描いた装飾で、これほど多くの建物で見られるのは銀山温泉ならではの特徴です。
自然の恵みと歴史遺産
温泉街の奥には自然豊かな白銀公園が広がり、その入口には落差22メートルの白銀の滝があります。滝壺の近くまで歩いて行くことができ、マイナスイオンをたっぷり浴びながら、新緑、紅葉、雪景色と四季折々の美しさを楽しめます。
さらに15分ほど歩くと、銀山温泉の名前の由来となった延沢銀山遺跡があります。室町時代の1456年に発見され、江戸時代には石見銀山、生野銀山と並ぶ日本三大銀山の一つとして栄えましたが、1689年(元禄2年)の大崩落により廃山。現在は国の史跡に指定され、ライトアップされた坑道内を無料で見学できます。
周辺には山の神神社(子宝・安産・夫婦円満)、鬼子母神(子供の安全)、延命地蔵(健康長寿)など、様々なご利益があるとされるパワースポットも点在しています。
季節ごとの楽しみ方
銀山温泉は四季それぞれに異なる魅力があります。冬(12月〜3月)は雪化粧した温泉街が最も美しく、幻想的な雰囲気を楽しめますが、道路状況に注意が必要です。春(4月〜5月)は桜が咲き、散策に最適な気候。夏(6月〜8月)は涼しい山間の気候で避暑地として最適、ホタルも見られます。秋(9月〜11月)は渓谷全体が紅葉に染まり、圧巻の景色が広がります。
なお、2024年12月20日から2025年3月31日までの期間は、日帰り客を対象に交通制限と入場制限が実施され、入場制限時間帯は1時間あたり100人までのチケット制となりますので、事前の確認が必要です。
よくある質問
- 東京から古勢起屋本館へのアクセスは?
- 山形新幹線で大石田駅まで約3時間20分、そこからバスで銀山温泉まで約40分です。宿からバス停まで送迎サービスがあります。冬季は国道347号線・県道29号線が通行止めになることがあるのでご注意ください。
- オールインクルーシブシステムの特徴は?
- 宿泊料金に滞在中のすべての飲食が含まれています。夕食は提携レストランで、ロビーラウンジのドリンクはいつでも自由に、チェックアウト後も正午までカフェ利用が可能で、追加料金を気にせず温泉街の食を満喫できます。
- 延沢銀山遺跡は通年見学可能ですか?
- ライトアップされた坑道は春から晩秋まで見学可能です。冬季は積雪のため通行できません。入場無料で所要時間は約20分、日本の鉱山の歴史を体感できる貴重なスポットです。
- 館内や温泉街での写真撮影は可能ですか?
- 銀山温泉全体と古勢起屋本館の公共エリアでの撮影は歓迎されています。特にガス灯が灯る夕暮れ時は絶好の撮影タイムです。ただし、他のお客様のプライバシーには配慮し、館内の指示に従ってください。
- 姉妹館の銀山荘の露天風呂は利用できますか?
- 古勢起屋本館には露天風呂がありませんが、姉妹館の銀山荘の露天風呂をご利用いただけます。自然に囲まれた開放的な露天風呂で、銀山温泉の湯をお楽しみください。
基本情報
| 名称 | 本館古勢起屋(ほんかんこせきや) |
|---|---|
| 所在地 | 〒999-4333 山形県尾花沢市大字銀山新畑412 |
| 電話番号 | 0237-28-2322(代表) |
| 創業 | 大正3年(1914年)、令和4年(2022年)7月リニューアルオープン |
| 文化財指定 | 登録有形文化財(建造物) |
| 建築様式 | 木造三階建、アールデコ様式を和の感性で再構築したジャパンデコ |
| 客室数 | 14室 |
| 施設 | ロビーラウンジ(囲炉裏・土間)、硯風呂、大正風呂 |
| チェックイン/アウト | 15:00 / 10:00 |
参考文献
- 文化遺産オンライン - 古勢起屋本館
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/605109
- 本館古勢起屋 公式ホームページ
- https://www.kosekikan.com/
- 銀山温泉 公式観光サイト
- https://www.ginzanonsen.jp/yado/honkankosekiya.html
- やまがたへの旅 - 山形県公式観光サイト
- https://yamagatakanko.com/attractions/detail_2832.html
- 銀山荘グループ プレスリリース
- https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000092780.html
最終更新日: 2025.11.08
近隣の国宝・重要文化財
- 能登屋旅館本館
- 山形県尾花沢市大字銀山新畑446
- 延沢銀山遺跡
- 尾花沢市大字銀山新畑・大字六沢・大字延沢
- 中沢川河原沢堰堤
- 山形県尾花沢市大字押切字柳平
- 中沢川崩下流堰堤
- 山形県尾花沢市大字押切字柳平
- 魚取沼テツギョ生息地
- 加美郡加美町
- 中沢川崩上流堰堤
- 山形県尾花沢市大字押切字柳平
- 中沢川東山堰堤
- 山形県尾花沢市大字押切字柳平
- 東根の大ケヤキ
- 東根市東根
- 旧有路家住宅(山形県最上郡最上町)
- 山形県最上郡最上町大字堺田59番地の3
- 松本家住宅(宮城県加美郡小野田町)
- 宮城県加美郡加美町字南小路11番地