須佐高山の磁石石:方位磁針を狂わせる山口県の天然の驚異
山口県萩市の須佐地区、標高532.8メートルの高山(こうやま)の山頂に、日本でも極めて珍しい地質学的な宝が眠っています。「須佐高山の磁石石(すさこうやまのじしゃくいし)」は、方位磁針を狂わせるほどの強力な天然の磁力を持つ斑れい岩の巨石群です。わずか10数センチメートル移動しただけで磁針の向きが反転することもあるほどの強い磁性は、世界的にも珍しい自然現象として、昭和11年(1936年)に国の天然記念物に指定されました。須佐湾と日本海を一望する絶景とともに、目に見えない自然の力を体感できる特別なスポットです。
磁石石とは何か
高山は、須佐湾の北東にそびえる山で、ほぼ全山が約1300万年前にマグマが地下深くでゆっくりと冷え固まってできた斑れい岩(はんれいがん)という深成岩の一種からなっています。斑れい岩は黒っぽい色をした岩石で、高山の山頂部にはこの岩石がかなり広範囲にわたって露出しています。
この山頂部の斑れい岩が異常なほど強い磁気を帯びていることが、この場所の最大の特徴です。磁石石の近くに磁針(方位磁石)を近づけると、磁針が引きつけられるように大きく振れます。磁針をわずか10数センチメートル移動させるだけで、磁針の向きが完全に反転してしまうことさえあります。さらに、地面に落ちている小さな石の破片を磁針に近づけても、磁針が大きく振れるほどです。磁力は山頂に近いほど強く、頂上を離れるにしたがって次第に弱まっていきます。
注目すべきは、この岩石が磁鉄鉱(じてっこう)ではないという点です。磁鉄鉱でない岩石がこれほど強い磁性を帯びることは極めて珍しい現象で、度重なる落雷によって大電流が流れ、岩石中の鉄分を含む鉱物が強く磁化されたと考えられています。この自然現象の希少性こそが、磁石石の学術的価値を高めています。
天然記念物に指定された理由
須佐高山の磁石石は、昭和11年(1936年)12月16日に国の天然記念物に指定されました。指定の理由は、高山山頂に露出する石英斑れい岩の各岩塊が、あたかも天然の磁石のように強い磁性を有していること、そして磁鉄鉱ではない岩石がこのように強い磁性を帯びることが極めて珍しいことにあります。
指定区域は萩市字高山南平および高山北平にわたり、山頂部の広範囲な磁性岩露出帯が保護の対象となっています。落雷による岩石の磁化メカニズムを研究する上でも貴重な学術資料であり、日本の自然遺産として文化財保護法のもとで保全されています。
須佐之男命と磁石石の伝説
「須佐」という地名は、日本神話の重要な神・須佐之男命(すさのおのみこと)に由来しています。伝承によると、須佐之男命が航海の途中で船の位置がわからなくなった際、船中にあった磁石が高山の磁石石の方角を指し示したことで、無事に須佐湾に入港することができたとされています。この故事にちなんで、この地は「須佐」と呼ばれるようになったと言い伝えられています。
高山の中腹にある黄帝社(こうていしゃ)は、中国の伝説的帝王・黄帝を祀った珍しい神社で、古くから船乗りたちの厚い信仰を集めてきました。北前船が日本海を往来した時代、人々は出航前にこの山を仰ぎ拝礼したと伝えられています。黄帝社に奉納された船絵馬は山口県の指定文化財であり、そのうち49点は平成22年(2010年)に「須佐宝泉寺・黄帝社奉納船絵馬」として国の重要有形民俗文化財に指定されています。
見どころ・楽しみ方
磁力を体感する
訪問の最大の楽しみは、方位磁石を持参して山頂の岩に近づけ、磁針の異常な動きを自分の目で確認することです。岩の表面に沿って磁石をゆっくり動かすと、磁針が揺れ、傾き、反転する様子を観察できます。スマートフォンのコンパスアプリでも反応を確認できますが、アナログの方位磁石のほうがより劇的な変化がわかりやすいでしょう。目に見えない力が「見える」瞬間は、大人にとっても子どもにとっても忘れられない体験になるはずです。
山頂からのパノラマ展望
山頂の展望台からは、須佐湾の入り組んだ海岸線、日本海の水平線、そして幾重にも重なる山並みを一望できます。晴れた日には、深い青色の海と緑豊かな山々のコントラストが格別です。山頂には一等三角点と山口県内唯一の天測点(てんそくてん)もあり、測量・天文の歴史にも触れることができます。
風穴
山頂の北側をわずかに下ると、火山性の岩石の隙間から冷風が吹き出す「風穴」があります。夏場でもひんやりとした空気が流れ、近くの笠山と同様の自然現象を体験できます。
黄帝社と船絵馬
山頂へ向かう途中で分岐する道を進むと、黄帝社に到着します。石の狛犬の台座が船の形をしており、西の大陸を向いている珍しい造形が特徴です。何世紀にもわたる日本海沿岸の海運・交易の歴史を物語る国指定の船絵馬とあわせて、海と山に育まれた須佐の歴史を感じることができます。
周辺情報
須佐地区は地質学の宝庫と称される場所で、磁石石のほかにも見応えのある自然スポットが点在しています。2018年には高山や須佐ホルンフェルスを含む「萩ジオパーク」が日本ジオパークに認定され、地域全体の地質遺産としての価値が認められました。
須佐ホルンフェルス
高山から車で約15分の距離にある須佐ホルンフェルスは、灰白色と黒色の美しい縞模様を見せる高さ約12メートルの海食崖です。高山の斑れい岩と同じマグマ活動によって生まれたもので、「日本の地質百選」「21世紀に残す日本の風景遺産100選」にも選ばれています。駐車場から遊歩道(約500メートル)を歩いて断崖の下まで降りることができ、真下から見上げる地層の迫力は圧巻です。
須佐湾遊覧船(ジオクルージング)
4月下旬から10月頃にかけて、地元の漁師が操縦するイカ釣り漁船で須佐湾の海食崖を間近に巡る遊覧船が運航されています。海上から見るホルンフェルスの断崖は陸上からとはまた異なる迫力があり、須佐湾自体が国指定の名勝・天然記念物であることを実感できる体験です。
畳ヶ淵・龍鱗郷
内陸部にある畳ヶ淵(たたみがふち)は、河床に亀甲状の柱状節理が並ぶ景勝地で、まるで石畳のような不思議な光景が広がっています。近くの龍鱗郷(りゅうりんきょう)は、六角形の玄武岩柱が龍の鱗のように並ぶ岩肌が特徴で、山口県の天然記念物に指定されています。いずれも萩ジオパークのジオサイトとして見学できます。
須佐男命いか
須佐は新鮮なイカの産地としても有名で、ブランドイカ「須佐男命いか(すさみこといか)」は、まだ透き通るほど新鮮な状態で活き造りとして味わうことができます。JR須佐駅にある「いかマルシェ」では、地元の海産物や特産品を購入できます。須佐ならではの食の楽しみもぜひ体験してください。
Q&A
- 磁石石を体験するには方位磁石を持参する必要がありますか?
- はい、方位磁石(コンパス)の持参を強くお勧めします。磁石がなければ、岩石は一見普通の石に見え、磁力の効果を実感することができません。スマートフォンのコンパスアプリでも反応を確認できますが、アナログの方位磁石のほうがより劇的な変化を実感しやすいです。安価なものでも十分に効果を確認できます。
- 公共交通機関でアクセスできますか?
- 最寄り駅はJR山陰本線の須佐駅です。須佐駅から山頂付近の駐車場までは車で約20〜25分ですが、山頂への定期路線バスは運行されていないため、レンタカーまたはタクシーの利用が必要です。駐車場からは階段のある遊歩道を徒歩約5分で磁石石に到着します。
- 入場料はかかりますか?
- 無料です。山頂手前に無料の駐車場があり、トイレも設置されています。いつでも自由に見学することができます。
- おすすめの訪問時期はいつですか?
- 磁石石自体は通年見学可能ですが、天候が安定し展望が開ける晩春から秋(4月〜11月頃)がおすすめです。須佐湾遊覧船(ジオクルージング)と組み合わせる場合は、運航期間の4月下旬〜10月頃に合わせるとよいでしょう。
- 須佐ホルンフェルスと一緒に見学できますか?
- ぜひ併せて訪問されることをお勧めします。須佐ホルンフェルスは高山から車で約15分の距離にあり、同じマグマ活動から生まれた地質遺産です。両方のサイトをゆっくり巡るには半日程度の時間を見ておくとよいでしょう。
基本情報
| 名称 | 須佐高山の磁石石(すさこうやまのじしゃくいし) |
|---|---|
| 指定区分 | 国指定天然記念物(昭和11年〈1936年〉12月16日指定) |
| 所在地 | 山口県萩市須佐高山 |
| 標高 | 532.8メートル(高山山頂) |
| 岩石の種類 | 斑れい岩(石英斑れい岩)、約1300万年前に形成 |
| 入場料 | 無料 |
| アクセス | JR山陰本線 須佐駅から車で約20〜25分、山頂手前の駐車場から遊歩道を徒歩約5分 |
| 駐車場 | 山頂手前に無料駐車場あり、トイレ完備 |
| お問い合わせ | 萩市須佐総合事務所 産業振興部門 TEL: 08387-6-2219 |
| 関連ジオパーク | 萩ジオパーク(2018年認定) |
参考文献
- 須佐高山の磁石石 — 山口県の文化財
- https://bunkazai.pref.yamaguchi.lg.jp/sp/bunkazai/summary.asp?mid=30048
- 須佐高山の磁石石 — 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/139537
- 高山(磁石石) — おいでませ山口へ(山口県観光連盟)
- https://yamaguchi-tourism.jp/spot/detail_13844.html
- 国指定天然記念物 高山磁石石 — 須佐おもてなし協会
- http://kanko.susa.in/weblog/shinwa/kouyamajishakuishi/
- 高山 (萩市) — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%B1%B1_(%E8%90%A9%E5%B8%82)
- 須佐ホルンフェルス — 萩市観光協会
- https://www.hagishi.com/search/detail.php?d=1100198
- 須佐ホルンフェルス — 萩ジオパーク
- https://hagi-geopark.jp/for-school/program/out-susa-hornfels/
最終更新日: 2026.03.02
近隣の国宝・重要文化財
- 須佐湾
- 萩市
- 白須たたら製鉄遺跡
- 阿武郡阿武町
- 旧小川村役場庁舎
- 山口県萩市大字中小川字三明中620-1
- 新比惠家住宅主屋
- 島根県益田市小浜町429他
- 旧堀氏庭園
- 鹿足郡津和野町
- 中須東原遺跡
- 島根県益田市
- 櫛代賀姫神社本殿
- 島根県益田市久城町963-1他
- 絹本著色益田元祥像〈狩野松栄筆〉
- 益田市有明町5-15
- 島田家住宅酒蔵
- 島根県益田市乙吉町イ455-2
- 紙本著色益田兼尭像〈雪舟ノ印アリ〉
- 島根県益田氏有明町5番15号