5000年の時を超えて蘇った縄文の至宝

南アルプスの麓、山梨県南アルプス市の大地に約5000年もの間眠り続けていた縄文時代の宝物があります。1992年(平成4年)、工業団地造成事業に伴う発掘調査によって、驚くべき発見がもたらされました。それが「鋳物師屋遺跡」です。ここから出土した品々は、その後イギリスの大英博物館、イタリア・ローマ市立展示館、フランス・パリの日本文化会館など、世界の名だたる博物館で展示され、縄文文化の素晴らしさを世界に伝えてきました。

なぜ重要文化財に指定されたのか

鋳物師屋遺跡出土品が国の重要文化財に指定された理由は、その類まれな保存状態と学術的価値にあります。通常、縄文時代の遺物は破片として発見されることがほとんどですが、この遺跡では土石流によって集落がそのまま「パック」されたため、完形に近い状態の土器が数多く出土しました。

1995年(平成7年)6月15日、縄文時代中期中葉の土器類、石器類、土偶、耳飾などの土製品類など計205点が一括して国の重要文化財に指定されました。特筆すべきは、直径130メートルの範囲に広場を中心としたドーナツ状に配置された32軒の竪穴住居跡が発見され、当時の集落の全容がほぼ解明されている点です。扇状地に存在する縄文時代の集落遺跡は調査例が少なく、当時の暮らしぶりを解明する上で非常に重要な遺跡といえます。

二大スター:ラヴィとぴーす

205点の重要文化財の中でも、特に世界的な注目を集める二つの逸品があります。

子宝の女神ラヴィ(円錐形土偶)

高さ約25.5センチメートル、円錐形の胴体を持つこの土偶は、縄文時代の土偶の中でも大型で、しかも非常に良好な保存状態で発見されました。内部は中空で、自立できる構造になっています。

最大の特徴は、その姿勢にあります。左手を大きく膨らんだお腹にそっと添え、右手を腰にあてた姿は、まさに妊婦さんがお腹の赤ちゃんを大切に守っている様子そのもの。乳房が表現され、お腹には縄文土偶特有の「対象弧刻文」が施されています。平均寿命が30代だったといわれるこの時代、元気な赤ちゃんとお母さんの健康と無事を祈る縄文人の切実な願いが込められていたのでしょう。

2015年(平成27年)8月、市民投票により愛称が「子宝の女神 ラヴィ」に決定。「ラヴィ」はフランス語で「命」を意味する言葉です。同年の「全国どぐキャラ総選挙」では見事1位に輝き、縄文時代を代表する土偶としての地位を確立しました。

人体文様付有孔鍔付土器(ぴーす)

高さ54.8センチメートルのこの土器は、口縁部に小穴が並び、鍔(つば)状の突起が巡る独特の形状を持っています。しかし最大の見どころは、土器の表面に張り付くように表現された人体文様です。

この人物は片手を高く上げ、大きく口を開け、まるで歌いながら踊っているかのような姿をしています。5000年の時を超えて、私たちに笑顔で語りかけているようにも見えるユーモラスな表情は、多くの人々を魅了してきました。

有孔鍔付土器の用途については諸説あります。太鼓の皮を張るための穴という説もありますが、遺跡からヤマブドウやニワトコの実が出土していることから、果実酒醸造時の空気穴だったという説が有力視されています。

2022年には愛称「ぴーす」が決定。3本指がピースサインに見えること、そして「ラヴィ&ぴーす(LAVIE & PEACE)」として「命と平和」のメッセージを発信できることから選ばれました。現在、中学校歴史教科書の表紙も飾り、全国の中学生に縄文文化の魅力を伝えています。

世界を巡った縄文の使者たち

鋳物師屋遺跡出土品は、1995年の重要文化財指定以降、世界各地の名だたる博物館で展示されてきました。その足跡をたどると、縄文文化が世界でいかに高く評価されているかがわかります。

  • 1995年(平成7年):イタリア・ローマ市立展示館
  • 1997年(平成9年):マレーシア国立博物館
  • 2001年(平成13年):イギリス・大英博物館
  • 2002年(平成14年):韓国・国立中央博物館
  • 2006年(平成18年):カナダ・国立モントリオール博物館
  • 2009年(平成21年):イギリス・大英博物館(2回目)
  • 2018年(平成30年):フランス・パリ日本文化会館(Japonismes2018「縄文」展)

まさに日本縄文文化を代表する遺物として、世界にその魅力を発信し続けています。

最新研究で明らかになる縄文人の暮らし

鋳物師屋遺跡からは、最先端の研究手法により新たな発見が相次いでいます。土器片に残された圧痕(植物の種子などが押し付けられた跡)の調査から、ダイズ、アズキ、エゴマの痕跡が発見されました。さらに山梨県では初となるニワトコの痕跡も確認され、縄文人の食生活や植物利用に関する理解が深まっています。

これらの発見は、縄文人がかつて考えられていた以上に高度な植物栽培や加工技術を持っていた可能性を示唆しており、日本の先史時代研究に重要な知見をもたらしています。

ふるさと文化伝承館で本物に出会う

鋳物師屋遺跡出土品のすべて205点は、南アルプス市ふるさと文化伝承館(愛称「み・な・で・ん」)で常設展示されています。2019年(令和元年)5月にリニューアルオープンしたこの施設では、世界の博物館を巡った本物の縄文の至宝を、なんと無料で間近に鑑賞できます。

2階展示室は縄文時代以前の資料に特化したスペースで、ラヴィとぴーすは特設のガラスケースに展示されています。大英博物館で展示された同じ本物を、混雑なくじっくりと鑑賞できる贅沢な体験が待っています。

館内では縄文土器の立体パズル、塗り絵、火起こし体験なども楽しめ(一部事前相談が必要)、お子様から大人まで五感を使って縄文時代を体感できます。ミュージアムショップでは「子宝の女神ラヴィ」グッズも充実。ぬいぐるみ、野焼きレプリカ、甲州印伝の名刺入れなど、ここでしか手に入らないオリジナル商品が揃っています。

周辺の見どころ

ふるさと文化伝承館は「湧暇李の里」内にあり、天然温泉も併設されています。縄文ロマンに浸った後は、ゆったりと湯に浸かってリフレッシュするのもおすすめです。南アルプス市周辺には他にも魅力的なスポットが点在しています。

  • 北岳:標高3,193メートル、富士山に次ぐ日本第2位の高峰。本格的な登山を楽しめます
  • フルーツ狩り:南アルプス市は日本一の「すもも」生産地。さくらんぼ、もも、ぶどう、キウイなど季節のフルーツ狩りが楽しめます
  • 安藤家住宅:築300年以上の国指定重要文化財の古民家。伝統的な甲州の農家建築を見学できます
  • 南アルプスユネスコエコパーク:生物多様性豊かな自然環境が世界的に認められています
  • 櫛形山:アヤメの群生地として知られ、ハイキングに最適です
  • 地元ワイナリー:縄文人も果実酒を造っていたかもしれない土地で、現代のワインを味わってみてはいかがでしょうか

Q&A

Qラヴィやぴーすは常に展示されていますか?
A基本的に常設展示されていますが、全国の博物館への貸し出しにより不在となる場合があります。お出かけ前に公式ウェブサイトやSNS(Facebook、Twitter、Instagram)で最新情報をご確認ください。レプリカが展示されている場合もございます。
Q写真撮影は可能ですか?
A展示室内での個人的な写真撮影は基本的に可能です。ただし、フラッシュ撮影は貴重な文化財保護のためご遠慮ください。特別展示期間中は制限がある場合がありますので、スタッフにお尋ねください。
Q子どもでも楽しめますか?
Aはい、お子様にもお楽しみいただけます。縄文土器の立体パズル、塗り絵、各種ゲームなど、年齢を問わず楽しめる体験コーナーがあります。ラヴィのキャラクターグッズも人気です。火起こし体験や土偶作りなどは団体様向けに別途ご相談を承っています。
Q駐車場はありますか?
Aはい、「湧暇李の里」の無料駐車場をご利用いただけます。普通車で十分な台数が駐車可能です。
Q見学にはどのくらいの時間がかかりますか?
Aじっくりご覧いただく場合で1〜2時間程度です。体験コーナーやミュージアムショップもお楽しみになる場合は、さらにお時間をとっていただくことをおすすめします。スタッフによる展示案内も行っておりますので、お気軽にお声がけください。

基本情報

正式名称 山梨県鋳物師屋遺跡出土品(やまなしけんいもじやいせきしゅつどひん)
文化財指定 国指定重要文化財(1995年〈平成7年〉6月15日指定)
構成点数 205点(土器類30個、土偶残欠23個、土製耳飾1個、土製円盤102個、石器類46個など)
時代 縄文時代中期中葉(約5000年前 / 紀元前3000〜2000年頃)
所蔵・展示施設 南アルプス市ふるさと文化伝承館(愛称:み・な・で・ん)
住所 〒400-0205 山梨県南アルプス市野牛島2727「湧暇李の里」内
開館時間 午前9時30分〜午後4時30分
休館日 毎週木曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始
入館料 無料
電話 055-282-7408
アクセス 【電車・バス】JR中央線甲府駅より山梨交通バス芦安方面行き「野牛島」バス停下車、徒歩約10分 / JR竜王駅よりタクシー約10分【車】中部横断自動車道「白根IC」より約5分

参考文献

鋳物師屋遺跡出土品 - 南アルプス市公式ウェブサイト
https://www.city.minami-alps.yamanashi.jp/docs/imojiya_iseki.html
山梨県鋳物師屋遺跡出土品 - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/159631
ふるさと文化伝承館 - 南アルプス市公式ウェブサイト
https://www.city.minami-alps.yamanashi.jp/sisetsu/shisetsu/bunkazai-densyokan/
鋳物師屋遺跡 - 文化財Mなび(南アルプス市文化財ナビゲーション)
https://103.route11.jp/?ms=2&mc=36&mi=254
鋳物師屋遺跡 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/鋳物師屋遺跡
人体文様付有孔鍔付土器 - 縄文ドキドキ会
https://jomondoki.com/jomon-picturebook/jintaimonyou-yuukou-tsubatsuki-doki/
土偶の世界「子宝の女神 ラヴィ」- 文化遺産の世界
https://www.isan-no-sekai.jp/report/6196

最終更新日: 2026.01.27

近隣の国宝・重要文化財